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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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カールは馬車に乗ってからも不安でいっぱいだった。
エリザベートは普段と変わらないように振る舞っているが、食欲は落ちているし、ぼうっとしていることが増えている。侍女が呼びかけても反応しないことが度々あるという。侍医長は辛いことから目を背ける為の自衛本能ではないかと言っていた。
こんな時に傍を離れたくないが、これも国王としてどうしても外せない公務だった。
それに今回の旅程は詰められるだけ詰めている。
本来であれば片道3日掛かるところを可能な限り休憩を省いて2日で着くようにしているのだ。王領に着いてからも、いつもであれば王領を任せている代官の迎えを受け、港の管理長官や拡張工事の指揮官なども招いて晩餐を摂るものだが、到着が何時になるかわからないので待たないように伝えてある。
開港式の後は交流の時間を設ける為にもう一泊することになっているが、それでも翌朝早朝には発つと告げていた。
そう、だからいくら離れがたくてもエリザベートのところで愚図愚図している暇はなかったのだ。
唯でさえ極力休憩を省いているのに、出発が遅くなれば遅くなるほど道程を急がなければならなくなる。侍従たちはさぞヤキモキしていただろう。
カールは息をついた。
一人きりの馬車では不安ばかりが押し寄せてくる。
こんな時には仕事でもして気を紛らわせたいが、馬車の中で読むつもりだった書類はマクロイド公爵にすべて取り上げられてしまった。激務を続けるカールがせめて馬車の中でくらい休めるようにという心遣いだったが、今のカールには逆効果だ。
結局カールは眠ることもできずに不安に苛まれたままジリジリと王領への道を進むことになった。
王領への道行きは良好だったと思う。
出発時間の遅れはあったが一泊した宿の滞在時間が短くなったくらいで二日目の夜には王領の城に着くことができた。ここから大変なのは同行した侍従たちで、持参した荷物をてきぱきと運び込んでいく。
城を任せる家令の挨拶を受けたカールは用意された軽食を食べ、さっと湯を浴びて寝ることにした。
ここで働く者たちもエリザベートのことは良く知っているし、カールが側妃を娶ったことも知っている。
だけど何も聞いてこないのは王家に仕える者として流石と言えるだろう。
カールの抱える不安が拭えることはないが、余計なことに気を回さずに済んだのはカールにとって幸いだった。
翌朝早く起きたカールは侍従が起こしにくる時間までにエリザベートへ手紙を書いた。
『愛している。早く会いたい。リーザがいないと淋しい』といったことがつらつら書かれた手紙がエリザベートの元へ届くのは翌日になる。エリザベートの返事は帰りの途中の宿で受け取ることになるだろう。
エリザベートは普段と変わらないように振る舞っているが、食欲は落ちているし、ぼうっとしていることが増えている。侍女が呼びかけても反応しないことが度々あるという。侍医長は辛いことから目を背ける為の自衛本能ではないかと言っていた。
こんな時に傍を離れたくないが、これも国王としてどうしても外せない公務だった。
それに今回の旅程は詰められるだけ詰めている。
本来であれば片道3日掛かるところを可能な限り休憩を省いて2日で着くようにしているのだ。王領に着いてからも、いつもであれば王領を任せている代官の迎えを受け、港の管理長官や拡張工事の指揮官なども招いて晩餐を摂るものだが、到着が何時になるかわからないので待たないように伝えてある。
開港式の後は交流の時間を設ける為にもう一泊することになっているが、それでも翌朝早朝には発つと告げていた。
そう、だからいくら離れがたくてもエリザベートのところで愚図愚図している暇はなかったのだ。
唯でさえ極力休憩を省いているのに、出発が遅くなれば遅くなるほど道程を急がなければならなくなる。侍従たちはさぞヤキモキしていただろう。
カールは息をついた。
一人きりの馬車では不安ばかりが押し寄せてくる。
こんな時には仕事でもして気を紛らわせたいが、馬車の中で読むつもりだった書類はマクロイド公爵にすべて取り上げられてしまった。激務を続けるカールがせめて馬車の中でくらい休めるようにという心遣いだったが、今のカールには逆効果だ。
結局カールは眠ることもできずに不安に苛まれたままジリジリと王領への道を進むことになった。
王領への道行きは良好だったと思う。
出発時間の遅れはあったが一泊した宿の滞在時間が短くなったくらいで二日目の夜には王領の城に着くことができた。ここから大変なのは同行した侍従たちで、持参した荷物をてきぱきと運び込んでいく。
城を任せる家令の挨拶を受けたカールは用意された軽食を食べ、さっと湯を浴びて寝ることにした。
ここで働く者たちもエリザベートのことは良く知っているし、カールが側妃を娶ったことも知っている。
だけど何も聞いてこないのは王家に仕える者として流石と言えるだろう。
カールの抱える不安が拭えることはないが、余計なことに気を回さずに済んだのはカールにとって幸いだった。
翌朝早く起きたカールは侍従が起こしにくる時間までにエリザベートへ手紙を書いた。
『愛している。早く会いたい。リーザがいないと淋しい』といったことがつらつら書かれた手紙がエリザベートの元へ届くのは翌日になる。エリザベートの返事は帰りの途中の宿で受け取ることになるだろう。
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