16 / 50
第16話、そんな顔が出来るんですね、クラウス様
しおりを挟むクラウスに殴られた数十分後、ルフトは正気を取り戻したかのような顔をしながら、クラウスに視線を向ける。
「何か、夢から覚めた感じがするんだが……あと、顔が痛いのだが何故なんだ、クラウス?」
「忘れろ、ルフト」
少しだけ鼻血を出しながら、それでも自分で鼻を抑えているルフトに手当てをするつもりはないルーナは、彼の背後に隠れるようにしながら視線をそらしている。
クラウスの背後に隠れているルーナに首をかしげながら、クラウスに問いかける。
「しかし、あの森からこのような村があったなんて知らなかったな……住人は後ろに隠れているてん……いや、ルーナさんと、神父様のシリウスさん。それと老人たちが数人か?」
「ああ」
「……不思議だな」
「何がだ?」
「――今までお前の事、憎い敵だと認識していたはずなのに、今は妙にすっきりしているんだ」
笑顔でそのように発言する男に、クラウスは何も言わなかった。
その笑顔が気に入らないのか、クラウスは視線を逸らすようにしながら自分の所持していた長剣を見つめる。
「……俺を追ってきたのは、『聖女様』か?」
「あ……ああ。『裏切者の狂人を殺してでも良いから連れてこい』と第二王子と聖女様のご命令だ……うーん」
「なんだ?」
「……どうして俺は、お前の事を酷く憎む程、追いかけていたんだ?」
「……」
クラウスは何も言わない。
そして、彼は原因を知っているからだ。
トワイライトの聖女は『魅了』を使い、国の人たちを堕落させている。
自分の思い通りに動かしていると言う事をクラウスはルーナに教えていた。
離れた事と、何故かルーナを見た事で意識が変わってしまったらしく、『魅了』の魔術は解けているらしい。
因みに、ルーナの件については『魅了』ではなく、本当に思っていたことを言ったのであろう。
『魅了』より、『本音』が勝ったと言う事だ。
「……なんか、複雑な気分だ」
ルーナは思わずそのように呟いてしまった。
少し複雑そうな顔をしているルーナに一度視線を向けたのだが、クラウスはルフトに再度視線を向けてみる事にする。
彼の言う通り、ルフトの表情が以前よりもすっきりしている様子に見えるのは気のせいだろうか、と考えた。
「……ルフト、一応言っておく」
「なんだ?」
「確かにお前とは友人関係だったと思うが……お前はあの時、俺ではなく、『聖女』を選んだ。だから、既にお前とは友人関係だとは思っていない」
「あ……そ、それはだな、クラウス……俺も、どうしてあの時お前に……」
「……あの時のお前の行動が、俺は『本心』だと思った、だけさ」
「ッ……」
睨みつけるようにしながらそのように発言するクラウスに対し、ルフトは何も言えず閉ざしたままだ。
言い訳をしようとしているようにも見えたのだが、そんな二人の様子をルーナは黙って見つめている。
同時に、クラウスの表情が少しだけ強張っているように見えた。
「……クラウス様」
「なんだ、ルーナ」
「……ルフト様とクラウス様、何かあったの?」
「……まぁ、そんなところだ。ルーナには全く関係のない事なんだがな」
そのように言いながら、クラウスの大きな手がルーナの頭に置かせ、優しく撫でられる。
子ども扱いのようにされている気がしてしまうのだが、それは黙っておこうと誓った。
抵抗して、少しだけ傷つくクラウスの姿が見たくなかったのである。
ルフトの方に再度目を向けると、彼もバツが悪そうな顔をして、唇を噛みしめている。
ルフトとクラウスは、どうやら友人関係のよう、らしい。
(……けど、『聖女様』のおかげで、それが『壊れた』)
ルーナは大体想像できた。
つまり、『魅了』で魅入られてしまったルフトは、クラウスと関係を絶ってしまった。
友情ではなく、『愛』を取った。
例えクラウスと言う存在に罪がないとしても。
(クラウス様は……辛かったのかな?)
クラウス・エーデルハット――別名、『血濡れの狂騎士』
血に塗れた戦場の狂騎士だとしても、クラウスは普通の人間だ。
人間関係と言うものはうまくいっていたのかもしれない。
一瞬にして、壊れてしまったのかもしれないけど。
クラウスがこの村から出ていかないのは、もしかしたらそれもあり、離れられないのかもしれない。
無意識だった。
いつの間にかルーナはクラウスの身体に寄り掛かるようにしながら、呟く。
「ルーナ?」
「……一人じゃないですよー」
「え?」
「……友達いなくなっても、ルーナはクラウス様の友達ですから」
だから、そのような悲しそうな顔をしないでほしい。
ルーナはそのように思いながらクラウスに発言すると、クラウスは一瞬身体が反応し、思わず体制が少しだけ崩れる。
地面に手を置いて顔を上げると、そこには顔面真っ赤に染まったクラウスの姿が。
まさかそのような反応をしてくるとは思っていなかったルーナは思わずその場で硬直する。
「く、クラウスさま……」
「見るな」
「え、でも、顔」
「見るな」
「ま、真っ赤になってますけ、ど……あの、なんか、すみません」
「……」
ルーナの発言に、クラウスは顔を真っ赤にしたままそのまま動けずにいた。
二人のそのようなやり取りを真正面から見ていたルフトは、どのように声をかければ良いのかわからないまましばらく二人のやり取りを傍観する事にするのだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる