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第三十八話「東の森」
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いつもよりも早い目覚めは、どうやら俺だけではなかった。
「おはよー!」
「おはよう、ケイスケ、リエト!」
待ちきれないといった様子の二人に、俺は苦笑しながら挨拶を返す。
「おはよう、二人とも」
昨夜あれだけ楽しみにしていたんだ。無理もない。
「さっさと準備するわよ!」
「うん!」
手早く着替えて、朝食をかきこんで、森へ行く準備をする。
歩くスピードは、いつもよりも明らかに早かった。
集合場所である村の門に着くと、そこにはモンドが待っていた。
「おはようございます!」
「おはよう! さあ、早速行きましょうよ!」
ロビンとリエトの気持ちのいい元気な挨拶の声。それを聞いているだけで、いかに気合が入ってるかわかるというものだ。
「おう、随分早かったな」
「おはようございます。楽しみだったんで、張り切っちゃいました」
主に二人が。とは、余計なことは口にしない。
うずうずしている二人を見て、モンドもまた苦笑する。
「出かける前に、ケイスケ、これを持っておけ」
手渡されたのは、ズシリと重い、刃渡り20センチほどの片刃の短剣だった。
見た目はサバイバルナイフのように背は厚く、先が尖っている。
「このくらいの短剣は身を守るのにもそうだが、採取のときに役に立つからな。貸してやるから、無くすなよ」
「わかりました」
革の鞘に納めて、腰に携える。
なんだかこういったちゃんとした武器を持つことになるとは……。
これから向かうのは、日本のハイキングコースなどのように、ただ安全な場所ではないということがよくわかる。
腰にぶら下がった短剣の重みを直に感じて、気が引き締まっていく。
しかし――。
「いいなー」
「ねえねえ、私にはないの?」
案の定二人は物欲しそうに俺の短剣を見ていた。
「お前たちが扱えそうな短剣は、残念ながらないな。我慢してくれ」
モンドがそう言うも、「えー!」「ケイスケだけずるいわ!」と不満を漏らす二人だが、ないものはないときっぱり言われ、やがて諦めた様子だった。
「ともかく、そろそろ出発するぞ。付いてこい、ちびっ子ども!」
笑ってそう促すモンド。
現金なもので、その掛け声を聞くだけでロビンとリエトはすぐに気持ちを切り替えて、森への道のりに興味を移すのだった。
東の森へ向かう道は、思ったよりも歩きやすかった。
ある程度踏み固められた道は小さな馬車が一台通れるくらいの幅しかなかったが、人が歩くには十分すぎるほどだ。
モンドが先頭に、リエト、ロビンの順に、そして俺が最後尾で進む。
空は晴れ渡り、時折ふく風が体のほてりを冷まし、日差しは体を程よく暖めてくれた。
ほどなくして到着した森。
メイコたちゴブリンと過ごした森とは違い、この森の空気は乾燥しており、針葉樹が多い。そのためか、地面に積もった落ち葉も少なく、歩くたびに柔らかく沈む感触がない。さらに、人の手が入っているのか、所々に切り株があり、視界が比較的開けていた。
「この森は、村にとって貴重な薬草の群生地がある。今日はその調査が主な目的だ」
モンドが歩きながら説明する。
ほどなくして、目的の場所にたどり着いた。そこには控えめな白い花を咲かせた野草が膝丈ほどの高さで群生していた。見た目はヨモギに似ている気がする。
「これが薬草? なんだか地味ね」
ロビンが草むらにしゃがみ込み、指先でそっと葉を撫でる。
「ああ、フグリ草だ。でもな、こいつは立派な薬のもとになる。村には専門の医療機関なんてないだろ? だからこうした薬草が怪我や病気の際に極めて重要になるんだ」
モンドが周囲を見回しながら言う。
「たまに冒険者が見つけて採っていく場合があるんだが、今年は大丈夫そうだな」
「ねえ、少しは摘んでいくんでしょ?」
「そうだな。まあ、それぞれ小さな籠半分くらいは採っていくか」
俺たちは腰に掌ほどの小さな籠を下げていた。それぞれが手際よく薬草を摘み始める。
「じゃあ、誰が一番早く摘めるか競争よ!」
ロビンが宣言すると、リエトが慌てて追従する。
「おーい、丁寧に採れよー!」
「わかったー!」
元気な声が返ってくる。
「モンドさん、採り方のコツとかあります?」
「そうだな、できるだけ若い葉を選ぶことだ。古い葉は固くて薬効も薄いからな」
俺も試しに一枚千切って匂いを嗅いでみる。ドクダミに似た独特の匂いが鼻をついた。
およそ三十分ほどで目標の量を摘み終える。
「よし、収穫はこれくらいでいいな」
「ピクニックみたいね!」
ロビンとリエトは楽しげに笑う。
だが、モンドは警戒を解かなかった。俺もまたそれに倣い、辺りを慎重に見渡す。
そんなときだった。
「……これは」
モンドがふと足を止め、ある木の幹に手をかける。見ると、そこには深く抉られた傷跡があった。
「何かの爪痕?」
爪と爪の間は2、3センチくらいで、四本の深い傷跡がそこにはあった。
よく見れば、幹の上の方にも同じような傷跡がいくつもつけられている。
俺が尋ねると、モンドは険しい表情で頷いた。
「おはよー!」
「おはよう、ケイスケ、リエト!」
待ちきれないといった様子の二人に、俺は苦笑しながら挨拶を返す。
「おはよう、二人とも」
昨夜あれだけ楽しみにしていたんだ。無理もない。
「さっさと準備するわよ!」
「うん!」
手早く着替えて、朝食をかきこんで、森へ行く準備をする。
歩くスピードは、いつもよりも明らかに早かった。
集合場所である村の門に着くと、そこにはモンドが待っていた。
「おはようございます!」
「おはよう! さあ、早速行きましょうよ!」
ロビンとリエトの気持ちのいい元気な挨拶の声。それを聞いているだけで、いかに気合が入ってるかわかるというものだ。
「おう、随分早かったな」
「おはようございます。楽しみだったんで、張り切っちゃいました」
主に二人が。とは、余計なことは口にしない。
うずうずしている二人を見て、モンドもまた苦笑する。
「出かける前に、ケイスケ、これを持っておけ」
手渡されたのは、ズシリと重い、刃渡り20センチほどの片刃の短剣だった。
見た目はサバイバルナイフのように背は厚く、先が尖っている。
「このくらいの短剣は身を守るのにもそうだが、採取のときに役に立つからな。貸してやるから、無くすなよ」
「わかりました」
革の鞘に納めて、腰に携える。
なんだかこういったちゃんとした武器を持つことになるとは……。
これから向かうのは、日本のハイキングコースなどのように、ただ安全な場所ではないということがよくわかる。
腰にぶら下がった短剣の重みを直に感じて、気が引き締まっていく。
しかし――。
「いいなー」
「ねえねえ、私にはないの?」
案の定二人は物欲しそうに俺の短剣を見ていた。
「お前たちが扱えそうな短剣は、残念ながらないな。我慢してくれ」
モンドがそう言うも、「えー!」「ケイスケだけずるいわ!」と不満を漏らす二人だが、ないものはないときっぱり言われ、やがて諦めた様子だった。
「ともかく、そろそろ出発するぞ。付いてこい、ちびっ子ども!」
笑ってそう促すモンド。
現金なもので、その掛け声を聞くだけでロビンとリエトはすぐに気持ちを切り替えて、森への道のりに興味を移すのだった。
東の森へ向かう道は、思ったよりも歩きやすかった。
ある程度踏み固められた道は小さな馬車が一台通れるくらいの幅しかなかったが、人が歩くには十分すぎるほどだ。
モンドが先頭に、リエト、ロビンの順に、そして俺が最後尾で進む。
空は晴れ渡り、時折ふく風が体のほてりを冷まし、日差しは体を程よく暖めてくれた。
ほどなくして到着した森。
メイコたちゴブリンと過ごした森とは違い、この森の空気は乾燥しており、針葉樹が多い。そのためか、地面に積もった落ち葉も少なく、歩くたびに柔らかく沈む感触がない。さらに、人の手が入っているのか、所々に切り株があり、視界が比較的開けていた。
「この森は、村にとって貴重な薬草の群生地がある。今日はその調査が主な目的だ」
モンドが歩きながら説明する。
ほどなくして、目的の場所にたどり着いた。そこには控えめな白い花を咲かせた野草が膝丈ほどの高さで群生していた。見た目はヨモギに似ている気がする。
「これが薬草? なんだか地味ね」
ロビンが草むらにしゃがみ込み、指先でそっと葉を撫でる。
「ああ、フグリ草だ。でもな、こいつは立派な薬のもとになる。村には専門の医療機関なんてないだろ? だからこうした薬草が怪我や病気の際に極めて重要になるんだ」
モンドが周囲を見回しながら言う。
「たまに冒険者が見つけて採っていく場合があるんだが、今年は大丈夫そうだな」
「ねえ、少しは摘んでいくんでしょ?」
「そうだな。まあ、それぞれ小さな籠半分くらいは採っていくか」
俺たちは腰に掌ほどの小さな籠を下げていた。それぞれが手際よく薬草を摘み始める。
「じゃあ、誰が一番早く摘めるか競争よ!」
ロビンが宣言すると、リエトが慌てて追従する。
「おーい、丁寧に採れよー!」
「わかったー!」
元気な声が返ってくる。
「モンドさん、採り方のコツとかあります?」
「そうだな、できるだけ若い葉を選ぶことだ。古い葉は固くて薬効も薄いからな」
俺も試しに一枚千切って匂いを嗅いでみる。ドクダミに似た独特の匂いが鼻をついた。
およそ三十分ほどで目標の量を摘み終える。
「よし、収穫はこれくらいでいいな」
「ピクニックみたいね!」
ロビンとリエトは楽しげに笑う。
だが、モンドは警戒を解かなかった。俺もまたそれに倣い、辺りを慎重に見渡す。
そんなときだった。
「……これは」
モンドがふと足を止め、ある木の幹に手をかける。見ると、そこには深く抉られた傷跡があった。
「何かの爪痕?」
爪と爪の間は2、3センチくらいで、四本の深い傷跡がそこにはあった。
よく見れば、幹の上の方にも同じような傷跡がいくつもつけられている。
俺が尋ねると、モンドは険しい表情で頷いた。
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