妹を殺された兄が、偽りの聖女候補になって王弟に溺愛されるまで~妹を殺した奴らに、ハッピーエンドなど与えない~

桜塚あお華

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第39話 ヨシュアの告白

 俺は――祈祷衣の前を、両手で裂く。
 破けた布が風に舞い、俺の上半身が晒される。
 ベールの下で、一生懸命声を張る。

「俺は――ヨシュア・グレイヴだ」

 その名が、広場に投げ込まれた石のように響いた。
 群衆がざわめく。神官たちが顔を見合わせ、また壇上にいる王族たちでさえ、ざっと立ち上がった。
 ざわざわとした中で、俺は声を張り出す感じで続けた。

「【アリス】なんて偽名であり、そして俺は男で女ではない。そして――あの【聖女】リリス=グレイヴの、双子の兄だ!」

 禁術で体を作り替えているので、あえて双子として声をあげると同時に広場が静まり返る。
 鐘の音すら止まったかのように、世界が凍りついた。

「リリスは……確かに神に選ばれた。だが、この国は、それを認めなかった」

 俺の声が震える。けれど、それは恐れではない。怒りでもない。
 それは、祈りのように静かで、だが確かな【叫び】でもあった。

「神殿は……王族は……!」

 声が、思っていた以上に大きく響いた。
 喉の奥が、ひりつく。

「お前たちは、民を導く【聖女】という“枠”を先に決めて――そこに、都合のいい女を当てはめただけだ!」

 指先が、震えている。
 怒りなのか、寒さなのか、自分でも分からない。

「俺の妹は、その枠に合わなかった。ただ、それだけの理由で――!」

 息を吸う。
 胸が、焼けるように痛む。

「だから、見殺しにした。記録から消した。最初から――いなかった事にしたんだ!!」

 最後の言葉は、俺自身の【心】だった。
 風が吹き抜ける――裂いた衣の隙間から、冷たい空気が肌に突き刺さる。
 汗が一気に冷え、背筋を這い落ちた。
 それでも、止まらなかった。

「……俺は……!」

 一拍、喉が詰まり、声が震えそうになるのを、歯を食いしばって押さえつける。

「俺は、彼女の名誉を取り戻すために、ここに立った!」

 視界が、滲む。
 それでも、前を見据える。

「奪われた【真実】を、黙ってなかった事にさせないために!忘れられた祈りを、嘘の上書きで終わらせないために!」

 胸を叩く。

「この手で、この声で、リリスの祈りを、もう一度この国に響かせるために!!」

 言い切った瞬間。世界が、止まった。
 ざわめきも、息遣いも、風の音さえも、すべてが遠のく。広場は、異様な沈黙に包まれていた。
 クララが、小さく息を吸ったのが見えた。
 口元が、震える。何かを言おうとして、けれど――声が、出ない。
 そのまま、彼女自身の信仰が、崩れる音がした。目には見えないはずのそれが、確かに傾いたのが分かったから。
 王族席の奥で、誰はが掠れた声を漏らす。

「……双子の……兄……だと……?」

 それは、確認ではなく、呆然とした呟きだった。
 誰も想像していなかった。
 誰も、想像したくなかった【真実】を。

 ――俺は、もう逃げ場のない場所に立っている。

 ベールを静かに脱ぎ、衣を裂き、性別も、立場も、嘘も、すべて剥ぎ取った。ここが、舞台の中央だ。

(リリス……)

 胸の奥で、名を呼ぶ。

(俺は、やったよ……もう……誰にも、お前を否定させない)

 次の瞬間、クララの目が、ぐらりと揺れ――記憶が、溢れ出したのだろう。

 炎。
 差し伸べられた手。
 怯えた瞳。
 そして――背を向けた、自分自身。
 彼女の唇が、かすかに動く。

「……いや……」

 声にならない。

「……違う……違うの……あれは……私じゃ……ない……っ」

 次の瞬間、唐突に――声が、弾けた。

「ち、違う!!」

 悲鳴に近い叫びだった。
 取り繕う余裕も、聖女の声色も、もう残っていない。

「わ、私だって……理由があったのよ!!」

 両肩が激しく上下する。
 視線が泳ぎ、誰を見るでもなく宙を彷徨う。

「だって……だって、あのままだったら……!!リリスが選ばれたら……私は……私は……!幸せになれない!ハッピーエンドのエンディングを迎えない!リリスは、ゲームでは悪役だったのに!!」

 言葉が、喉で絡まり、崩れる。

「神は……神は、私を選んだはずだった!!なのに……なのに、あの子が……!」

 そして、ほとんど泣き叫ぶように。

「……ちゃんと、理由はあったのよ……何も考えずに……殺したわけじゃ……っ」

 その言葉が、空に散る。 散るのだが、その【理由】に、誰も頷かなかった。
 誰も、救いを見出さなかった。
 その言葉を誰もが理解をしようとしなかったから。

 ――そして、クララ自身も。

 本当は、分かっていたはずだった。
 あの夜、自分が【選んだ】のは神ではなく、ただ――自分自身を守るための罪だったということを。
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