24 / 49
第24話 クララの絶叫【クララ視点】
夜会の喧騒が、遠い幻聴のように耳の奥で鳴り続けている。
グラスに注がれた葡萄酒は、喉を通るたびに苦く、焼けるように熱い。
胸の内に渦巻くのは、怒り、屈辱、そして何より――恐怖。
この城のすべてが、私を拒絶しているように見えた。完璧に磨き上げられた床も、きらめくシャンデリアも、祝福の音楽さえも――まるで示し合わせたかのように、私を嘲笑っている。
「……おかしいわ、何かが……何かが、違うの」
ぽつりと漏れた声は、誰にも届かない。
いいえ、届くはずがない。
ユディス様は、私を見ない。
ユリウス様も、セドリック様も、エミリオ様でさえ、私の視線を避ける。
まるで、私が――【ヒロイン】である事を忘れてしまったかのように。
「違う……こんなの、違う!」
私の物語は、どこで間違ったの?
なぜ、誰も私を選ばない?
なぜ、私だけが、こんなにも――孤独なの?
答えは、最初から分かっていた。
――【アリス】。
あの女が現れてから、すべてが狂い始めた。
私が知っていた物語は一つ残らず、音を立てて崩れていく。
王太子も、騎士団長も、大神官も、画家も――まるで磁石に引き寄せられるように、皆、あの女を見る。
許せなかった。
どうしても、許せなかった。
リリスの代わりとして現れたあの女は、顔も、声も、立ち居振る舞いも。私よりも、ずっと――完璧な聖女に見えた。
「どうして……どうして、あの女ばかり……!」
嫉妬が、内側から私を突き動かす。
理性が、音を立てて剥がれていく。
――私は、見てしまったのだ。
人払いされたバルコニーでアリスと王弟殿下、ルーカス様が向かい合い、言葉を交わし、そして――彼が、あの女のベールに口付ける瞬間を。
手から、葡萄酒のグラスが滑り落ちた。
砕けた破片が床に散る音と同時に、私の心も、粉々に砕け散る。
「嘘……嘘、嘘、嘘!!」
視界が白く染まり、耳鳴りの中で、自分の声だけが響く。
それは、悲鳴のようで、呪詛のようでもあった。
「違う……そのキスは、私のものだった……!」
――そう。
私の知っている物語では、この夜会でルーカス様が私に告白するはずだった。
彼は、このゲームの隠し攻略対象。
条件も、選択肢も、すべて間違えていない。
それなのに――なぜ?
告白して、キスをして、結ばれる。それが【正しいルート】だったはずなのに。
「奪われた、奪われてしまったんだ……全部、あの女に……!」
私は、割れたグラスの破片ごと、葡萄酒を喉へ流し込む。
焼けるような痛みが、確かに私を生かしていた。
手も、脚も、全身が震えている。
それは怒りだけではない。
世界そのものが、嘘だったのではないかという恐怖。
「……今、私が【聖女】なのに……!」
気づけば、私は会場の中央へと歩き出していた。
ドレスの裾が床を滑る音すら、もう聞こえない。
集まる視線――嘲笑、困惑、哀れみ。
「ルーカス様は……私のものよ……!」
声は震えていた、それでも止まらなかった。
私の魂が叫んでいた。
「あのキスは、あの口付けは……私が受けるはずだったのに……!」
ざわめきが広がり空気が凍りつく。
「……クララ様、何を言っているのですか?恥ずかしい真似はおやめなさい」
セドリック様の声。
完璧な笑顔。
そして、冷たい瞳。
「黙って!」
私は叫び、彼を指差した。
震える指で、震える心のまま。
「あなたは、私を信じていたはずでしょう!あなたも……あの女の味方なのね!」
セドリック様は、哀れむように首を振る。
「……クララ様。貴女は【人の形】を失いつつある」
「……なに?」
「ご自分の【物語】に囚われすぎて、現実が見えなくなった。貴女はもう【主人公】としての役割を果たせていない」
その言葉が、深く、深く、胸を抉る。
違う。狂っているのは、私じゃない。
おかしいのは――この世界の方よ。
「……私が、主役なのに……」
誰にも届かない呟き。
誰もが、私を【狂った娘】を見る目で遠巻きにしている。
だから――私は、笑った。
誰も信じてくれない。
誰も、私を見てくれない。
ならば、この世界は――
「全部……敵よ……!」
私は、胸の奥に刻まれた記憶を、固く、固く、握りしめる。この世界を壊すための、たった一つの手段。
――私は、このゲームの【隠しコマンド】を知っている。
私がヒロインになれないのなら、この世界ごと、壊してしまえばいい。
――アリス。あの女は、私の物語を壊すために現れた【異物】なのだから。
「……許さない……絶対に……!」
その呟きだけが、崩れゆく私の心をかろうじて繋ぎ止めていた。そして私は、その【記憶】を、誰よりも深く、歪に抱きしめ続けたのだった。
グラスに注がれた葡萄酒は、喉を通るたびに苦く、焼けるように熱い。
胸の内に渦巻くのは、怒り、屈辱、そして何より――恐怖。
この城のすべてが、私を拒絶しているように見えた。完璧に磨き上げられた床も、きらめくシャンデリアも、祝福の音楽さえも――まるで示し合わせたかのように、私を嘲笑っている。
「……おかしいわ、何かが……何かが、違うの」
ぽつりと漏れた声は、誰にも届かない。
いいえ、届くはずがない。
ユディス様は、私を見ない。
ユリウス様も、セドリック様も、エミリオ様でさえ、私の視線を避ける。
まるで、私が――【ヒロイン】である事を忘れてしまったかのように。
「違う……こんなの、違う!」
私の物語は、どこで間違ったの?
なぜ、誰も私を選ばない?
なぜ、私だけが、こんなにも――孤独なの?
答えは、最初から分かっていた。
――【アリス】。
あの女が現れてから、すべてが狂い始めた。
私が知っていた物語は一つ残らず、音を立てて崩れていく。
王太子も、騎士団長も、大神官も、画家も――まるで磁石に引き寄せられるように、皆、あの女を見る。
許せなかった。
どうしても、許せなかった。
リリスの代わりとして現れたあの女は、顔も、声も、立ち居振る舞いも。私よりも、ずっと――完璧な聖女に見えた。
「どうして……どうして、あの女ばかり……!」
嫉妬が、内側から私を突き動かす。
理性が、音を立てて剥がれていく。
――私は、見てしまったのだ。
人払いされたバルコニーでアリスと王弟殿下、ルーカス様が向かい合い、言葉を交わし、そして――彼が、あの女のベールに口付ける瞬間を。
手から、葡萄酒のグラスが滑り落ちた。
砕けた破片が床に散る音と同時に、私の心も、粉々に砕け散る。
「嘘……嘘、嘘、嘘!!」
視界が白く染まり、耳鳴りの中で、自分の声だけが響く。
それは、悲鳴のようで、呪詛のようでもあった。
「違う……そのキスは、私のものだった……!」
――そう。
私の知っている物語では、この夜会でルーカス様が私に告白するはずだった。
彼は、このゲームの隠し攻略対象。
条件も、選択肢も、すべて間違えていない。
それなのに――なぜ?
告白して、キスをして、結ばれる。それが【正しいルート】だったはずなのに。
「奪われた、奪われてしまったんだ……全部、あの女に……!」
私は、割れたグラスの破片ごと、葡萄酒を喉へ流し込む。
焼けるような痛みが、確かに私を生かしていた。
手も、脚も、全身が震えている。
それは怒りだけではない。
世界そのものが、嘘だったのではないかという恐怖。
「……今、私が【聖女】なのに……!」
気づけば、私は会場の中央へと歩き出していた。
ドレスの裾が床を滑る音すら、もう聞こえない。
集まる視線――嘲笑、困惑、哀れみ。
「ルーカス様は……私のものよ……!」
声は震えていた、それでも止まらなかった。
私の魂が叫んでいた。
「あのキスは、あの口付けは……私が受けるはずだったのに……!」
ざわめきが広がり空気が凍りつく。
「……クララ様、何を言っているのですか?恥ずかしい真似はおやめなさい」
セドリック様の声。
完璧な笑顔。
そして、冷たい瞳。
「黙って!」
私は叫び、彼を指差した。
震える指で、震える心のまま。
「あなたは、私を信じていたはずでしょう!あなたも……あの女の味方なのね!」
セドリック様は、哀れむように首を振る。
「……クララ様。貴女は【人の形】を失いつつある」
「……なに?」
「ご自分の【物語】に囚われすぎて、現実が見えなくなった。貴女はもう【主人公】としての役割を果たせていない」
その言葉が、深く、深く、胸を抉る。
違う。狂っているのは、私じゃない。
おかしいのは――この世界の方よ。
「……私が、主役なのに……」
誰にも届かない呟き。
誰もが、私を【狂った娘】を見る目で遠巻きにしている。
だから――私は、笑った。
誰も信じてくれない。
誰も、私を見てくれない。
ならば、この世界は――
「全部……敵よ……!」
私は、胸の奥に刻まれた記憶を、固く、固く、握りしめる。この世界を壊すための、たった一つの手段。
――私は、このゲームの【隠しコマンド】を知っている。
私がヒロインになれないのなら、この世界ごと、壊してしまえばいい。
――アリス。あの女は、私の物語を壊すために現れた【異物】なのだから。
「……許さない……絶対に……!」
その呟きだけが、崩れゆく私の心をかろうじて繋ぎ止めていた。そして私は、その【記憶】を、誰よりも深く、歪に抱きしめ続けたのだった。
あなたにおすすめの小説
私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。
imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。
今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。
あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。
「—っ⁉︎」
私の体は、眩い光に包まれた。
次に目覚めた時、そこは、
「どこ…、ここ……。」
何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。
『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ
よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。
剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。
しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。
それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。
「期待外れだ」
「国の恥晒しめ」
掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。 だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。
『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』
彼だけが気づいた真実。
それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。
これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。
【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
【完】姉の仇討ちのハズだったのに(改)全7話
325号室の住人
BL
姉が婚約破棄された。
僕は、姉の仇討ちのつもりで姉の元婚約者に会いに行ったのに……
初出 2021/10/27
2023/12/31 お直し投稿
以前投稿したことのあるBLのお話です。
完結→非公開→公開 のため、以前お気に入り登録していただいた方々がそのままお気に入り登録状態になってしまっております。
紛らわしく、申し訳ありません。
2025/04/22追記↓
☆本文に記載ありませんが、主人公の姉は婚約破棄された時、主人公の学園卒業時に実家の爵位が国に返上されるよう、手続きをしていた…という設定アリ。