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第22話 夜の口論と誇りの衝突
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夜風がわずかにカーテンを揺らしている。
秋の冷たい空気が、開けた窓からじわじわと入り込み、室内を冷やしていく。
ユリウスの寝室は静まり返っていた――けれど、その空気は決して穏やかではなかった。
「……結局、俺は『売られた男』のまま、なんですね」
吐き出されたその言葉は、ただの皮肉でも反抗でもなかった。
まるで、鋭く砕けたガラス片を手渡すような痛みを孕んでいるかのように、空気が凍りつく。
ユリウス自身の胸の中さえも、冷たく刺してきた。
ベッド脇に立つカインは、わずかに眉を動かした。
けれど、すぐには返さない。
まるで、沈黙で言葉を慎重に見極めているかのようだった。
だが――それが、ユリウスには『同情』のように見えた。
「……そうですよね。『商品』だったんです、最初から。俺、自分でそれを選んだんです……自分を金に変えるって……ちゃんと、納得してたはずなのに……」
声が震える。
けれど、止まらなかった。
口にすればするほど、胸の内側がズタズタになっていく。
「覚悟して自分を売りに出そうとして……それで――」
言いかけて、唇を噛んだ。
(カイン、あなたに『買われて』嬉しかった、なんて言えない……)
だが、もう止まらない。
堰を切ったように、心の底が溢れ出す。
耐えてきた感情が、感謝さえ押し流すように込み上げてくる。
その時――カインが、静かに一歩を踏み出した。
机のそばで足を止めると、まっすぐにユリウスを見据える。
その視線はいつも通り冷静で、けれど、わずかに揺れていた。
「……違う」
低く落とされたその声に、ユリウスの肩がびくりと震えた。
「お前を『買った』んじゃない――俺は『誰にも渡したくなかった』……それだけだ」
その言葉には、責める色はなかった。
ただ、静かで、苦しいほどの誠実さだけが滲んでいた。
「……また、それだ」
ユリウスの喉が詰まる。
「『守った』って……そう言えば、何もかも正当化できると思ってるんじゃないのか……!」
抑えきれない感情が、声を震わせる。
どんなに冷静を装っても、涙がにじみそうになるのを止められなかった。
「お前が何を思って、俺に手を伸ばしたのかなんて……今じゃ、もうわからない。でも『守られる』って言葉が……最近は、ただの鎖にしか思えないんだよ……!」
振り払いたかった、優しさごと、その手を。
それなのに、ずっと手の中にあったぬくもりだけが皮膚の奥に残っている。
「もう、御免だ!誰かに守られて、黙って従って、安心してるだけの俺なんて!」
それは怒りではなく、恐れだ。
誰かに期待することの、傷つくことの、裏切られることの――全てへの恐れ。
声が、張り詰めた空気の中に叩きつけられ、壁に跳ね返る。
その余韻だけが、重く部屋を支配していた。
カインが、机に置かれていた本をそっと閉じた。
その音がやけに静かに響いた。
「なら、守ることが罪だというのか?」
「……っ」
「もしそうなら、俺はその罪を、何度でも犯す」
その言葉は、ひどく静かで、ひどく熱かった。
目を見開いたユリウスは、思わず息を飲む。
カインの視線がまっすぐに、自分を見ていた。
どこまでも純粋で、そして不器用な――真っ直ぐすぎる、男の想いだった。
「……なんで……そんなふうに言えるんだよ……」
胸が痛い。
自分だけが立ち止まっていて、カインだけが前を見ているようで。
でも、言葉を止めることができなかった。
「じゃあ……俺は、お前の……何なんだ」
思わずこぼれた声は、震えていた。
涙が混じっていたかもしれない。
だけど、それを止める余裕なんてなかった。
長い沈黙が落ちる。
カインは何も言わなかった。
いつもなら即座に返ってくるはずの、どこかズレた、でも真っ直ぐな言葉さえ――今日は、なかった。
その沈黙が、ユリウスの胸に、どこまでも深く突き刺さった。
しん……と静まり返った寝室に、風が吹き込む。
遠くで、雷の気配がしていた。
嵐の予感がする。
それは、外の空模様だけではなく、二人の心の中にも確かに忍び寄っていた。
秋の冷たい空気が、開けた窓からじわじわと入り込み、室内を冷やしていく。
ユリウスの寝室は静まり返っていた――けれど、その空気は決して穏やかではなかった。
「……結局、俺は『売られた男』のまま、なんですね」
吐き出されたその言葉は、ただの皮肉でも反抗でもなかった。
まるで、鋭く砕けたガラス片を手渡すような痛みを孕んでいるかのように、空気が凍りつく。
ユリウス自身の胸の中さえも、冷たく刺してきた。
ベッド脇に立つカインは、わずかに眉を動かした。
けれど、すぐには返さない。
まるで、沈黙で言葉を慎重に見極めているかのようだった。
だが――それが、ユリウスには『同情』のように見えた。
「……そうですよね。『商品』だったんです、最初から。俺、自分でそれを選んだんです……自分を金に変えるって……ちゃんと、納得してたはずなのに……」
声が震える。
けれど、止まらなかった。
口にすればするほど、胸の内側がズタズタになっていく。
「覚悟して自分を売りに出そうとして……それで――」
言いかけて、唇を噛んだ。
(カイン、あなたに『買われて』嬉しかった、なんて言えない……)
だが、もう止まらない。
堰を切ったように、心の底が溢れ出す。
耐えてきた感情が、感謝さえ押し流すように込み上げてくる。
その時――カインが、静かに一歩を踏み出した。
机のそばで足を止めると、まっすぐにユリウスを見据える。
その視線はいつも通り冷静で、けれど、わずかに揺れていた。
「……違う」
低く落とされたその声に、ユリウスの肩がびくりと震えた。
「お前を『買った』んじゃない――俺は『誰にも渡したくなかった』……それだけだ」
その言葉には、責める色はなかった。
ただ、静かで、苦しいほどの誠実さだけが滲んでいた。
「……また、それだ」
ユリウスの喉が詰まる。
「『守った』って……そう言えば、何もかも正当化できると思ってるんじゃないのか……!」
抑えきれない感情が、声を震わせる。
どんなに冷静を装っても、涙がにじみそうになるのを止められなかった。
「お前が何を思って、俺に手を伸ばしたのかなんて……今じゃ、もうわからない。でも『守られる』って言葉が……最近は、ただの鎖にしか思えないんだよ……!」
振り払いたかった、優しさごと、その手を。
それなのに、ずっと手の中にあったぬくもりだけが皮膚の奥に残っている。
「もう、御免だ!誰かに守られて、黙って従って、安心してるだけの俺なんて!」
それは怒りではなく、恐れだ。
誰かに期待することの、傷つくことの、裏切られることの――全てへの恐れ。
声が、張り詰めた空気の中に叩きつけられ、壁に跳ね返る。
その余韻だけが、重く部屋を支配していた。
カインが、机に置かれていた本をそっと閉じた。
その音がやけに静かに響いた。
「なら、守ることが罪だというのか?」
「……っ」
「もしそうなら、俺はその罪を、何度でも犯す」
その言葉は、ひどく静かで、ひどく熱かった。
目を見開いたユリウスは、思わず息を飲む。
カインの視線がまっすぐに、自分を見ていた。
どこまでも純粋で、そして不器用な――真っ直ぐすぎる、男の想いだった。
「……なんで……そんなふうに言えるんだよ……」
胸が痛い。
自分だけが立ち止まっていて、カインだけが前を見ているようで。
でも、言葉を止めることができなかった。
「じゃあ……俺は、お前の……何なんだ」
思わずこぼれた声は、震えていた。
涙が混じっていたかもしれない。
だけど、それを止める余裕なんてなかった。
長い沈黙が落ちる。
カインは何も言わなかった。
いつもなら即座に返ってくるはずの、どこかズレた、でも真っ直ぐな言葉さえ――今日は、なかった。
その沈黙が、ユリウスの胸に、どこまでも深く突き刺さった。
しん……と静まり返った寝室に、風が吹き込む。
遠くで、雷の気配がしていた。
嵐の予感がする。
それは、外の空模様だけではなく、二人の心の中にも確かに忍び寄っていた。
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