悠久の放浪者

神田哲也(鉄骨)

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第五十話「ロビン救出」

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 暗い洞窟内に、水滴の落ちる音が響く。

「……物音がするな」

 モンドが囁くように言った。
 洞窟の奥からかすかな気配が伝わってくる。息を潜めながら、俺たちはさらに奥へ進んだ。
 洞窟はそれほど深くはないが、途中には農具や干し肉などの保存食が雑に置かれていた。どうやらゲズはここを隠れ家にしていたらしい。

 奥に、小さな炎の光がゆらめいている。その先をそっと覗くと――。

 地面に体を横たえられ、手足を縛られたロビンの姿があった。
 その傍に座っているのはゲズ。焚き火の明かりに照らされた彼の顔は、焦りと苛立ちが入り混じったような表情だった。

「……くそっ! な、なんで、お、俺が……。くそくそくそ……」

 独り言が聞こえる。
 ゲズはどうやら一人で酒を飲んでいるようだった。

「……どうする?」

 モンドが俺に問いかける。俺は少し考えた後、提案した。

「俺がまた光の魔法で目くらましをして。その隙にモンドさんが取り押さえるのは?」

 我ながらまたモンド頼りの作戦だ。しかし、モンドは首を横に振る。

「……ひるむだけならいいが、あいつが暴れたらまずい。ロビンの安全が最優先だ」
「……確かに」

 ゲズが座っているのロビンのすぐ近く。
 目が見えなくなっても手を伸ばせばすぐに届く距離だ。
 たしかに、ただ光で怯ませるだけでは、ゲズが錯乱し、ナイフでロビンに危害を加える可能性がある。

 どうする……?

 このまま待ち続けても、ゲズがロビンのそばを離れることはなさそうだ。
 すぐにでもロビンを助け出して、安心させてやりたい。
 焦りが募る中、ふわりと闇が揺れた。

『あいつが動けなくなればいいんでしょ? 私に任せてー!』

 リラの声が再び響いた。

「リラ? 大丈夫なのか?」
『大丈夫ー! だけどそんなに長くはもたないからねー』
「わかった。合図したら頼む」
『了解だよー』

 リラがどんな能力を有しているのかわからないが、信じるしかない。
 彼女が影に沈んでいくのを見届けて頷く。

「……ケイスケ、何か手があるのか?」
「はい、これからゲズを拘束します。驚かずに、準備してください。モンドさんはゲズを。俺はロビンを助け出します」

 ゲズを見据え、いつでも飛び出すことができるよう、準備する。

「……お前……。……わかった」

 モンドは俺の表情を見て、言葉を飲み込んだ。

『じゃあ、あいつを動けなくさせるよー!』
「頼んだ」

 次の瞬間、ゲズの影から闇が広がった。闇はまるで生き物のように蠢きながら、するすると彼の体を覆っていく。
 さながら、闇の力に支配されるゲズ。といった絵面だ。

「なんだ!? 影が……!」
「な、なんだ……!? う、動けねえっ!?」

 モンドが驚きの声をあげ、ゲズが狼狽する。すぐにその体は闇に囚われ、腕も足もぎちりと締め付けられていた。

「今だ!」
「お、おう!」

 俺とモンドは一気に駆け出した。

「な、なんだ!? だ、誰だ!?」

 ゲズがもがこうとするが、闇の拘束がそれを許さない。ゲズは全身が闇の覆われているからか、視界も真っ黒なのだろう。
 そのままモンドさんがゲズの腕を掴み、無理やり地面に押し倒す。

「く、くそっ……は、離せ! お、俺は悪くない!」
「黙れ!」
「ぐっ!?」

 モンドさんが容赦なくゲズの腕を背中にねじ上げる。ゲズは苦しげに呻いた。
 俺はその隙にロビンのもとへ駆け寄り、彼女を抱き上げて二人から距離をとった。

「ロビン!」
「……ケイスケ!」

 目隠しと猿ぐつわを外す。
 ロビンの瞳には涙が浮かんでいた。俺はすぐに縄を解き、彼女を抱き起こした。

「こ、怖かった……! 怖かったよー!!」

 俺の顔を見て安堵したのか、ロビンがしがみついてくる。彼女の体は震えていた。

「……もう大丈夫だ。安心しろ」
「う、うわああああああん!」

 俺はそう言いながら、そっと背中をさすった。
 ロビンの鳴き声は益々大きくなるばかり。
 必死にしがみついてくるロビンの体温を感じながら、無事でよかったと噛みしめる。

 モンドはゲズの体を縄で縛り直していた。相当きつく縛ったらしく、ゲズは動くことすらできない。
 モンドは足でゲズの体を押え、安堵の笑みを浮かべる。

「これで一件落着だな……ケイスケ、お前の魔法と……あと、その不思議な影には驚かされたよ」
「……ありがとうございます」

 俺がそう言うと、リラが満足そうにくるくると宙を舞った。

『無事でよかったねー! ケイスケも、いい仕事したねー!』
「お前のおかげだよ、リラ」

 俺がそう言うと、リラは得意げに胸を張った。

「さて……こいつを村まで運ばなきゃな」

 モンドがゲズを引っ張り上げる。
 俺は改めてロビンの顔を見た。彼女の顔にはまだ不安の色が残っている。それでも、俺がそばにいることを確認すると、少し安心したように微笑んだ。

「帰ろう、ロビン」
「……うん!」

 ロビンの手を握り、俺たちは洞窟の出口へと歩く。

 夜の闇が広がる森の中で、俺たちは村へと帰る道を急いだ。
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