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第三十七話「明日の予定」
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「……なるほどな」
モンドは腕を組み、顎に手を当てながら納得したように頷いた。
「えっ!? ほ、本当ですか!?」
リエトが驚愕の声を上げる。目を見開き、まるで信じられないといった表情だ。
「確かなんだな?」
モンドは念を押すように俺を見る。
「現時点では、状況証拠のみですが、間違いないと思っています。参考にリエトにも聞きたいんだが、君の家――村長の家の納屋の管理は、ゲズが請け負っていて、他に立ち入る人はいないということで間違いないか?」
「え? ……えーと、そうですね、それは、多分。鍵を持っているのは僕たち家族以外では、ゲズだけって聞いたことがあるよ」
リエトが困惑しながらも答える。やはりそうか、と俺は内心頷いた。リラにも確認を取ったが、ここ数年、村長の家族以外で納屋に立ち入った者はいなかったらしい。
「でも、ゲズか……。まあ納得できる話だな」
「そ、そうなんですか?」
リエト君が不安げにモンドさんの言葉に反応する。
「……あいつ、評判悪いだろ? だけど何故か金回りはいい。仕事は村長宅の小作人しかしてないってのに、どこからその金は出てくるんだ? って不思議がっていたからな」
確かにそうだ。ゲズが金を持っていること自体は、俺も何度か目にしている。しかし、もし納屋の物資を盗んでいたとしたら、それをどこで金に換えていたのか?
「リームさんなら、何か知っているかもな」
「行商人は他にも来るが……そうだな、何か知っていることもあるかもしれないな」
リームさんたちがこの村に来るのは、多分あと二週間後。それまでに証拠を集める必要がある。
ひとまずは注意深く監視を続ける、ということで話はまとまった。
しかし、話が終わったというのに……。
「……じー……」
「な、なんですかい? ぼ、ぼっちゃん?」
困惑するゲズ。
リエトが鋭い視線でゲズを睨みつけていた。明らかに不審な行動だ。
「……リエト、ちょっと……」
俺はリエトの首根っこを掴み、そのまま引っ張っていく。
「うわっ!? ちょ、ケイスケさん、何するの!?」
「いいから来い」
俺はリエトを引きずるようにして、ゲズから距離を取る。まだまだ六歳の子どもだ、正義感が暴走するのも無理はない。しかし、このままでは拙すぎる。
リエトの未熟な監視行動に、俺はため息をついた。
そして、その夜。
「ケイスケ、リエト、何か私に隠しごとはないかしら?」
ロビンが見事なジト目で俺とリエトを見つめていた。
「「うっ……」」
俺とリエトは同時に息を呑む。
ロビンは言い訳は絶対に許さないといったように、両手を腰に当ててベッドに座っている俺達を見下ろしていた。
……どうやら、俺たちはロビンに詰められることになりそうだ。
「隠しごとなんて、ぼ、僕してないよ……! ね、ねえ、ケイスケさん!?」
あたふたとしながら涙目で俺を見るリエト。
その様子は、どう見ても隠し事があると自白しているようなものだ。
これは、変に誤魔化すとややこしくなりそうだな。
俺はため息をつきながら、ロビンの方を向いた。
「……そうだな、隠し事してるぞ。でもロビン、お前に内容は話せない」
正直に認めるが、肝心の中身は伏せる。
「なんでよ!?」
ロビンが眉をひそめ、じとっとした視線を送ってくる。
「お前に隠し事ができると思わないからだ」
俺が言うと、ロビンは不満げに頬を膨らませた。
「そんなことないわよ! 私だって秘密くらい守れる!」
「いや、お前、何かあるとすぐ顔に出るだろ。絶対にバレるし、バレたらまずいんだよ」
ロビンはムッとした顔をするが、実際問題、彼女の性格では秘密を隠し通すのは難しい。リエトも同じだ。
「リエト、お前も一旦この件には関わらないこと」
「えー!? なんでですか!?」
「危ないからに決まってるだろ」
子供である二人が変に関わって、危険な目に遭うことが一番避けたい。リエトはどうしようもないが、少なくとも彼は決してバカではなく、利口な子供だ。言われたことを守れないようなことはないはずだ。
リエトは不満そうだったが、俺の真剣な表情を見て、何かを察したのか、渋々頷いた。
「……わかったよ。でも、ケイスケさんが危ないことになったら、僕も助けるからね!」
「お前はまず自分の身を守ることを考えろ」
「……うん」
少しきつい言い方をしてしまったが、二人の為だ。
どうにか二人を説得し終えると、今度はロビンがふてくされた顔でこちらを見てくる。
「もう、ケイスケの意地悪」
「信用してるから言えないんだよ」
「それ、ちっともフォローになってないんだけど……」
ロビンがため息をつきながら肩を落とす。
「ごめんな」
「……いいわよ、もう」
そして三人で無言となり、少し暗い空気が部屋の中に漂う。
俺はその空気を追い払うために、一つ提案をすることにした。
「なあ、二人とも。明日は少し遠出をしないか?」
俺がそう言うと、ロビンとリエトの目が輝きだした。
「どこに行くの?」
「モンドさんが、東の森に連れて行ってくれるってさ」
「本当!? やったあ!」
リエトが歓声を上げ、ロビンも嬉しそうに微笑む。
「麦の刈り入れも終わったし、書類仕事も山場は越えた。たまには気分転換もしないとな」
「楽しみね!」
「だから明日は早いから、早く寝ような」
「うん!」
現金なもので、二人にはもうむくれているような不機嫌な表情はない。
興味は完全に明日の予定に移ったようだ。
ベッドの中では明日は朝早くに起きて、何を用意しなければいけないとか、天気はいいのかとか、何をしに行くとのかとか、話はつきなかった。
そしていつの間にかスースー……と、寝息を立て始める二人に俺は苦笑しながら目を閉じる。
こうして、俺たちは明日の遠出に期待を膨らませながら、夜を迎えたのだった。
モンドは腕を組み、顎に手を当てながら納得したように頷いた。
「えっ!? ほ、本当ですか!?」
リエトが驚愕の声を上げる。目を見開き、まるで信じられないといった表情だ。
「確かなんだな?」
モンドは念を押すように俺を見る。
「現時点では、状況証拠のみですが、間違いないと思っています。参考にリエトにも聞きたいんだが、君の家――村長の家の納屋の管理は、ゲズが請け負っていて、他に立ち入る人はいないということで間違いないか?」
「え? ……えーと、そうですね、それは、多分。鍵を持っているのは僕たち家族以外では、ゲズだけって聞いたことがあるよ」
リエトが困惑しながらも答える。やはりそうか、と俺は内心頷いた。リラにも確認を取ったが、ここ数年、村長の家族以外で納屋に立ち入った者はいなかったらしい。
「でも、ゲズか……。まあ納得できる話だな」
「そ、そうなんですか?」
リエト君が不安げにモンドさんの言葉に反応する。
「……あいつ、評判悪いだろ? だけど何故か金回りはいい。仕事は村長宅の小作人しかしてないってのに、どこからその金は出てくるんだ? って不思議がっていたからな」
確かにそうだ。ゲズが金を持っていること自体は、俺も何度か目にしている。しかし、もし納屋の物資を盗んでいたとしたら、それをどこで金に換えていたのか?
「リームさんなら、何か知っているかもな」
「行商人は他にも来るが……そうだな、何か知っていることもあるかもしれないな」
リームさんたちがこの村に来るのは、多分あと二週間後。それまでに証拠を集める必要がある。
ひとまずは注意深く監視を続ける、ということで話はまとまった。
しかし、話が終わったというのに……。
「……じー……」
「な、なんですかい? ぼ、ぼっちゃん?」
困惑するゲズ。
リエトが鋭い視線でゲズを睨みつけていた。明らかに不審な行動だ。
「……リエト、ちょっと……」
俺はリエトの首根っこを掴み、そのまま引っ張っていく。
「うわっ!? ちょ、ケイスケさん、何するの!?」
「いいから来い」
俺はリエトを引きずるようにして、ゲズから距離を取る。まだまだ六歳の子どもだ、正義感が暴走するのも無理はない。しかし、このままでは拙すぎる。
リエトの未熟な監視行動に、俺はため息をついた。
そして、その夜。
「ケイスケ、リエト、何か私に隠しごとはないかしら?」
ロビンが見事なジト目で俺とリエトを見つめていた。
「「うっ……」」
俺とリエトは同時に息を呑む。
ロビンは言い訳は絶対に許さないといったように、両手を腰に当ててベッドに座っている俺達を見下ろしていた。
……どうやら、俺たちはロビンに詰められることになりそうだ。
「隠しごとなんて、ぼ、僕してないよ……! ね、ねえ、ケイスケさん!?」
あたふたとしながら涙目で俺を見るリエト。
その様子は、どう見ても隠し事があると自白しているようなものだ。
これは、変に誤魔化すとややこしくなりそうだな。
俺はため息をつきながら、ロビンの方を向いた。
「……そうだな、隠し事してるぞ。でもロビン、お前に内容は話せない」
正直に認めるが、肝心の中身は伏せる。
「なんでよ!?」
ロビンが眉をひそめ、じとっとした視線を送ってくる。
「お前に隠し事ができると思わないからだ」
俺が言うと、ロビンは不満げに頬を膨らませた。
「そんなことないわよ! 私だって秘密くらい守れる!」
「いや、お前、何かあるとすぐ顔に出るだろ。絶対にバレるし、バレたらまずいんだよ」
ロビンはムッとした顔をするが、実際問題、彼女の性格では秘密を隠し通すのは難しい。リエトも同じだ。
「リエト、お前も一旦この件には関わらないこと」
「えー!? なんでですか!?」
「危ないからに決まってるだろ」
子供である二人が変に関わって、危険な目に遭うことが一番避けたい。リエトはどうしようもないが、少なくとも彼は決してバカではなく、利口な子供だ。言われたことを守れないようなことはないはずだ。
リエトは不満そうだったが、俺の真剣な表情を見て、何かを察したのか、渋々頷いた。
「……わかったよ。でも、ケイスケさんが危ないことになったら、僕も助けるからね!」
「お前はまず自分の身を守ることを考えろ」
「……うん」
少しきつい言い方をしてしまったが、二人の為だ。
どうにか二人を説得し終えると、今度はロビンがふてくされた顔でこちらを見てくる。
「もう、ケイスケの意地悪」
「信用してるから言えないんだよ」
「それ、ちっともフォローになってないんだけど……」
ロビンがため息をつきながら肩を落とす。
「ごめんな」
「……いいわよ、もう」
そして三人で無言となり、少し暗い空気が部屋の中に漂う。
俺はその空気を追い払うために、一つ提案をすることにした。
「なあ、二人とも。明日は少し遠出をしないか?」
俺がそう言うと、ロビンとリエトの目が輝きだした。
「どこに行くの?」
「モンドさんが、東の森に連れて行ってくれるってさ」
「本当!? やったあ!」
リエトが歓声を上げ、ロビンも嬉しそうに微笑む。
「麦の刈り入れも終わったし、書類仕事も山場は越えた。たまには気分転換もしないとな」
「楽しみね!」
「だから明日は早いから、早く寝ような」
「うん!」
現金なもので、二人にはもうむくれているような不機嫌な表情はない。
興味は完全に明日の予定に移ったようだ。
ベッドの中では明日は朝早くに起きて、何を用意しなければいけないとか、天気はいいのかとか、何をしに行くとのかとか、話はつきなかった。
そしていつの間にかスースー……と、寝息を立て始める二人に俺は苦笑しながら目を閉じる。
こうして、俺たちは明日の遠出に期待を膨らませながら、夜を迎えたのだった。
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