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収穫祭は、無事終了した。
その間は、夫のことも含めてすべてを忘れて楽しんだ。
と、そのように頭ではわかっているのだけれど、どうしても夫の不貞のこととこれからのことを考えてしまう。わたし自身の問題ではない。政略結婚、しかも国どうしが関わっているため、その影響は計り知れないだろう。
執事のローレンスに臨時の管理人になってもらい、クリフとともに王都に向った。
到着した翌日には、謁見の間にて国王と王妃に謁見した。
そこには、すでに先客がいた。
「お兄様っ!」
その先客とは、黒いスーツ姿の兄だ。
兄は小柄なわたしと違い、見上げるような背丈で筋肉ムキムキでなにより強面だ。
というか、彼がここにいるとは驚き以外のなにものでもない。
「ああ、わが最愛の妹レミ。元気だったか?」
兄は国王と王妃の御前にもかかわらず、わたしをギュギュギューッと抱きしめた。
いつものことながら、圧死寸前に陥った。
「カイゼル帝国にいたのだが、本国より急使が来てすぐに駆けつけたのだ」
兄は、圧死寸前のわたしにそう言った。
「お兄様、く、くるしい……」
「おお、すまん」
兄は恐怖のハグから解放してくれたものの、ちっとも「すまん」とは思ってはいない。
そのタイミングで触れがあり、謁見の間に数名が入ってきた。
「まだ見ぬ」といっていいほど面識のないわたしの夫とレディ。それから、細面の紳士だ。
「アラン・マカリスター」
夫たちが国王と王妃に礼をとる間もなく、国王は夫の名を呼んだ。
国王が侯爵という爵位をつけなかったことに気がついた。
「おまえがいまここにいる理由はわかっているな?」
「はい、陛下。わたしが彼女と密通を重ねているとか?」
夫は、下膨れの顔にイヤらしい笑みを浮かべた。
「ならば話ははやいな。わがメイトランド王国では、不義密通が重罪になることは存じておろう? しかも、おまえの妻は政治的なつながりのためにわざわざわが王国に嫁いでもらった。その妻を蔑ろにしたばかりか、長年に渡ってだまし続けたのだ。これはもう重罪どころの話ではない」
「ですが、陛下。妻との離縁の申請書は提出済みです。ということは、いまはもう妻とはなんの関係のもありません。であれば、不義密通にはあたらないのでは? いずれにせよ、妻はいかに大国のオグバーン国とはいえ、たかだか下級貴族の役立たず令嬢ではありませんか? わが領地に置いて養ってやっただけでも感謝してもらわねば」
夫の反論は、いろいろとツッコミどころ満載だった。
そのもっともたるは、この呼び出しに察しをつけた夫がそれに備え、慌ててわたしとの離縁の申請書を提出したのだ。それも昨日のことだ。
わたし本人の同意署名欄には、自分かもしくは彼自身の「真に愛する人」にでも署名してもらったのだろう。
いずれにせよ、離縁するという同意云々よりも結婚前から付き合っていて、それまでずっと不義密通を続けていたということの方が問題なのはいうまでもない。
「なんだと、貴様っ!」
夫の愚かさに呆れている間に、兄が咆哮とともに夫の首を締めあげていた。
「お兄様、やめてっ!」
兄の膂力は、どんな猛獣でも絞め殺してしまうほどのもの。
夫がでっぷり太っているとはいえ、そんな兄が人間ひとりを扼殺することは造作もない。
その間は、夫のことも含めてすべてを忘れて楽しんだ。
と、そのように頭ではわかっているのだけれど、どうしても夫の不貞のこととこれからのことを考えてしまう。わたし自身の問題ではない。政略結婚、しかも国どうしが関わっているため、その影響は計り知れないだろう。
執事のローレンスに臨時の管理人になってもらい、クリフとともに王都に向った。
到着した翌日には、謁見の間にて国王と王妃に謁見した。
そこには、すでに先客がいた。
「お兄様っ!」
その先客とは、黒いスーツ姿の兄だ。
兄は小柄なわたしと違い、見上げるような背丈で筋肉ムキムキでなにより強面だ。
というか、彼がここにいるとは驚き以外のなにものでもない。
「ああ、わが最愛の妹レミ。元気だったか?」
兄は国王と王妃の御前にもかかわらず、わたしをギュギュギューッと抱きしめた。
いつものことながら、圧死寸前に陥った。
「カイゼル帝国にいたのだが、本国より急使が来てすぐに駆けつけたのだ」
兄は、圧死寸前のわたしにそう言った。
「お兄様、く、くるしい……」
「おお、すまん」
兄は恐怖のハグから解放してくれたものの、ちっとも「すまん」とは思ってはいない。
そのタイミングで触れがあり、謁見の間に数名が入ってきた。
「まだ見ぬ」といっていいほど面識のないわたしの夫とレディ。それから、細面の紳士だ。
「アラン・マカリスター」
夫たちが国王と王妃に礼をとる間もなく、国王は夫の名を呼んだ。
国王が侯爵という爵位をつけなかったことに気がついた。
「おまえがいまここにいる理由はわかっているな?」
「はい、陛下。わたしが彼女と密通を重ねているとか?」
夫は、下膨れの顔にイヤらしい笑みを浮かべた。
「ならば話ははやいな。わがメイトランド王国では、不義密通が重罪になることは存じておろう? しかも、おまえの妻は政治的なつながりのためにわざわざわが王国に嫁いでもらった。その妻を蔑ろにしたばかりか、長年に渡ってだまし続けたのだ。これはもう重罪どころの話ではない」
「ですが、陛下。妻との離縁の申請書は提出済みです。ということは、いまはもう妻とはなんの関係のもありません。であれば、不義密通にはあたらないのでは? いずれにせよ、妻はいかに大国のオグバーン国とはいえ、たかだか下級貴族の役立たず令嬢ではありませんか? わが領地に置いて養ってやっただけでも感謝してもらわねば」
夫の反論は、いろいろとツッコミどころ満載だった。
そのもっともたるは、この呼び出しに察しをつけた夫がそれに備え、慌ててわたしとの離縁の申請書を提出したのだ。それも昨日のことだ。
わたし本人の同意署名欄には、自分かもしくは彼自身の「真に愛する人」にでも署名してもらったのだろう。
いずれにせよ、離縁するという同意云々よりも結婚前から付き合っていて、それまでずっと不義密通を続けていたということの方が問題なのはいうまでもない。
「なんだと、貴様っ!」
夫の愚かさに呆れている間に、兄が咆哮とともに夫の首を締めあげていた。
「お兄様、やめてっ!」
兄の膂力は、どんな猛獣でも絞め殺してしまうほどのもの。
夫がでっぷり太っているとはいえ、そんな兄が人間ひとりを扼殺することは造作もない。
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