23 / 41
第20話、魔獣討伐開始
しおりを挟む「――嫌な予感がするのは気のせいでしょうか、レンディス様?」
魔獣討伐の為に森の中を探索しているアリシアが静かに、ぽつりと言う。レンディスもそんなアリシアの言葉に耳を傾けながら、首をかしげる。
アリシア自身、どうしてそのような事を思ってしまったのかわからない。ただ、不安と言う言葉がアリシアの頭から離れないでいた。
普通ならばこの田舎にグレートウルフの群れなんて居るはずがない。逃げてきたのか、それとも――そのように深く考えてしまう自分が居る。
アリシアの言葉に反応したレンディスは警戒を解くことはないまま、アリシアの言葉に耳を貸す。
「嫌な予感とは……アリシア様の予感は時々当たるから怖いんですけど」
「それは……なんか、すみません」
「悪気があっていっているわけではないので、気にしないでください……でも、確かにアリシア様の言う通り、グレートウルフ一匹だったらまだわかるのですが、群れとなると気になりますね」
「……この地は季節的、寒い地域に入ります。しかし、グレートウルフは主に暑い地域に生息している事が多い……だから、こんな田舎に、しかも群れが来るなんて想定外なんですよね。そこは伯母上も言っていました」
資料を渡され、説明をされた時にぼやくように呟いていた叔母の顔を思い出す。何か厄介ごとに巻き込まれているのではないだろうか、と言う雰囲気も添えて。
同時に嫌そうな顔をしながら、アリシアはレンディスに目を向けた。
「……私って本当に、巻き込まれる体質なのでしょうか……」
「……」
アリシアの言葉に、レンディスは何も言えなかった。
彼女は確かに厄介な事件などに巻き込まれているのが多いなと感じつつ、慰めようとしたけれど、その言葉すら見つからないのである。
ため息を吐きながら頭を押さえているアリシアは、ふと今回の討伐の事と女狐であるラフレシアの事を思い出していた。もし、この二つが何かの関係で一つにつながったならそれはそれでありがたいなと思いつつ。絶対に無理な話なのだが。
とりあえず目の前の事を何とかしなければいけないと感じたアリシアは辺りを警戒し始める。
「……レンディス様、防御魔法が溶けそうになりましたら、言ってください。かけなおします」
「了解した」
森の中に入り、そろそろ1時間ぐらい立とうとしている。防御魔法はそれぐらいの時間になると消えてしまうので、確認をしながら進んでいくしかない。どうやらまだ続いているらしく、レンディスは催促をしてこなかった。
ゆっくりと奥に進むにつれて、レンディスが何かを思い出したかのようにアリシアに声をかけてきた。
「そう言えば思ったのですが、アリシア様」
「はい?」
「もし、討伐依頼が終わったら、『アリシア』と呼んでも構わないでしょうか?」
「…………え?」
突然何を言い出すのかこの男はと思いながらアリシアの動きが止まってしまう。そして徐々に顔が真っ赤に染まり始めていき、アリシアは言葉が出なくなってしまい、口をパクパクさせながら動かす。
レンディスの表情は変わらず、いつもの顔だった。こちらを向き、首をかしげながら話を続ける。
「出会った時から礼儀正しく『様』と呼んでおりました。もし、あなたが嫌でなければ、そろそろ呼び捨てで名前を呼びあう仲になりたい、なと思いまして」
――求婚もしているので。
真顔で、はっきりとそれを言ってきたので、アリシアの顔は崩壊しかけている。まさかそのような発言を言われるとは考えていなかったらしい。
しかし、確かにアリシアとレンディスはお互い礼儀正しく、『様』をつけながら話をしていたなと。
数年、アリシアにとってレンディスと言う存在は今はわからないが、大切な友人だと思っている。もしかしたらそれ以上の関係になるかもしれないと思いながらも。まだ返事をしていないので。
しかし、それぐらいならばとアリシアは恥ずかしそうにうなずいた。
「……で、では、終わったら、その、私は『レンディス』とお呼びしても良い、と言う事でしょうか?」
「はい、では俺は『アリシア』、と」
「……なんか、恥ずかしいです」
「そうですか?」
「きょとっとしているレンディス様がうらやましい……あ」
うらやましいと言った瞬間、アリシアはレンディスの耳の方に視線を受けると、そこには耳を真っ赤にさせているレンディスの姿があった。どうやら彼もアリシア同様に恥ずかしいらしい。
レンディスでも表情には見せないが、耳を真っ赤にすることもあるのだなと思いながら、思わず見た事のない一面を見られたアリシアが背を向けて歩き出し始めたレンディスに対し、フフっと笑っていた時だった。
「――やぁ、アリシア・カトレンヌ」
耳から静かに聞こえてきたのは、その時だった。
アリシアは急いで杖を手に召喚させ、声が聞こえた方面に振り下ろしたが、そこには誰も居なかった。その代わり、微かに嫌な空気がその場から纏っているのが分かる。
すぐに分かった。
その相手が何者かと言うのに。
レンディスもそれに気づいたのか、すぐさま剣を抜き、アリシアの前に出る。
そしてそこに姿を現したのは、一人の少年の姿だ。
フフっと笑いながら、アリシアに目を向けて、何処か楽しそうにしている。
「……ベリーフ」
「こんにちわ、アリシア……相変わらず君の眼は綺麗だね」
そのように告げた少年は、再度楽しく笑った。
1
あなたにおすすめの小説
「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。
腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。
魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。
多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。
第一王子様から選ばれるのは自分だと確信していた妹だったけれど、選ばれたのは私でした。
睡蓮
恋愛
ルビー第一王子様からもたらされた招待状には、名前が書かれていなかった。けれど、それを自分に宛てたものだと確信する妹のミーアは、私の事をさげすみ始める…。しかしルビー様が最後に選んだのは、ミーアではなく私だったのでした。
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる