「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~

ぽんた

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「国王陛下から離縁と追放を言い渡されたときだけど、それが実行に移されるまでの七日後までにどうしても成し遂げたいことがあったの。あのとき、わたしは精神的にまだ子どもだった。世間知らずだった。だれもなにも教えてくれず、世間や一般的なことだけでなく男女のことや愛だの恋だのがまったくわからなかった。知らないだけではない。興味さえ抱けなかった。それなのに、なぜかそのことだけはわたしの中で重要だったの。レディとしての本能? 性? あるいは意地や矜持? とにかく、ぜったいにそのことだけはかなえたい。だから、それまでまともに会話さえしたことのない陛下に何度も懇願したの」

 話しに脈絡がないばかりか、飛んでばかりいる。自分でも自覚している。だからこそ、ルーカスに申し訳なく思っている。

 しかし、五年間事実をひた隠しにしていたこのことを伝えられる。伝えられる人が、いま目の前にいる。そう思うと、解放感からはやく告げたい衝動に駆られた。

「マコ。ケンは、やはりきみと国王との間の子……」
「ケンは、金髪碧眼ですものね。それに、目元や口元が陛下にそっくりだわ」
「きみは、黒髪で黒い瞳だから」
「そうね」

 両肩をすくめた。

 五年前なら、ルーカスともこんなに話はできなかった。というのも、当時は男女問わず人じたいが怖かった。家族でさえ、怖くて仕方がなかった。もっとも、家族が怖かったのは肉体的精神的にひどく虐げられていたからだけど。

 それはともかく、ルーカスだけでなくまともに人と接することができるようになったのは、「満腹亭」での忙しくも充実した日々に鍛えられたこと。それから、ジョーイとライラの友情や愛情。そして、ケンからの愛によるものだ。

 これらすべてが、わたしを強くしてくれた。わたしをかえてくれた。

 いまのわたしは、最強とまではいかなくても他のレディには負けない強さがあると自負できる。

 そこまで考え、あることに気がついた。

(陛下は、ルーカスにすべてを話したわけではない)

 そのことに気がついたのだ。

 ルーカスは、たしかに『ケンは国王との……』と言った。ということは、陛下はルーカスにすべてを話してはいないことになる。

(しかし、それどころの話ではないわね)

 これまで不安がなかったわけではない。もしかすると、ケンがとんでもないことに巻き込まれるのではないか、という不安が。

 その不安がついに現実のものとなった。わたしたちが望まぬ形、そして方法でやってきた。

 ついに不安が不安ではなく、脅威となった。

「もしかして、陛下は……」

『暗殺』という単語は、故意に口には出さなかった。しかし、ルーカスにはわたしが確認したかったことがわかったようだ。

「その通り。すべてが仕組まれたこと。国王崩御の報とおれの王子と将軍としての地位の剥奪の報が同時だったのは、あらかじめそのように手配されていたからだ。それはあきらかなこと。そして、黒幕もわかってはいる。もっとも、おれには最優先事項がある。だから、いまそのことで騒ぐつもりはない」

 ルーカスは、そこでいったん形のいい口を閉じた。

「そのことについては、王都を離れていたからといってすまされることではない。国王の死については、そういうたくらみがあったということに気づけなかったおれのせいだ。それはともかく、国王には予感かなにかがあったのだろう。あるいは、情報を得ていたのかもしれない。だからこそ、事前におれに託したわけだ」
「危険なのね?」
「このままでは、いずれ連中に知られてしまうだろう。王宮には連中の手の者が大勢いる。すでに黒幕は、暗殺者かなにかを差し向けたかもしれない」

 ルーカスは、そこでまた口を閉ざした。

 これから先のことを考えているのか、あるいは途方に暮れているのかはわからない。

「いや、おかしいな」

 が、どうやら先のことを考えているのではなかった。それから、途方に暮れているわけでも。

 彼は、ルビー色の瞳を教会の教室の窓へ向けた。

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