結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた

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「閣下っ、おやめくださいっ!」

 わたしが兄に近づくよりもはやく、謁見の間の隅にひっそりと控えていた護衛のひとりが駆けてきた。

「閣下、メイトランド王国の国王陛下と王妃殿下の御前です。控えて下さい。さもないと……」

 その護衛は、指の関節を鳴らした。

 その乾いた音が、謁見の間に響き渡る。

「お義姉様」

 ホッとした。義姉のキャサリンは、気配を消していたのだろう。謁見の間に入って来たときには気がつかなかった。

「キャス、やめてくれ。わかった。おとなしくする」

 兄は、夫を大理石の床におろすとシュンとした。

『お義姉様、ありがとう』

 口の形だけで伝えると、彼女はわたしにウィンクしてみせた。

 兄の妻であり補佐官でもあるキャサリンは、わたしたち兄妹の乳兄妹。兄もわたしもいまだに頭があがらないのだ。

「義父母は、あなたにわたしのことをちゃんと伝えていなかったのよ」

 夫の前に立つと、そう告げた。

「お義母様いわく、あなたがわたしに気を遣うからということだったけど、息子に好き勝手させてわたしに自分たちの面倒をみさせ、こき使おうという魂胆だったみたい。わたしは、オグバーン国の王女よ。そして、こちらは兄。兄はいまでこそオグバーン国の王太子でありオグバーン国軍の将軍だけど、もう間もなく王位に就く予定よ」
「なんだって?」

 夫は、目をパチクリさせた。

 無理もない。

 義父母は、夫のことより自分たちの方が大事だったのだ。自分たちさえよければそれでよかったのだ。その証拠に、わたしが嫁いでからというもの領地の改革や経営がうまくいき、義父母は体が不自由になって死ぬまで贅沢三昧の生活を送ることができた。

 自分たちが死んだ後、息子がどうなろうが知ったことではなかったのだろう。

「オグバーン国の王女? だったら、もっと金をせびればよかった。なぁ、マーガレット?」

 夫は、自分の隣に立つ「真に愛する人」に同意を求めた。

 もはや言うべきことはなさそうだ。

 それは、彼の「真に愛する人」であるマーガレットも同様だ。

 すでに夫のことは見切りをつけ、絶対的ピンチを回避すべく頭の中で策を弄しているのだろう。

「兄上。いいえ。アラン・マカリスター。あなたはすでに爵位を剥奪された。国王陛下の名においてだ」

 そのとき、クリフが厳かに告げた。

「おいおい、クリフ? おまえがどうしてここにいる?」

 夫は、ズレまくっている。というか、亡くなった義父母は、自分たちの息子にはなにひとつ真実を語っていなかったのだ。

「王太子ですから」

 クリフは、穏やかな笑みとともに言った。それがさも絶対的で自然すぎたので、夫も「そうか」とひとつ頷いた。

 クリフは、国王と王妃の双子の弟として生まれた。双子は、どこの国でもよくある不吉や不幸や災いの象徴。したがって、王都から一番遠い領地であるマカリスター侯爵家に養子にだされたのだ。が、だれにとって不幸なのか、王太子だった双子の兄が亡くなってしまった。

 というわけで、クリフは王都に呼び戻されたのだ。

 義父母が実子である夫にクリフのことを告げなかったほんとうの理由はわからない。いずれにせよ、夫はクリフのこともわたしのことも鵜呑みにしていた。
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