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しおりを挟むコクヨウが居なくなって…残されていたのはコクヨウが貯めていたらしい金銭のみだった。コクヨウに渡すために思いを込めて作った指輪を握りしめる。腕を振り上げ、手の中の指輪を感情のままに投げつけようとしたが…そのままだらりと腕を降ろす。
持ち主のいない指輪だけが俺に寄り添ってくれる気がした。流れ落ちる涙をそのままに泣き続ける。そうしている内にあっという間に夜になってしまった。
何をしていても寒い…どうしようもなくあの温もりに触れたくて堪らない。出会ったばかりの頃、必死になって迷子になったコクヨウを探していた時の事を思い出す。
ようやく立ち上がると、コクヨウの姿を探して街に駆け出す。しかしいくら駆け回ってもあの時のようにコクヨウの姿を見つけられることは無かった…。
これだけ探しても見つけられない以上、コクヨウはもう俺に愛想を尽かしてしまったのかもしれない。そう思いながらも諦めきれずに半年ほど探していた。
公爵様の手伝いもあって、ようやく掴めた情報によるとコクヨウは獣人地域に居るらしいということまでは分かった。しかし…俺は置いていかれたんだ、来るなということだろう。
「公爵様…ありがとよ…もういい。」
「でも…あんなに仲が良かったじゃないか。何か事情があるに決まって…」
「いいって言ってるだろ!」
「っ…すまない。」
「いや…俺の方こそ悪い…。アンタには感謝してる。」
「ああ…何も出来なくてすまないね。」
「そんなことないだろ。…俺は故郷に帰ることにする。」
「そうか…それは寂しくなるね。」
「長らく世話になったな。」
「いや、いつでも歓迎するからまた来てくれると嬉しいよ。なぁミシェル」
「ええ、勿論でございます。誠心誠意おもてなし致しますよ。」
「ははっ…そうだな…。」
「君が帰るのなら土産を持たせよう。ミシェル準備を」
「畏まりました。」
そうして俺はただ一人旅路を歩いている。コクヨウが居ないだけで随分と厳しい旅になったが、それでも無事に帰り着くことができた。久しぶりの我が家に安心感を覚えるとともに寂寥感が胸を覆う。
離れていた間に森に侵食されたようで、蔦などが外壁に絡まっていた。ドア部分だけでも蔦を取り除き、中へ入る。見る限り家は壊れたりしていないらしいな。
あぁ…静か、だな。
この家で随分長くコクヨウと過ごしたものだ。今でも呼べばそこに居てくれる気がする。そんなわけないのにな…。いつの間にか、俺の家は俺とコクヨウの二人の家になっていたんだな。
未だに一人で寝ることに慣れることは出来ず、俺の目の下には常に隈があるようになった。食事も美味しいと感じられず、食べなかったり、買ったもので適当に済ませている。本当に最低限で生きている。
身体が重だるく、時折頭痛に苛まれる。何もやる気が起きないまま、自堕落な生活を送っていた。髪や髭も伸ばされっぱなしで薄汚い容姿になってしまっている。他人から見れば近づきたくもないだろうと分かっていても、それでも整えようと思えない。
このまま…少しずつ衰弱して俺は死ぬんじゃないか…。そんなことまで考えるほどに追い詰められていた。俺にとっていかにコクヨウが大きな存在であったのか、こんな風になって知るなんて皮肉だよな。
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