何もかも全て諦めてしまったラスボス予定の悪役令息は、死に場所を探していた傭兵に居場所を与えてしまった件について

桜塚あお華

文字の大きさ
32 / 51

第32話※

しおりを挟む
 クリスはハイデンの背中を抱きしめながら、ゆっくりと腰を引く。
 そして、また奥へと押し入る。その動きは慎重で、優しく、けれどどこまでも深く感じさせられる。

「んっ……ぁ……っ、あ……ぁっ!」

 突かれるたびに、ハイデンの身体が跳ねる。
 声が、止められない。苦しさと快感の狭間で揺れながら、彼はクリスの名を必死に呼ぶ。

「クリス……っ、もう……や、ばい……っ」
「ああ……気持ちいいか?奥、当たってる……?」
「やっ……あ、そこ……っ!」

 奥にある一点を擦られた瞬間、ハイデンの背中がびくりと反る。そこを知っているかのようにクリスはゆっくり、的確に、そこを突き続けた。

「気持ちいいところ、ここだな……?」
「だ、め……っ、そんなの……っ、もう……!」

 ハイデンの目尻から、再び涙が零れる。それをクリスが舌で掬い取り、優しく唇を重ねた。

「泣くな……泣いているところを見ると、ちょっと攻めたくなる」
「ば、ふざけ……んぁっ!」

 ニヤっと笑いながら答えるクリスに思わず反撃しかけたが、すぐにそれすらも考えられなくなる。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と水音が響く中、腰の奥で交わる音が二人の息遣いを濃く染めていく。
 クリスの動きは、次第に激しさを増していく。ハイデンの腰をしっかりと抱え、奥の奥まで突き上げるように。

「あ、ぁ、あっ、やっ……そ、そこっ……っ、だめ、イッ……!」
「ああ……ハイデン……綺麗だ……お前の全部が、俺を狂わせる」

 熱く絡み合い、何度も貫かれるたびにハイデンの理性は溶けていく。
 快感に震えながら、腰を引いては、また押し返す――まるでクリスを求めるように。

「もう……だめ、イきそうっ、クリス、っ……!」
「ああ、いいぞ、イって……俺の中で、全部出して」

 クリスの手が、ハイデンの前を強く扱く。
 その刺激と、奥を擦られる衝撃に、ハイデンは限界を超えた。

「クリス……ぁっ、あぁぁああっ!!」

 白濁が跳ね上がる。身体を仰け反らせながら、全身で絶頂を迎える姿が、あまりにも艶やかで。
 その締まりに、クリスもまた堪えきれず、唇を噛んだ。

「……く、ハイデン……イく、俺もっ……!」

 どくん、と奥で熱が迸る。
 自分の中に注がれる感覚に、ハイデンはびくびくと痙攣しながら、快感に身を任せていた。
 二人の身体は重なったまま、しばらく動かず――ただ、互いの熱と鼓動を感じていた。

  ▼ ▼ ▼

 激しい熱がゆっくりと鎮まっていく中で二人はしばらく抱き合ったまま動かなかった。外の風が木々を揺らす音だけが、静かな夜に微かに流れている。
 クリスは結合を解くと、ハイデンの身体をそっと抱き寄せた。
 乱れた息を整えながら、汗に濡れた髪を指で梳き、額に軽く口づける。

「……大丈夫か?」

 低く落ち着いた声。
 戦場では見せることのない、柔らかい響きだった。

「……ああ、大丈夫……クリスが……優しかったから」

 ハイデンはそう答えながら、クリスの胸に頬を寄せた。深く息を吸うと、彼の匂いが胸いっぱいに広がる。
 あたたかい――その温度に触れているだけで、自分の中の黒いものが少し薄まったように感じた。
 クリスの腕が、ハイデンの背をゆっくり撫でる。その何気ない仕草が心地よくて、安心で――そして、怖かった。

「……クリス」
「ん?」
「もし……僕が、またおかしくなったら……」

 言いかけた言葉を、クリスは指でそっと塞いだ。

「なら、何度でも抱きしめる。何度でも引き戻す。お前が戻る場所は、ここだ」

 あまりにもまっすぐなその言葉に、胸が締めつけられる。
 涙が零れそうになるのを、ハイデンは必死で堪えた。

(……言わないでくれ。そんなふうに優しくされたら……)

 クリスは疲弊した身体をベッド代わりの毛皮に横たえ、ハイデンの髪を撫でたまま眠りに落ちていった。その寝息は穏やかで、包み込むような温かさがあった。
 ハイデンはしばらく、その胸元に耳を当てていた。
 心臓の音は、想像以上に落ち着いていて――それが返って痛かった。

 (クリス……ごめん。僕は……)

 彼が眠っている間だけ、自分は弱くなれる。けれど、夜明けが来ればまた、己の内側の【それ】が目を覚ましてしまう。

 ――壊してしまう、次こそ、きっと。

 その恐怖が、甘い余韻を静かに侵蝕していく。
 そして――ハイデンはそっと身を起こした。
 クリスの腕が、名残惜しげに肩から滑り落ちる。その温もりが消えた瞬間、胸の奥に鋭い痛みが走った。

 (……これ以上、一緒にはいられない)

 そう思うには、あまりにも優しい夜だった。
 こんなふうに守られて、誰かの隣で眠れる夜が、あと何度あるのだろう。
 あるいは――これが最後なのかもしれない。
 ハイデンはそっと息を吐きながら、指先を組む。掌の上に、淡い光がゆらりと揺れる。

(ずっと考えていた。死ぬか、それとも、このまま深い眠りに落ちるかを……死んだら、きっとクリスが悲しむ。けど、自分の意識を封印すれば、もしかしたら――)

 数年前から考えていた事。そして、もし、このまま魔力自体が暴走してしまったら、ゲームのようなハイデンになってしまったら、クリスは止められない。
 ハイデンは意識を集中させ、自分に魔術をかける。
 自分の意識全てを封印するために。

(これでいい。これしか、ないんだ……)

 震える手を押さえながら、魔術陣の構成を組み上げていく。
 ほんのわずかに手をかけた魔術が、クリスの眠りを深く保ってくれている。
 目を覚ますことはない――そう信じたかった。
 ハイデンは再度、クリスの顔を見つめる。寝息は安らかで、眉が少しだけ寄っているのが、どこまでもクリスらしかった。

「……ありがとう、クリス、最後まで僕を守ろうとしてくれて」

 かすれた声でそう呟いた。届かなくてもいい。
 ただ、自分の心のためだけに、言葉にした。

「お前が僕の所に来てくれて、傍にいてくれて……本当に、良かった」

 魔術が完成する。ハイデンの体を淡い光が静かに包み込んでいく。
 意識が沈み始め――深く、深く、水底へと落ちていくように。
 最後に見たのは、クリスの寝顔だった。

(これでいい。これで……)

 思考が、感情が、痛みも恐れも、すべてが遠ざかっていく。眠りが全てを覆った時、夜の小屋は再び静寂が残ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
 【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!  僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして? ※R対象話には『*』マーク付けます。

無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)

攻略対象の婚約者でなくても悪役令息であるというのは有効ですか

中屋沙鳥
BL
幼馴染のエリオットと結婚の約束をしていたオメガのアラステアは一抹の不安を感じながらも王都にある王立学院に入学した。そこでエリオットに冷たく突き放されたアラステアは、彼とは関わらず学院生活を送ろうと決意する。入学式で仲良くなった公爵家のローランドやその婚約者のアルフレッド第一王子、その弟のクリスティアン第三王子から自分が悪役令息だと聞かされて……?/見切り発車なのでゆっくり投稿です/オメガバースには独自解釈の視点が入ります/魔力は道具を使うのに必要な程度の設定なので物語には出てきません/設定のゆるさにはお目こぼしをお願いします/2024.11/17完結しました。この後は番外編を投稿したいと考えています。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

処理中です...