悠久の放浪者

神田哲也(鉄骨)

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第二十一話「違和感と衝撃の一言」

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 焚き火の揺れる光の中、ロビンはじっと俺を見つめていた。

「さっきも聞いたけど、ケイスケは旅人なのよね?」

 無邪気な声で問いかけてくる。

「まあ、そう、だね」

 俺は曖昧に返事をした。
 実際のところ、自分が旅人と呼べるのかどうかはわからない。
 異世界に飛ばされ、なんとなく流れでここまで来た。目的も定まっていないし、旅というには行き当たりばったりすぎる。
 しかし、ロビンは俺のぎこちない言葉に特に疑問も持たず、ただ頷いた。

「そんなに小さいのに、旅をしているの?」

 小さい?
 いやいや、俺は成人男性なんだけど……。

 確かに、この世界の人々に比べれば身長は低いかもしれない。リームさんもイテルさんも、そしてこの村の人々も、全体的に背が高い印象がある。
 だが、そこまで身長差があるとも思えない。
 そんな考えを巡らせている間に、ロビンはさらに言葉を続けた。

「だってケイスケ、私と年は同じくらいでしょ?」
「……え?」

 俺は目を見開いた。
 この世界の基準では、俺は子供に見えるのか? 背が低いだけで?
 いや、それにしても、ロビンと同い年くらいというのはさすがにおかしい。

「同じくらいに、見える?」

 俺は思わず聞き返した。

「見えるわ!」

 ロビンは即答した。

「この村には、私と同い年くらいの子がいないから、だから気になっちゃったのよ」

 俺は何かの冗談かと思ったが、ロビンの様子を見る限り、本気でそう思っているようだった。

 ちょっと待てよ……。
 ロビンの年齢はどれくらいなんだ?

「ロビンは、何歳?」
「12歳よ!」

 ──12歳。
 俺が、同じくらい……?

 さすがに信じられなかった。

 この世界に来てから、自分の姿をちゃんと確認したことがなかったが……まさかそんなことが?

「……ちょっと待ってくれ」

 俺は冷静に考えようとした。
 水に映る自分の姿は何度か見たが、波や光の加減でぼやけていて、はっきりとは確認していなかった。
 髪は少し伸びていた。しかしひげは生えてきていない。
 身体の調子は妙にいい。
 転移前は腰痛に悩まされていたのに、それも感じなくなっていた。
 疲れなんかは一晩寝ればすっきりだ。
 思い返してみると、違和感を感じる……。

 もしや、本当に俺の身体は若返っているのか……?

 確認するには鏡を見るのが一番だ。
 スマホのカメラを使って自撮りするのは、この場ではあまりに不自然すぎる。
 この村の文明レベルを考えれば、スマホはかなり珍しいものだろうし、あまり目立つようなことはしたくなかった。
 目の前にいるロビンは不思議そうな顔で俺を見つめている。そんな彼女に俺は聞いてみることにした。

「鏡、みたいなの、持ってる?」
「鏡? あるわよ! 私の家に大きいのが!」
「そんなに、大きく、なくて、大丈夫」

 手鏡程度でいいと、俺は手のひらで大きさを示した。
 ロビンは一瞬考え、それから懐から小さな手鏡を取り出した。

「それなら今持ってるわ! はい!」
「……ありがとう」

 俺は鏡を受け取り、おそるおそる自分の顔を覗き込んだ。

 そこに映ったのは──。

 ……やっぱり俺だけど。

 肌は長旅のせいで少し汚れている。
 髪もシャンプーなどで洗えないからボサボサだ。
 それでも、確かに俺の顔だった。
 だが、どこか違和感があった。

「……あれ?」

 若くないか?

 じっくり見れば見るほど、違和感が増していく。
 明らかに、転移前の自分よりも若い。

 具体的に言えば──。高校生……いや、中学生の頃の俺に見える。
 大体、十三歳か、十四歳か、それくらい。

 20代半ばのはずの俺の顔は、まるで10代の少年のようだった。
 なるほど、ロビンが俺を「同い年くらい」と思ったわけだ。

 これは……異世界転移の影響か?

 ありがちといえば、ありがちかもしれない。
 思えば、体調が妙に良いことにも納得がいく。
 この若返りのせいで、リーム夫妻も俺を子供扱いしていたのかもしれない。

「どうしたの?」

 ロビンが、俺の横から鏡を覗き込んだ。
 彼女はしばらく鏡越しに俺の顔を見つめ、首を傾げた。

「……あら?」

 何か気になることでもあったのか。
 俺の顔や態度に違和感を覚えたのかもしれない。
 だが、ロビンはそのまま俺から一歩下がり、ぽつりと呟いた。

「ケイスケ、あなた、臭いわ」
「…………」

 俺は思考を一瞬停止させた。

「え、何?」
「臭いのよ!」

 ロビンは鼻をつまんだ。

「ずっと旅をしてたんでしょ? ずいぶんと匂うわよ!」
「…………」

 異世界転移、若返り、文明レベルの確認……
 色々と考えることはあったが、全てを吹き飛ばすような事実を突きつけられた。

「……まあ、確かに、風呂に入ってないしな」
「でしょ!? ちょっと、うちに来なさいよ! 井戸の水で洗えるわよ!」

 ロビンは腕を組んで得意げに言う。
 俺は鏡を見ながら、苦笑した。

「……もう夜も、遅いから、明日、体を洗うよ」
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