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第05話 過保護すぎる入浴
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朝食を終え、ユリウスはようやく息をついた。
食卓での攻防(主にサラの“ご夫婦扱い)がひと段落したかと思った矢先だった。
コンコン、とドアがノックされ、メイド長のサラが入ってくる。
手にはタオルとガウンを抱え、にこにこと微笑んでいた。
「旦那様のお風呂の準備が整いました」
「誰が旦那様ですか!?」
思わず椅子を蹴って立ち上がる。
しかしサラは気にも留めない。
「お湯加減はお好みの温度にしてあります」
笑顔でそのように続けた。
「だからと言って、私は旦那様じゃなくてですね!」
「ええ、もちろん奥様のほうではございませんし」
「違う!そういう問題じゃない!!気づいて下さい!!」
全力で否定しているというのに、サラは優雅に一礼して去っていく。
残されたのは、紅茶の香りと、静かに笑っているカイン。
「……笑ってません?」
「少しだけ」
「笑うな! 人の尊厳の問題だぞ!」
「尊厳ごと、守ってやる」
「どういう意味だよ!?」
叫んだところで、なにも構わない。
少し諦めながら、とりあえず浴室の方に向かう事にした。
浴室は、屋敷の規模にふさわしく、まるで温泉施設のように広かっている。
白い大理石の壁に、蒸気と香草の香りが立ちこめ、床は鏡のように磨かれている。
ユリウスは思わず、感嘆のため息を漏らした。
「……こんな風呂、王宮でも見たことない」
「俺が造らせた」
「どうりで!すごいなぁ!?」
ため息交じりに上着を脱ぎかけた、その時――背後に、気配。
「……カイン?」
振り返ると、ドアの前で例の騎士が腕を組んで立っていた。
「何してる!」
「見張りだ」
「風呂場の!?」
「怪我がないか、確認するために」
「覗く理由が正当化されてないか!?」
タオルを掴んで追い払おうとするが、カインは一歩も引かない。
しかも、あいかわらず真顔なのが余計に腹立たしい。
「昨日、寒空の下にいた……風邪を引いていないか心配だった」
「あなた医者でも看護師でもないでしょうが!」
「元騎士だ。応急処置なら心得ている」
「知識の使い方が間違ってるから!!」
蒸気が立ちこめる中、ユリウスは湯船に滑り込み、頭を抱える。
熱い湯が肌を包み、ふうっとため息が漏れた。
「……もう好きにしてください……」
「本当にいいのか?」
「冗談だ!出てけ!」
少し細めでこちらに視線を向けていたのだが、ようやくカインの足音が遠ざかり、ドアが閉まる音がした。
ユリウスは湯の中で深く息をつく。
(……ほんとになんなの、この人……)
ため息と一緒に、泡がひとつ浮かんだ。
しばらくして風呂を上がると――再びカインがいた。
「なぜいる!!」
「タオルを持ってきた」
差し出されたタオルの畳み方は完璧だった。
角までぴっちり揃い、ほのかに香りまでついている。
「……あなた、本当に侍女でも執事じゃないですよね?」
「侍女ではない。騎士だ」
「いや、完璧すぎて怖いんだけど!?」
ユリウスはタオルをひったくり、乱暴に頭を拭く。
髪を払いながら顔を上げると、カインはじっと見ていた。
「……何ですか」
「髪が伸びたなと思って」
「見るな!」
「切るなら、俺がやる」
「なんでですか!?」
「昔、お前の髪を整えたのを覚えてる」
「そんな思い出いらない!」
顔まで真っ赤にして、ユリウスはタオルを投げた。
だが、カインはそれを丁寧に受け止め静かに畳み直す。
「タオルの扱いまで完璧なの、ほんと腹立つ!」
そのように言いながら更衣室の前にいくと、いつの間にか新しい服が用意されていた。
それも、ユリウスのサイズにぴったりの仕立て。
「……これ、用意したの?」
「ああ。お前に似合うと思って」
「そんな即答いらない!」
「気に入らないか?」
「気に入る以前に、怖いんですよ!」
服を抱えて更衣室に入ろうとした瞬間――扉の外から、またもやカインの声が聞こえてきた。
「必要なら手伝う」
「入ってくるな!!」
「安心しろ。下を見なければ問題ない」
「問題しかないわ!!出てけ!!」
更衣室の中で、ユリウスは顔を真っ赤にして叫ぶ。
これほど羞恥にまみれた朝は、生まれて初めてだった。
着替えを終えて髪を整え、部屋を出ると――すぐそこにサラが立っていた。
いつも通りの笑顔で、二人を見比べる。
「まあ、仲睦まじくて何よりです」
「仲良くない!!」
ユリウスの叫びが屋敷に響き渡る。
「旦那様が見守ってくださるなんて、まるで新婚初夜のようですわね」
「だから違うって言ってるでしょうが!?」
サラは「はいはい」と軽やかに一礼し、去っていった。
カインは紅茶を一口飲みながら、ぽつりと呟く。
「新婚初夜、か」
「繰り返すなあああーーっ!!」
豪奢な屋敷に、ユリウスの悲鳴とため息が響く。
その隣で淡々と紅茶を飲むカインの横顔は、どこまでも落ち着いていた。
「はぁ……あなたの『守る』って、いろいろ間違ってませんか?」
「正しいと思ってる」
「もう……知らない……」
呆れ果てたように頭を押さえるユリウス。
その頬が、うっすら赤いのを――カインは見逃さなかった。
食卓での攻防(主にサラの“ご夫婦扱い)がひと段落したかと思った矢先だった。
コンコン、とドアがノックされ、メイド長のサラが入ってくる。
手にはタオルとガウンを抱え、にこにこと微笑んでいた。
「旦那様のお風呂の準備が整いました」
「誰が旦那様ですか!?」
思わず椅子を蹴って立ち上がる。
しかしサラは気にも留めない。
「お湯加減はお好みの温度にしてあります」
笑顔でそのように続けた。
「だからと言って、私は旦那様じゃなくてですね!」
「ええ、もちろん奥様のほうではございませんし」
「違う!そういう問題じゃない!!気づいて下さい!!」
全力で否定しているというのに、サラは優雅に一礼して去っていく。
残されたのは、紅茶の香りと、静かに笑っているカイン。
「……笑ってません?」
「少しだけ」
「笑うな! 人の尊厳の問題だぞ!」
「尊厳ごと、守ってやる」
「どういう意味だよ!?」
叫んだところで、なにも構わない。
少し諦めながら、とりあえず浴室の方に向かう事にした。
浴室は、屋敷の規模にふさわしく、まるで温泉施設のように広かっている。
白い大理石の壁に、蒸気と香草の香りが立ちこめ、床は鏡のように磨かれている。
ユリウスは思わず、感嘆のため息を漏らした。
「……こんな風呂、王宮でも見たことない」
「俺が造らせた」
「どうりで!すごいなぁ!?」
ため息交じりに上着を脱ぎかけた、その時――背後に、気配。
「……カイン?」
振り返ると、ドアの前で例の騎士が腕を組んで立っていた。
「何してる!」
「見張りだ」
「風呂場の!?」
「怪我がないか、確認するために」
「覗く理由が正当化されてないか!?」
タオルを掴んで追い払おうとするが、カインは一歩も引かない。
しかも、あいかわらず真顔なのが余計に腹立たしい。
「昨日、寒空の下にいた……風邪を引いていないか心配だった」
「あなた医者でも看護師でもないでしょうが!」
「元騎士だ。応急処置なら心得ている」
「知識の使い方が間違ってるから!!」
蒸気が立ちこめる中、ユリウスは湯船に滑り込み、頭を抱える。
熱い湯が肌を包み、ふうっとため息が漏れた。
「……もう好きにしてください……」
「本当にいいのか?」
「冗談だ!出てけ!」
少し細めでこちらに視線を向けていたのだが、ようやくカインの足音が遠ざかり、ドアが閉まる音がした。
ユリウスは湯の中で深く息をつく。
(……ほんとになんなの、この人……)
ため息と一緒に、泡がひとつ浮かんだ。
しばらくして風呂を上がると――再びカインがいた。
「なぜいる!!」
「タオルを持ってきた」
差し出されたタオルの畳み方は完璧だった。
角までぴっちり揃い、ほのかに香りまでついている。
「……あなた、本当に侍女でも執事じゃないですよね?」
「侍女ではない。騎士だ」
「いや、完璧すぎて怖いんだけど!?」
ユリウスはタオルをひったくり、乱暴に頭を拭く。
髪を払いながら顔を上げると、カインはじっと見ていた。
「……何ですか」
「髪が伸びたなと思って」
「見るな!」
「切るなら、俺がやる」
「なんでですか!?」
「昔、お前の髪を整えたのを覚えてる」
「そんな思い出いらない!」
顔まで真っ赤にして、ユリウスはタオルを投げた。
だが、カインはそれを丁寧に受け止め静かに畳み直す。
「タオルの扱いまで完璧なの、ほんと腹立つ!」
そのように言いながら更衣室の前にいくと、いつの間にか新しい服が用意されていた。
それも、ユリウスのサイズにぴったりの仕立て。
「……これ、用意したの?」
「ああ。お前に似合うと思って」
「そんな即答いらない!」
「気に入らないか?」
「気に入る以前に、怖いんですよ!」
服を抱えて更衣室に入ろうとした瞬間――扉の外から、またもやカインの声が聞こえてきた。
「必要なら手伝う」
「入ってくるな!!」
「安心しろ。下を見なければ問題ない」
「問題しかないわ!!出てけ!!」
更衣室の中で、ユリウスは顔を真っ赤にして叫ぶ。
これほど羞恥にまみれた朝は、生まれて初めてだった。
着替えを終えて髪を整え、部屋を出ると――すぐそこにサラが立っていた。
いつも通りの笑顔で、二人を見比べる。
「まあ、仲睦まじくて何よりです」
「仲良くない!!」
ユリウスの叫びが屋敷に響き渡る。
「旦那様が見守ってくださるなんて、まるで新婚初夜のようですわね」
「だから違うって言ってるでしょうが!?」
サラは「はいはい」と軽やかに一礼し、去っていった。
カインは紅茶を一口飲みながら、ぽつりと呟く。
「新婚初夜、か」
「繰り返すなあああーーっ!!」
豪奢な屋敷に、ユリウスの悲鳴とため息が響く。
その隣で淡々と紅茶を飲むカインの横顔は、どこまでも落ち着いていた。
「はぁ……あなたの『守る』って、いろいろ間違ってませんか?」
「正しいと思ってる」
「もう……知らない……」
呆れ果てたように頭を押さえるユリウス。
その頬が、うっすら赤いのを――カインは見逃さなかった。
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