99 / 123
連絡ができない
しおりを挟む
「ん……」
ピッピッピッ、と機械から一定の音が聞こえてくる。
沙羅は、薄っすら瞼を開いた。
「お母さん、起きたの⁉」
沙羅を覗き込む美幸の顔は、いまにも泣き出しそうで、くしゃくしゃだった。
美幸へと手を伸ばす、その腕には点滴の管が繋がっていた。
ハッと、倒れる直前の記憶がよみがえる。
自宅で美幸とふたりの時に、激しい胃痛に襲われ、意識がなくなったのだ。
「美幸……心配かけてごめんね」
「そうだよ。お母さんが死んじゃうかと思って、怖かったんだから」
沙羅が目覚めたことに安心したのか、美幸の目からは大粒の涙がこぼれだす。その涙を沙羅の指がそっと拭う。
「うん、ごめんね。美幸が救急車呼んでくれたの?」
「そうだよ。あと、病院の手続きとか、わからなかったから、お父さんに連絡して来てもらったの。それから、お仕事お休みするだろうから、紀美子さんにも連絡したよ」
「そう……大変だったよね。お母さんのために、がんばってくれて、ありがとう」
美幸のそばにいた政志が立ち上がり、ベッドに横たわる沙羅の視界に入る。
美幸が政志に連絡をしたのは、沙羅には意外だった。それでも、困った時に頼る大人といって、一番最初に父親の政志を浮べたのだろう。
「沙羅、目が覚めたようで良かった。気分は?」
「政志さんにも迷惑かけてすみません。いま吐き気も落ち着いて大丈夫です」
「診断は、胃潰瘍の疑いだって、明日、検査してから治療方針が決まるらしい。とりあえず、2.3日は入院になりそうだよ。検査結果によっては伸びるかも知れない」
「あ、美幸がひとりに……」
母子ふたり暮らし、沙羅が入院すると美幸は家に独りになってしまうのだ。
「美幸がいやじゃなければ、俺が家で預かるよ。学校や塾にも通い易いだろうし……どうかな?」
と、政志は美幸に訊ねる。
「わたし、お父さんのところに行くから、お母さんは早く病気直してね」
美幸は気を使ってくれて、政志のところに行くと言っているのだろう。
沙羅は申し訳なさでいっぱいになる。
「美幸、ごめんね。お母さん、早く良くなるから……」
「うん、早く良くなってね」
「2.3日の事だから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。美幸の事は、俺に任せて、ゆっくり休んで」
「政志さん、すみません。美幸の事よろしくお願いします」
コンコンとノック音がして、看護師からすでに面会時間は過ぎている時間だと注意されてしまい、渋々美幸は政志と病室を後にした。
広い個室にひとり残された沙羅は、とたんに寂しさが押し寄せ心細くなってしまう。白い天井を見つめながら、ため息を吐くとジワリと涙が浮かぶ。
「入院だなんて……迷惑ばかりかけてダメだなぁ」
仕事を休むことになるだろうから、会社にも連絡を入れないといけない。
キョロキョロとスマホを探しても、見える範囲にはなかった。
もしかしたらと、ベッドから起き上がる。
ベッドの横にあるチェストの上には、備え付けの小さなテレビがあるだけだ。引き出しを開けると入院に関する書類と封筒。封筒の中には5枚の千円札。これは政志が入れて置いてくれたのだろう。
「スマホもお財布も家に置いたままみたい。慶太に連絡も出来ない……」
ピッピッピッ、と機械から一定の音が聞こえてくる。
沙羅は、薄っすら瞼を開いた。
「お母さん、起きたの⁉」
沙羅を覗き込む美幸の顔は、いまにも泣き出しそうで、くしゃくしゃだった。
美幸へと手を伸ばす、その腕には点滴の管が繋がっていた。
ハッと、倒れる直前の記憶がよみがえる。
自宅で美幸とふたりの時に、激しい胃痛に襲われ、意識がなくなったのだ。
「美幸……心配かけてごめんね」
「そうだよ。お母さんが死んじゃうかと思って、怖かったんだから」
沙羅が目覚めたことに安心したのか、美幸の目からは大粒の涙がこぼれだす。その涙を沙羅の指がそっと拭う。
「うん、ごめんね。美幸が救急車呼んでくれたの?」
「そうだよ。あと、病院の手続きとか、わからなかったから、お父さんに連絡して来てもらったの。それから、お仕事お休みするだろうから、紀美子さんにも連絡したよ」
「そう……大変だったよね。お母さんのために、がんばってくれて、ありがとう」
美幸のそばにいた政志が立ち上がり、ベッドに横たわる沙羅の視界に入る。
美幸が政志に連絡をしたのは、沙羅には意外だった。それでも、困った時に頼る大人といって、一番最初に父親の政志を浮べたのだろう。
「沙羅、目が覚めたようで良かった。気分は?」
「政志さんにも迷惑かけてすみません。いま吐き気も落ち着いて大丈夫です」
「診断は、胃潰瘍の疑いだって、明日、検査してから治療方針が決まるらしい。とりあえず、2.3日は入院になりそうだよ。検査結果によっては伸びるかも知れない」
「あ、美幸がひとりに……」
母子ふたり暮らし、沙羅が入院すると美幸は家に独りになってしまうのだ。
「美幸がいやじゃなければ、俺が家で預かるよ。学校や塾にも通い易いだろうし……どうかな?」
と、政志は美幸に訊ねる。
「わたし、お父さんのところに行くから、お母さんは早く病気直してね」
美幸は気を使ってくれて、政志のところに行くと言っているのだろう。
沙羅は申し訳なさでいっぱいになる。
「美幸、ごめんね。お母さん、早く良くなるから……」
「うん、早く良くなってね」
「2.3日の事だから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。美幸の事は、俺に任せて、ゆっくり休んで」
「政志さん、すみません。美幸の事よろしくお願いします」
コンコンとノック音がして、看護師からすでに面会時間は過ぎている時間だと注意されてしまい、渋々美幸は政志と病室を後にした。
広い個室にひとり残された沙羅は、とたんに寂しさが押し寄せ心細くなってしまう。白い天井を見つめながら、ため息を吐くとジワリと涙が浮かぶ。
「入院だなんて……迷惑ばかりかけてダメだなぁ」
仕事を休むことになるだろうから、会社にも連絡を入れないといけない。
キョロキョロとスマホを探しても、見える範囲にはなかった。
もしかしたらと、ベッドから起き上がる。
ベッドの横にあるチェストの上には、備え付けの小さなテレビがあるだけだ。引き出しを開けると入院に関する書類と封筒。封筒の中には5枚の千円札。これは政志が入れて置いてくれたのだろう。
「スマホもお財布も家に置いたままみたい。慶太に連絡も出来ない……」
0
あなたにおすすめの小説
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
楓乃めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる