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第4章 錬金都市アラストと知り合いだと思いたくない知り合い
第32話 街の裏側と、子どもの病
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市場の一角、石畳の隅に小さく身を寄せるように並んだ露天の店々。
その中でも目立たぬ場所に小さな布を広げた少年の姿があった。
「お兄ちゃん、ご主人様、こっち……あの子お昼からずっといるんです」
ルーナが指差したのは、色あせたマントに身を包んだ十歳ほどの少年。
果物や小物を並べているが、誰も足を止めてはいない。
「……売れてないみたいだな」
ガルドが目を細め、少年にゆっくりと近づいた。
「やぁ。ちょっと見せてもらってもいいかな?」
「……あ、はいっ」
少年は慌てて立ち上がり、慣れない様子で品を並べ直す。
「これは……乾燥保存できる薬草か?」
ガルドが摘んだのは、素朴な香草の束だった。
「はい、森で採ったんです……妹の看病の合間に……」
その言葉に、ガルドとルーナの表情がぴたりと変わった。
「看病?」
「妹さん、病気なんですか?」
「……はい。三日前から、ずっと熱が下がらなくて……お医者様にも診てもらったけど、精霊障害かもしれないって……うちは錬金師じゃないから、治療の手段がなくて……」
少年の声は、途中から震えていた。
「だったら、案内して」
ルーナが即座に言った。
珍しく、迷いがまったくない。
ガルドも頷く。
「行こう。診せてもらえれば何かわかるかもしれない」
「で、でも、お代とか、その、ないんです!」
「心配しなくていいよ、俺たちはただ……助けたいだけだから」
そう言って微笑むガルドに少年は目を見開き、すぐに小さく頭を下げた。
「……こっちです!」
▽
裏通りを抜けた先、ぼろついた長屋の一室。
そこには薄い布団に横たわる少女の姿があった。
年の頃は五歳か六歳。
頬はこけ、瞼は赤く腫れている。
額には冷え布が当てられていたがそれでも熱は下がっていないようだった。
「精霊障害……たしかにその兆候がある」
ルージュが静かに額に手を当てる。
「周囲の魔力を拒絶し、内側から過剰反応を起こしている。未成熟な精霊との『感応不良』が原因かと推察します」
「生まれつき……?」
ガルドが問いかけると、ルージュは無言で頷いた。
「精霊との感応に失敗すると身体の中で魔力の『逆流』が起きることがあります。ほっとくと……最悪、命に関わる」
ルーナの顔から笑みが消えていた。
彼女は静かにガルドを見つめる。
「ご主人様……わたしの魔力重ねてもいいですか?」
「ああ……あ、俺の魔力と合わせてみようか?」
「はい!」
二人が少女の傍に座る。
ルーナは優しく手を取りガルドは少女の額にそっと手を当てる。
「……大丈夫だだから、もう苦しくないよ」
ガルドの声が、穏やかに室内に響く。
その瞬間、微かな光が二人の手元から生まれた。
――ルーナの魔力と、ガルドの魔力が共鳴する。
まるで深い泉の波紋が静かに広がるように優しい光が少女の胸元に吸い込まれていった。
「……ぁ……」
少女のか細い声が漏れる。
その呼吸は、ゆっくりと安定し、頬にはわずかに赤みが戻っていく。
「……お兄ちゃん……」
少年が思わず膝をつき、泣き出しそうな声で呟いた。
やがて――
「……う、うぅ……ありがとう、ありがとうございます……!」
少年と遅れて戻ってきた家族が、床に頭を下げる。
「お礼なんて……気にしないで。元気になってくれて、よかったです」
ルーナが優しく笑いかける。
「あなたの魔力が彼女を拒絶しなかっただけの事ですから」
ルージュが静かに補足する。
ガルドは、少女の小さな手が自分の指をぎゅっと握るのを感じていた。
こんなにも小さくて弱い命が、ただ『魔力』という見えないものに苦しめられていた。
だが、それを癒せる力が、自分の中にある。
「……人のために、力を使えるって……いいな」
ガルドは、誰にともなく呟いた。
少年が泣きながら繰り返す「ありがとう」という言葉。
その響きが、ガルドの胸に深く染み込んでいく。
▽
数時間後――ガルドたちが再び市場に戻るとどこからか視線が集まってくるのに気づいた。
「……あの人だよ、病気の子を助けたって……」
「なんか、召喚士なんだって……嘘みたいだよな」
通り過ぎざまに聞こえてくる囁き。
そのどれもが、静かに噂が広まっている。
「ご主人様」
ルーナが隣で、にっこりと微笑んだ。
「少しずつ……ちゃんと届いてますね。ご主人様の事」
ガルドは、照れくさそうに頷いた。
「……まだ、ほんのちょっとだけどな」
空は高く、澄んだ風が街を包んでいた。
その中でも目立たぬ場所に小さな布を広げた少年の姿があった。
「お兄ちゃん、ご主人様、こっち……あの子お昼からずっといるんです」
ルーナが指差したのは、色あせたマントに身を包んだ十歳ほどの少年。
果物や小物を並べているが、誰も足を止めてはいない。
「……売れてないみたいだな」
ガルドが目を細め、少年にゆっくりと近づいた。
「やぁ。ちょっと見せてもらってもいいかな?」
「……あ、はいっ」
少年は慌てて立ち上がり、慣れない様子で品を並べ直す。
「これは……乾燥保存できる薬草か?」
ガルドが摘んだのは、素朴な香草の束だった。
「はい、森で採ったんです……妹の看病の合間に……」
その言葉に、ガルドとルーナの表情がぴたりと変わった。
「看病?」
「妹さん、病気なんですか?」
「……はい。三日前から、ずっと熱が下がらなくて……お医者様にも診てもらったけど、精霊障害かもしれないって……うちは錬金師じゃないから、治療の手段がなくて……」
少年の声は、途中から震えていた。
「だったら、案内して」
ルーナが即座に言った。
珍しく、迷いがまったくない。
ガルドも頷く。
「行こう。診せてもらえれば何かわかるかもしれない」
「で、でも、お代とか、その、ないんです!」
「心配しなくていいよ、俺たちはただ……助けたいだけだから」
そう言って微笑むガルドに少年は目を見開き、すぐに小さく頭を下げた。
「……こっちです!」
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そこには薄い布団に横たわる少女の姿があった。
年の頃は五歳か六歳。
頬はこけ、瞼は赤く腫れている。
額には冷え布が当てられていたがそれでも熱は下がっていないようだった。
「精霊障害……たしかにその兆候がある」
ルージュが静かに額に手を当てる。
「周囲の魔力を拒絶し、内側から過剰反応を起こしている。未成熟な精霊との『感応不良』が原因かと推察します」
「生まれつき……?」
ガルドが問いかけると、ルージュは無言で頷いた。
「精霊との感応に失敗すると身体の中で魔力の『逆流』が起きることがあります。ほっとくと……最悪、命に関わる」
ルーナの顔から笑みが消えていた。
彼女は静かにガルドを見つめる。
「ご主人様……わたしの魔力重ねてもいいですか?」
「ああ……あ、俺の魔力と合わせてみようか?」
「はい!」
二人が少女の傍に座る。
ルーナは優しく手を取りガルドは少女の額にそっと手を当てる。
「……大丈夫だだから、もう苦しくないよ」
ガルドの声が、穏やかに室内に響く。
その瞬間、微かな光が二人の手元から生まれた。
――ルーナの魔力と、ガルドの魔力が共鳴する。
まるで深い泉の波紋が静かに広がるように優しい光が少女の胸元に吸い込まれていった。
「……ぁ……」
少女のか細い声が漏れる。
その呼吸は、ゆっくりと安定し、頬にはわずかに赤みが戻っていく。
「……お兄ちゃん……」
少年が思わず膝をつき、泣き出しそうな声で呟いた。
やがて――
「……う、うぅ……ありがとう、ありがとうございます……!」
少年と遅れて戻ってきた家族が、床に頭を下げる。
「お礼なんて……気にしないで。元気になってくれて、よかったです」
ルーナが優しく笑いかける。
「あなたの魔力が彼女を拒絶しなかっただけの事ですから」
ルージュが静かに補足する。
ガルドは、少女の小さな手が自分の指をぎゅっと握るのを感じていた。
こんなにも小さくて弱い命が、ただ『魔力』という見えないものに苦しめられていた。
だが、それを癒せる力が、自分の中にある。
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ガルドは、誰にともなく呟いた。
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その響きが、ガルドの胸に深く染み込んでいく。
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「……あの人だよ、病気の子を助けたって……」
「なんか、召喚士なんだって……嘘みたいだよな」
通り過ぎざまに聞こえてくる囁き。
そのどれもが、静かに噂が広まっている。
「ご主人様」
ルーナが隣で、にっこりと微笑んだ。
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