誰からも愛される聖獣に転生したのに、推しにだけ嫌われています

羽里うめこ

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セカンドキス

「レヴィと、キスしてしまいました……」

 後日、リトは唯一事情を知っているメリルにそう打ち明けた。
 メリルは驚いた様子で目を見張ったあと、はっとしてリトを見た。

「いちおう訊くけど、合意だよね?」

 学習室の机を挟んで向かい合っているせいで、まるで取り調べのようだ。真剣な表情のメリルに、リトはこくんと頷いた。

「マナの供給に協力したいって言われて……」

 正に現場がここであることは、なんとなく恥ずかしくて言えなかった。
 兄であるダレンのもとで魔術を教わっているメリルは、リトが受けているダレンの授業に時折同席することがある。今日がその日だったので、授業のあと、メリルとふたりで話せるようにダレンにお願いしたのだ。

「まあ、合意ならよかった……」

 ほっとしたように言うメリルを見て、リトは大事なことを思い出した。
 ずっと、謝りたいと思っていたことがあるのだ。

「かずきお兄ちゃん、ごめんね」
「えっ?」
「おれ、かずきお兄ちゃんに無理やりちゅーしちゃって……」

 凛斗のファーストキスは、完全に一方的なものだった。忘れられない大切な思い出ではあるのだが、子どものしたこととはいえ、よくなかったと思う。
 しゅんとしたリトに、メリルは慈しむような目をして笑った。

「びっくりはしたけど、べつに怒ったりしてないよ。
 ……ただ、心配にはなったかな。こんなに無防備でかわいくて、このまま大きくなったら悪いおとなにいいようにされちゃうんじゃないかって……」

 メリルの視線が、リトの首筋へ向けられた。

「あ」

 いまさら手で隠したところで遅い。昨日やってきたハロルドとフェリックスに散々吸い付かれて、残ってしまった痕が襟付きのシャツでも隠しきれなかったのだ。

「ほぼ、心配してた通りになってるんだよねえ……」

 泣きそうな顔で赤面したリトを見やって、メリルは深くため息を吐いた。

「でっ、でもっ、ちゃんと貞操は守ってるから!」
「うん、それはえらい」

 メリルが手を伸ばして、リトの頭をよしよしと撫でてくれた。

「まあ、レヴィさんのことは、マナの供給に協力してくれるひとが増えたと思えば、悪いことではないんじゃない?」
「そ、そうかなあ……」
「なんとしてもアデル殿下にはバレないようにしなきゃだけど」
「ううっ」

 バレたときのことを考えるだけで恐ろしい。途端に青くなったリトをじっと見つめて、メリルはふと首を傾けた。

「ねえりっちゃん。僕も、マナの供給のお手伝い、してあげられるんだよ?」
「えっ?!」
「考えたこともなかった、みたいな顔してる」
「か、考えたこともなかった」

 その通りだったので、リトは素直にうなずいた。艶ぼくろの色っぽい美少年がくすりと笑う。

「ダレン兄さんからマナを分けてもらうとき、僕のこと部屋から追い出してるもんね」
「追い出してたわけじゃないよ?! こっ、子どもに見せるようなものじゃないし……」
「ほら、それ。僕、前世から数えたらふつうに三十超えてるんだけど」

 それは確かにそうなのだが、単純に初恋のひとに見られるのが恥ずかしいという気持ちもある。
 リトが口ごもると、メリルは嘆息しながら視線を伏せた。いつ見ても長いまつ毛だ。

「僕だって、最初はそんなこと考えもしなかったよ。僕にとってのりっちゃんは、ちっちゃい体に背負ったおっきなランドセルを、うれしそうに見せにきてくれたりっちゃんのままだったから。
 ……でも、あのかわいいりっちゃんが、会うたびに大好きだって言ってくれて、プロポーズまでしてくれたりっちゃんが、僕以外の男にいやらしいことされてるのかと思ったら……」

 メリルがふと顔を上げて、せつなげに揺れる菫色のひとみでじっとリトを見つめてきた。

「やきもち、焼いちゃった」

 初恋のひとの拗ねたような声と言葉に、リトは見事に胸を撃ち抜かれてしまったのだった。




 とはいえ、やはりこの絵面は倫理的にだめなのではないだろうか。
 机の向こう側から身を乗り出したメリルに両頬を挟まれた状態で、リトは己の内の倫理と戦っていた。

「天界も魔界も、精通したら結婚できることになってるから、ちゃんと合法だよ」
「えっ、そんな基準なんだ」
「うん。未成年が結婚するときは、保護者の同意が要るけどね」

 そこは一応ちゃんとしてるんだな、と思っているうちに、いい匂いのする妖艶な美少年の顔が近づいてきた。

(わ……っ)

 反射的にきゅっと目をつむった直後に、リトの唇にメリルのそれが触れた。

(くちびる、やわらかい……いいにおいがする……)

 ついうっとりと惚けてしまったリトだったが、数秒後にはそれどころではなくなっていた。

「ん、っ?♡ っ♡ んん、ぅ、~っ♡」

(なに?! なに?! あ、だめ、だめっ、イ……っ♡)

 咥内を嬲る舌の動きにあっという間にイかされそうになって、リトは咄嗟にメリルの唇から逃げてしまった。

「んぁっ♡ ま、待って、待って……!」
「んん? どうしたの?」

 赤いくちびるを濡らした美少年が、きょとんとして首をかしげる。

「っはあ、はっ、な、なんで……?! なんでそんなにキスじょうずなの……?!」
「なんで、って……」

 前世のかずきお兄ちゃんは、リトの知る限り真面目な優等生タイプだった。

「彼女とか、連れてきてるとこ見たことなかった!」
「ああそれは、『彼女』じゃなかったから……」

 あっさりと返ってきた答えに、リトはハッとした。
 確かに、男の人はよく遊びに来ていた。『友達』が来ているときはリトは遊んでもらえなかったから、とても寂しかったことを覚えている。

(おれが寂しいの我慢してるあいだに、かずきお兄ちゃんは『友達』とえっちなことしてたんだ)

 十数年越しの衝撃に、リトはショックのあまり叫んでしまった。

「か……かずきお兄ちゃんの、ヤリチン!!」
「ちょっとりっちゃん?! どこでそんな言葉覚えてきたの?!」

 

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