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1巻
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【Prologue】
人の一生には、いつか終わりが来るものだ。
きっと君たちも、一度は考えたことがあるのではないだろうか。死んだらどこへ行くのだろう──と。
中国にこんな伝説がある。人は死ぬと、次の人生を歩むために川にかけられた橋を渡る。
橋のたもとで手渡されるのは、特別なスープがなみなみと注がれた器。そのスープを飲むと、前世での記憶をすべて忘れることができるらしい。
なぜそんなものを飲むのかって?
それは、心安らかに転生の道を進めるように。まっさらな状態で、新しい人生を歩むのに必要なことだからだ。
そんな風にわたしたちの魂は、何度も何度も輪廻転生を繰り返す。
しかし稀に、そのスープを拒む者がいるという。前世の記憶を持ったまま、生まれ変わりたいと願う者だ。だがそれは、転生するための流れに逆らうことと同じ。そう簡単にその願いが聞き入れられることはない。
彼らが記憶を失わずに転生する方法は、ただひとつ。
冷たい冷たい川の中で、千年という長い年月をひたすらに耐えること。
そうしてやっと、許されるのだ。大切な前世の記憶を持ったまま生まれ変わることを。
そんな彼らの身体には、ある印がつけられる。
それは──
【Episode1】
色とりどりの花を、可愛い女の子がぱくりと食べる。口に入れたと同時に目を閉じて、幸せそうな表情を浮かべた。
「ええ~! めっちゃかわいい~」
「これ、食べられる花を使ってるらしいよ。外苑前のカフェだって」
顔を寄せ合って、四人で机の上に立てたスマホをじっと見る。
流れているのは、人気インフルエンサーの女の子が綺麗なパフェを食べているショート動画。
ただのフルーツパフェではない。
食用花がまるで花畑のようにフルーツの上に飾られている、今話題のフラワーパフェだ。
「ねえねえ、みんなで行こうよ」
わたしのすぐ隣にいた亜弥の提案に、和菜と千秋が「賛成!」と声をそろえる。
高校二年生になってもみんなで同じクラスになれたのは、とてもラッキーだったと思う。
二年目の付き合いのわたしたちは、いつも楽しく、平和に過ごしている。
〝いつものメンバーでフラワーパフェ。かわいすぎる〟
かわいいパフェの写真と共に投稿するであろう言葉まで、すんなりと思い浮かび、わくわくしてしまう。
「外苑前の駅から近いのかな。行き方調べてみる!」
亜弥が自分のスマホを手にすると、和菜と千秋も同じようにする。わたしも机の上に置いていたスマホを取り、動画のアプリを閉じてカフェについて検索をかけた。
四人で同時に、同じことを検索している。親や先生たちからは「ひとりがやればいいんじゃないの?」と呆れられるけれど、みんなで同じものを調べることに意味があるんだ。
「前にわたし、この近く行ったことある!」
「あー、なんとなく分かるかも」
それぞれの画面で、きっとみんな同じページを見ている。みんなの会話に頷きながら画面をスクロールしていると、とある箇所で指が止まった。
〝大人気! フラワーパフェ 三千円〟
さ、さんぜんえん……?
先ほどの動画を見た限り、パフェの大きさは喫茶店のプリンアラモードと同じくらいのこぢんまりとしたサイズだった。いいところ、千五百円くらいだと思っていたのに……。この大きさじゃ、ひとつをみんなでシェア、みたいなことも難しそう。そう思っていたら、〝おひとりさま、ワンドリンク、ワンフードのご注文をお願いしています〟と書かれているのを見つけて、思わず息をのんでしまった。
「沙幸、どうかした?」
わたしが固まっているのに気付いた千秋が、小首を傾げる。
正直に言えば、この値段にかなり怖気づいている。ドリンクも入れたら四千円くらいはかかりそうだ。
どう考えても、お金が足りない。だけどそんなこと、恥ずかしくてみんなには言えなかった。
「ううん! なんでもない! すっごい楽しみ!」
笑顔を作り再び会話に戻るも、頭の中では電卓を叩いていた。
お小遣いは月六千円。
正直足りないけれど、お母さんからは「スマホ代も払ってるんだから。お金は湯水のように湧いてこないのよ」と言われ、お年玉を切り崩しながらどうにかやっている。今回もそうするしかない。
ちなみにアルバイトは学校で禁止。ここはいわゆる進学校で、勉強に集中するためという理由がある。こっそりバイトをしている子たちもいるけれど、その子たちはクラスのトップ層にいるキラキラしている子たちだ。頭もそれなりによくて、華やかで、流行に敏感でみんなから一目置かれる存在。
そしてわたしたちは、表立っては言わないけれど、そんな彼らにひっそりと憧れている、いわゆる〝普通〟の四人組。華やかな人気者ではないけれど、どんな子たちとも〝普通〟にコミュニケーションを取れる立ち位置といった感じ。
そんなわたしたちのスマホが、同時にぴろりんと軽やかな通知音を鳴らす。
「あっ、RNだ」
Right Now、通称RNは、今大流行している新感覚のSNSだ。通知音が鳴ったら一時間以内に写真や動画にその時の自分を収めて投稿し、友人同士でシェアするもの。
どこにいるかという位置情報も同時に投稿できるので、近くにいる友人同士で合流することも可能だ。
「みんなで撮ろっ。いくよ~」
亜弥の声かけに、四人分のピースサインを机の上で合わせる。もう一人いれば綺麗な五つ星になるけれど、四人なのでキラキラマークのような四つ星形だ。
学校にいる間にRNの通知が来たときは、わたしたちは大体この四つ星を投稿している。過去の投稿一覧が変わり映えしない原因のひとつでもある。
「わ、しぃちゃんかわいい」
投稿を終えた和菜が、スマホの画面をこちらに向ける。
RNでは自分の近況を投稿すると、繋がっているフレンドの投稿が表示されるようになる。
しぃちゃんというのは、うちの学年で一番かわいい女の子だ。いや、学校一と言ってもいい。
「本当だ、いつの間にこんなかわいいの撮ったんだろう」
しぃちゃんの投稿は、板チョコを齧っている自撮り写真。くりくりっとした瞳に、控えめな鼻、桜色の唇。シャンプーのCMのオファーがいつ来てもおかしくない、つやつやの綺麗なロングヘア。
正直わたしは、どんなインフルエンサーやアイドルよりも、しぃちゃんが一番かわいいと思っている。
いつもしぃちゃんと一緒にいる子たちの投稿も次々と流れてきた。
彼女たちの今のブームはこの板チョコショットらしいと分かるぐらい、おんなじポーズだ。
わたしたちは顔を見合わせて「あとで購買でチョコ買っちゃう?」なんて笑い合った。
◆
帰りのホームルームが終わると、廊下からひょこりと幼馴染が顔を出した。
「ユキ、委員会行ける?」
前田幸太朗、通称コタ。幼馴染である彼は隣のクラスだ。
身長はわたしよりちょっとだけ大きい、百六十七センチ。男子の中では小柄な方で、色白でほっそりとしている。黒いサラサラの髪の毛に大きな黒縁の眼鏡が似合うのは、コタが綺麗な顔立ちをしているからだ。
「コタ、早かったね。もう二組終わったんだ」
廊下側の一番後ろの席のわたしは、リュックに荷物を詰めながらコタに返事をする。
コタとわたしは、お互いに今年図書委員になった。今日は週に一回の、図書室当番の日だ。
「あ、前田くんだ。やっほー」
荷物をまとめた亜弥たちが来て、コタに手を振る。去年はコタもわたしたちと同じクラスだったのに、極度の人見知りのコタは、そんな亜弥たちに小さく会釈をするだけだ。
「コタ、新しいクラスでやっていけてる……?」
口数も少なく、愛想もほとんどないコタのことを、わたしは幼馴染として心から心配している。でもそんなわたしの肩を亜弥がぽんと叩いた。
「沙幸、大丈夫だよ。前田くんはそういうとこがいいんだから」
「そうそう、みんな分かってるよねー」
亜弥たちの言葉に、わたしは小さくため息をつく。
確かにみんなの言う通り。コタは人見知りで目立つようなタイプではないものの、決してクラスで浮いたりしているわけではない。不思議なことに、男女問わず人気のある子たちからも好かれていて、放課後に遊びに行こうなんてよく誘われている。本人がそれに乗ったところは、一度も見たことがないけど。
そんなコタとわたしは、生まれたときから一緒だった。というのも、母親同士が同じ産院で同じ日に出産をしたからだ。
わたしの方が、コタよりも三時間ほど早く生まれた。新生児室で並んで眠っている写真を、これまでお母さんから何度見せられてきたことか。
家が近所なこともあり、公園で共に遊び、同じ保育園に入園し、小学校中学校、そして高校とずっと一緒の腐れ縁だ。
家族同然といってもいいかもしれない。
コタはいいことも悪いことも、わたしの過去を全部知っている。
お母さんの高い口紅を下手くそに塗りたくった顔に、秘密基地で作った足の大きな傷。三十三点の数学のテストに、意地悪で机に入れられた不幸の手紙。初めてもらったラブレターに、校舎裏にチョークで書いたデタラメな相合傘の落書き。バレンタインに失敗したブラウニーは、義理チョコとしてコタにあげた。
わたしはなんでもコタに見せ、話し、共有してきた。
だからこそ、ドキドキするような展開なんか、わたしたちの間には存在しない。
「じゃあ、また明日ね。沙幸、図書委員頑張ってね」
わたし以外の三人は勉強しがてら、新作のドリンクを飲みにカフェに行くらしい。本当はわたしも行きたかったけれど、フラワーパフェのことを考えれば、行けなくてよかったかもしれない。だってその新作のドリンクだって、八百円近くするから。
あとでRNに投稿されるであろう、三人おそろいのドリンクの画像を想像すると気持ちが落ち着かなくなったけど、どうにかそれをやり過ごす。
その時間帯のRNに、〝図書委員の日。わたしも新作ドリンク飲みたかった〟と、本や廊下の写真と共に投稿すればいいだけだ。亜弥たちは事情が分かっているけど、他の子にわたしがグループ内で浮いていると勘違いされたくはない。
「じゃ、行くか」
「うん」
コタとふたり、並んで廊下を歩く。すれ違う人たちが「前田くんバイバイ」とか「前田、また明日な」なんて声をかけていく。それに対してコタは、毎回会釈するだけ。
ずるい。人気者になるために何かをしているわけでもなく、コタはコタのままで、飾らないほどに自然体だ。それでいて、こんなにたくさんの人に愛されている。
「コタはいいなあ」
「なにが?」
「なんだかんだで人気者なんだもん、ずるい」
「別にそんなのどうでもよくない?」
「そうやって言えるのもずるい。コタはずるい」
わたしが唇を尖らせると、コタは「はいはい」と軽くいなす。小さい頃は、背も低かったコタをわたしが引っ張っていたはずなのに、最近ではすっかりわたしの方が子ども扱いされることが多い。
「ユキも何か飲む?」
「ううん、まだあるから平気」
自動販売機の前で立ち止まったコタは、小銭を入れてボタンを押す。そうして出てきたペットボトルを取り出すと「冷えてない」と顔をしかめた。
昔からコタは、冷たい飲み物、しかもキンキンに冷えたものを好んでいる。
真冬の雪の日も、体調不良で寝込んでいるときにも、コタが飲むのは冷たい飲み物。しかもそれはコタだけでなく、前田家全員だというのだから、家庭環境が与える影響というのはとても大きいと思わざるをえない。
前田家には、家族それぞれの指定のグラスが用意されていて、頻繁に遊びに行くわたしのものも決まっていた。コタのものは、青色のラインが入った背の高いグラスで、わたしのものはコロンとしたフォルムのネコの模様が入ったもの。
わたしが行くと、コタのお母さんは冬でもそこに氷を入れようとするから、最近では氷なしでお願いするようにしている。
「げ、やっぱぬるい」
仕方なさそうにペットボトルの蓋を開けたコタは、一口飲むと顔をしかめた。
わたしはそんなコタに自慢するように言う。
「今度ね、みんなでフラワーパフェを食べに行くの」
「へえ、花でできてんの?」
「食べられるお花が、いっぱい飾られてるパフェなんだよ」
「なるほど」
「三千円だって。このくらいの大きさで」
値段まで言えてしまうのは、コタが相手だから。
両方の人差し指と親指で丸を作って見せると、コタは眉根に皺を寄せた。
「げ、高」
「だよね、高いよね」
やっぱり、そう言ってくれると思った。
亜弥たちにはケチだと思われたくなくて言えないけれど、コタの前では本音も言える。
「で、行くの?」
「もちろん行くよ! 女子高生はかわいいものを常に追い求めているんだから!」
わたしがそう意気込むと、コタはやっぱり「ふうん」と大した興味もなさそうに頷いた。
テスト前の図書室は、普段よりも生徒の数が多い。しかし大半が勉強目当てなので、本の貸し出し作業はほとんどない。
「これ、借りたいんだけど……」
カウンターでコタと並んで勉強をしていると、正面から声をかけられた。難しい箇所だったから、誰かが立っていることに気付かなかった。
「はい……って、しぃちゃん!」
そこにいたのは、みんな大好きしぃちゃんだ。
しぃちゃんは美少女なだけでなく、クラスのみんなに分け隔てなく優しい。しっかりとしたメイクをしているわけでも、大きな瞳のカラコンをつけているわけでもないのに、少女漫画の主人公のように完成されている。
クラスのトップ中のトップだというのに、それを鼻にかけることもなく、なんなら本人はそんなことを気にしていないようにも見える。そういうところも、クラスの多くがしぃちゃんと仲良くなりたいと思う理由だった。
そんなしぃちゃんと話せることに、わたしはなんとなく浮き立ってしまう。
推し、ってこういう感じなのかも。
「しぃちゃん、図書室来てたんだね」
「勉強しようと思ったんだけど、本棚にあった小説が気になっちゃって」
そう言ってしぃちゃんは、ちらりとコタの方を見る。
わたしはそうだ、と思ってコタをつついた。
「そういえばこの本、ちょっと前に読んでなかったっけ?」
問題集に取り組んでいたコタは、そこでやっと顔を上げる。カウンターの上に置かれた小説を一瞥すると「うん、読んだ」と言う。
しぃちゃんは片手で髪の毛を耳にかけながら、コタの方を見た。
「前田くん、本読むの好きなの?」
しぃちゃんとコタは、去年も今年も違うクラスだ。あのしぃちゃんがコタのことを知っていることにちょっとだけ驚く。
コタは不思議そうに顔を上げ、それからもう一度小説に目を落として「うん」とだけ言った。
……しぃちゃん相手にも、こんな態度を貫くなんて! 無礼だぞ。
「ごめんねしぃちゃん、前田は極度の人見知りで」
わたしが慌ててフォローするも、コタは全然気にしていない。しぃちゃんも「ううん、大丈夫だよ」と天使の笑顔を返してくれたから、それだけでわたしは嬉しくなった。
教室では、しぃちゃんとこうやって話す機会はなかなかない。彼女と会話しているだけで、自分まで特別な存在になったような気がしてしまう。
そのとき、ポケットでスマホが震えた。
しぃちゃんも同じだったようで、二人同時にスマホを取り出す。
「あ、RN」
わたしたちはなんとなく顔を見合わせる。吸い込まれそうな黒い瞳に見つめられ、自分でも気付かないうちに、大胆な言葉が口から飛び出た。
「い、一緒にRN撮らない?」
我ながら大胆なことを言ったとは思う。それでもここが教室ではないこと、お互いにいつも一緒にいる子たちがいないという状況が、わたしに思い切ったことをさせた。
「それじゃいくよー」
しぃちゃんと一緒に、本で顔を隠して写真を撮る。
顔が見えない、本を持ったふたりの女の子の写真。
「これ、投稿してもいい……?」
「もちろんだよ」
しぃちゃんの快い返事に、胸の中に嬉しさが広がっていく。一緒に投稿する文章は何にしようかな。そんなことを考えていると、しぃちゃんがためらいがちに質問してきた。
「沙幸ちゃんって、前田くんと付き合ってるの?」
「ううん、ただの幼馴染だよ」
中学の頃から、この質問は何度も何度もされてきた。
人の一生には、いつか終わりが来るものだ。
きっと君たちも、一度は考えたことがあるのではないだろうか。死んだらどこへ行くのだろう──と。
中国にこんな伝説がある。人は死ぬと、次の人生を歩むために川にかけられた橋を渡る。
橋のたもとで手渡されるのは、特別なスープがなみなみと注がれた器。そのスープを飲むと、前世での記憶をすべて忘れることができるらしい。
なぜそんなものを飲むのかって?
それは、心安らかに転生の道を進めるように。まっさらな状態で、新しい人生を歩むのに必要なことだからだ。
そんな風にわたしたちの魂は、何度も何度も輪廻転生を繰り返す。
しかし稀に、そのスープを拒む者がいるという。前世の記憶を持ったまま、生まれ変わりたいと願う者だ。だがそれは、転生するための流れに逆らうことと同じ。そう簡単にその願いが聞き入れられることはない。
彼らが記憶を失わずに転生する方法は、ただひとつ。
冷たい冷たい川の中で、千年という長い年月をひたすらに耐えること。
そうしてやっと、許されるのだ。大切な前世の記憶を持ったまま生まれ変わることを。
そんな彼らの身体には、ある印がつけられる。
それは──
【Episode1】
色とりどりの花を、可愛い女の子がぱくりと食べる。口に入れたと同時に目を閉じて、幸せそうな表情を浮かべた。
「ええ~! めっちゃかわいい~」
「これ、食べられる花を使ってるらしいよ。外苑前のカフェだって」
顔を寄せ合って、四人で机の上に立てたスマホをじっと見る。
流れているのは、人気インフルエンサーの女の子が綺麗なパフェを食べているショート動画。
ただのフルーツパフェではない。
食用花がまるで花畑のようにフルーツの上に飾られている、今話題のフラワーパフェだ。
「ねえねえ、みんなで行こうよ」
わたしのすぐ隣にいた亜弥の提案に、和菜と千秋が「賛成!」と声をそろえる。
高校二年生になってもみんなで同じクラスになれたのは、とてもラッキーだったと思う。
二年目の付き合いのわたしたちは、いつも楽しく、平和に過ごしている。
〝いつものメンバーでフラワーパフェ。かわいすぎる〟
かわいいパフェの写真と共に投稿するであろう言葉まで、すんなりと思い浮かび、わくわくしてしまう。
「外苑前の駅から近いのかな。行き方調べてみる!」
亜弥が自分のスマホを手にすると、和菜と千秋も同じようにする。わたしも机の上に置いていたスマホを取り、動画のアプリを閉じてカフェについて検索をかけた。
四人で同時に、同じことを検索している。親や先生たちからは「ひとりがやればいいんじゃないの?」と呆れられるけれど、みんなで同じものを調べることに意味があるんだ。
「前にわたし、この近く行ったことある!」
「あー、なんとなく分かるかも」
それぞれの画面で、きっとみんな同じページを見ている。みんなの会話に頷きながら画面をスクロールしていると、とある箇所で指が止まった。
〝大人気! フラワーパフェ 三千円〟
さ、さんぜんえん……?
先ほどの動画を見た限り、パフェの大きさは喫茶店のプリンアラモードと同じくらいのこぢんまりとしたサイズだった。いいところ、千五百円くらいだと思っていたのに……。この大きさじゃ、ひとつをみんなでシェア、みたいなことも難しそう。そう思っていたら、〝おひとりさま、ワンドリンク、ワンフードのご注文をお願いしています〟と書かれているのを見つけて、思わず息をのんでしまった。
「沙幸、どうかした?」
わたしが固まっているのに気付いた千秋が、小首を傾げる。
正直に言えば、この値段にかなり怖気づいている。ドリンクも入れたら四千円くらいはかかりそうだ。
どう考えても、お金が足りない。だけどそんなこと、恥ずかしくてみんなには言えなかった。
「ううん! なんでもない! すっごい楽しみ!」
笑顔を作り再び会話に戻るも、頭の中では電卓を叩いていた。
お小遣いは月六千円。
正直足りないけれど、お母さんからは「スマホ代も払ってるんだから。お金は湯水のように湧いてこないのよ」と言われ、お年玉を切り崩しながらどうにかやっている。今回もそうするしかない。
ちなみにアルバイトは学校で禁止。ここはいわゆる進学校で、勉強に集中するためという理由がある。こっそりバイトをしている子たちもいるけれど、その子たちはクラスのトップ層にいるキラキラしている子たちだ。頭もそれなりによくて、華やかで、流行に敏感でみんなから一目置かれる存在。
そしてわたしたちは、表立っては言わないけれど、そんな彼らにひっそりと憧れている、いわゆる〝普通〟の四人組。華やかな人気者ではないけれど、どんな子たちとも〝普通〟にコミュニケーションを取れる立ち位置といった感じ。
そんなわたしたちのスマホが、同時にぴろりんと軽やかな通知音を鳴らす。
「あっ、RNだ」
Right Now、通称RNは、今大流行している新感覚のSNSだ。通知音が鳴ったら一時間以内に写真や動画にその時の自分を収めて投稿し、友人同士でシェアするもの。
どこにいるかという位置情報も同時に投稿できるので、近くにいる友人同士で合流することも可能だ。
「みんなで撮ろっ。いくよ~」
亜弥の声かけに、四人分のピースサインを机の上で合わせる。もう一人いれば綺麗な五つ星になるけれど、四人なのでキラキラマークのような四つ星形だ。
学校にいる間にRNの通知が来たときは、わたしたちは大体この四つ星を投稿している。過去の投稿一覧が変わり映えしない原因のひとつでもある。
「わ、しぃちゃんかわいい」
投稿を終えた和菜が、スマホの画面をこちらに向ける。
RNでは自分の近況を投稿すると、繋がっているフレンドの投稿が表示されるようになる。
しぃちゃんというのは、うちの学年で一番かわいい女の子だ。いや、学校一と言ってもいい。
「本当だ、いつの間にこんなかわいいの撮ったんだろう」
しぃちゃんの投稿は、板チョコを齧っている自撮り写真。くりくりっとした瞳に、控えめな鼻、桜色の唇。シャンプーのCMのオファーがいつ来てもおかしくない、つやつやの綺麗なロングヘア。
正直わたしは、どんなインフルエンサーやアイドルよりも、しぃちゃんが一番かわいいと思っている。
いつもしぃちゃんと一緒にいる子たちの投稿も次々と流れてきた。
彼女たちの今のブームはこの板チョコショットらしいと分かるぐらい、おんなじポーズだ。
わたしたちは顔を見合わせて「あとで購買でチョコ買っちゃう?」なんて笑い合った。
◆
帰りのホームルームが終わると、廊下からひょこりと幼馴染が顔を出した。
「ユキ、委員会行ける?」
前田幸太朗、通称コタ。幼馴染である彼は隣のクラスだ。
身長はわたしよりちょっとだけ大きい、百六十七センチ。男子の中では小柄な方で、色白でほっそりとしている。黒いサラサラの髪の毛に大きな黒縁の眼鏡が似合うのは、コタが綺麗な顔立ちをしているからだ。
「コタ、早かったね。もう二組終わったんだ」
廊下側の一番後ろの席のわたしは、リュックに荷物を詰めながらコタに返事をする。
コタとわたしは、お互いに今年図書委員になった。今日は週に一回の、図書室当番の日だ。
「あ、前田くんだ。やっほー」
荷物をまとめた亜弥たちが来て、コタに手を振る。去年はコタもわたしたちと同じクラスだったのに、極度の人見知りのコタは、そんな亜弥たちに小さく会釈をするだけだ。
「コタ、新しいクラスでやっていけてる……?」
口数も少なく、愛想もほとんどないコタのことを、わたしは幼馴染として心から心配している。でもそんなわたしの肩を亜弥がぽんと叩いた。
「沙幸、大丈夫だよ。前田くんはそういうとこがいいんだから」
「そうそう、みんな分かってるよねー」
亜弥たちの言葉に、わたしは小さくため息をつく。
確かにみんなの言う通り。コタは人見知りで目立つようなタイプではないものの、決してクラスで浮いたりしているわけではない。不思議なことに、男女問わず人気のある子たちからも好かれていて、放課後に遊びに行こうなんてよく誘われている。本人がそれに乗ったところは、一度も見たことがないけど。
そんなコタとわたしは、生まれたときから一緒だった。というのも、母親同士が同じ産院で同じ日に出産をしたからだ。
わたしの方が、コタよりも三時間ほど早く生まれた。新生児室で並んで眠っている写真を、これまでお母さんから何度見せられてきたことか。
家が近所なこともあり、公園で共に遊び、同じ保育園に入園し、小学校中学校、そして高校とずっと一緒の腐れ縁だ。
家族同然といってもいいかもしれない。
コタはいいことも悪いことも、わたしの過去を全部知っている。
お母さんの高い口紅を下手くそに塗りたくった顔に、秘密基地で作った足の大きな傷。三十三点の数学のテストに、意地悪で机に入れられた不幸の手紙。初めてもらったラブレターに、校舎裏にチョークで書いたデタラメな相合傘の落書き。バレンタインに失敗したブラウニーは、義理チョコとしてコタにあげた。
わたしはなんでもコタに見せ、話し、共有してきた。
だからこそ、ドキドキするような展開なんか、わたしたちの間には存在しない。
「じゃあ、また明日ね。沙幸、図書委員頑張ってね」
わたし以外の三人は勉強しがてら、新作のドリンクを飲みにカフェに行くらしい。本当はわたしも行きたかったけれど、フラワーパフェのことを考えれば、行けなくてよかったかもしれない。だってその新作のドリンクだって、八百円近くするから。
あとでRNに投稿されるであろう、三人おそろいのドリンクの画像を想像すると気持ちが落ち着かなくなったけど、どうにかそれをやり過ごす。
その時間帯のRNに、〝図書委員の日。わたしも新作ドリンク飲みたかった〟と、本や廊下の写真と共に投稿すればいいだけだ。亜弥たちは事情が分かっているけど、他の子にわたしがグループ内で浮いていると勘違いされたくはない。
「じゃ、行くか」
「うん」
コタとふたり、並んで廊下を歩く。すれ違う人たちが「前田くんバイバイ」とか「前田、また明日な」なんて声をかけていく。それに対してコタは、毎回会釈するだけ。
ずるい。人気者になるために何かをしているわけでもなく、コタはコタのままで、飾らないほどに自然体だ。それでいて、こんなにたくさんの人に愛されている。
「コタはいいなあ」
「なにが?」
「なんだかんだで人気者なんだもん、ずるい」
「別にそんなのどうでもよくない?」
「そうやって言えるのもずるい。コタはずるい」
わたしが唇を尖らせると、コタは「はいはい」と軽くいなす。小さい頃は、背も低かったコタをわたしが引っ張っていたはずなのに、最近ではすっかりわたしの方が子ども扱いされることが多い。
「ユキも何か飲む?」
「ううん、まだあるから平気」
自動販売機の前で立ち止まったコタは、小銭を入れてボタンを押す。そうして出てきたペットボトルを取り出すと「冷えてない」と顔をしかめた。
昔からコタは、冷たい飲み物、しかもキンキンに冷えたものを好んでいる。
真冬の雪の日も、体調不良で寝込んでいるときにも、コタが飲むのは冷たい飲み物。しかもそれはコタだけでなく、前田家全員だというのだから、家庭環境が与える影響というのはとても大きいと思わざるをえない。
前田家には、家族それぞれの指定のグラスが用意されていて、頻繁に遊びに行くわたしのものも決まっていた。コタのものは、青色のラインが入った背の高いグラスで、わたしのものはコロンとしたフォルムのネコの模様が入ったもの。
わたしが行くと、コタのお母さんは冬でもそこに氷を入れようとするから、最近では氷なしでお願いするようにしている。
「げ、やっぱぬるい」
仕方なさそうにペットボトルの蓋を開けたコタは、一口飲むと顔をしかめた。
わたしはそんなコタに自慢するように言う。
「今度ね、みんなでフラワーパフェを食べに行くの」
「へえ、花でできてんの?」
「食べられるお花が、いっぱい飾られてるパフェなんだよ」
「なるほど」
「三千円だって。このくらいの大きさで」
値段まで言えてしまうのは、コタが相手だから。
両方の人差し指と親指で丸を作って見せると、コタは眉根に皺を寄せた。
「げ、高」
「だよね、高いよね」
やっぱり、そう言ってくれると思った。
亜弥たちにはケチだと思われたくなくて言えないけれど、コタの前では本音も言える。
「で、行くの?」
「もちろん行くよ! 女子高生はかわいいものを常に追い求めているんだから!」
わたしがそう意気込むと、コタはやっぱり「ふうん」と大した興味もなさそうに頷いた。
テスト前の図書室は、普段よりも生徒の数が多い。しかし大半が勉強目当てなので、本の貸し出し作業はほとんどない。
「これ、借りたいんだけど……」
カウンターでコタと並んで勉強をしていると、正面から声をかけられた。難しい箇所だったから、誰かが立っていることに気付かなかった。
「はい……って、しぃちゃん!」
そこにいたのは、みんな大好きしぃちゃんだ。
しぃちゃんは美少女なだけでなく、クラスのみんなに分け隔てなく優しい。しっかりとしたメイクをしているわけでも、大きな瞳のカラコンをつけているわけでもないのに、少女漫画の主人公のように完成されている。
クラスのトップ中のトップだというのに、それを鼻にかけることもなく、なんなら本人はそんなことを気にしていないようにも見える。そういうところも、クラスの多くがしぃちゃんと仲良くなりたいと思う理由だった。
そんなしぃちゃんと話せることに、わたしはなんとなく浮き立ってしまう。
推し、ってこういう感じなのかも。
「しぃちゃん、図書室来てたんだね」
「勉強しようと思ったんだけど、本棚にあった小説が気になっちゃって」
そう言ってしぃちゃんは、ちらりとコタの方を見る。
わたしはそうだ、と思ってコタをつついた。
「そういえばこの本、ちょっと前に読んでなかったっけ?」
問題集に取り組んでいたコタは、そこでやっと顔を上げる。カウンターの上に置かれた小説を一瞥すると「うん、読んだ」と言う。
しぃちゃんは片手で髪の毛を耳にかけながら、コタの方を見た。
「前田くん、本読むの好きなの?」
しぃちゃんとコタは、去年も今年も違うクラスだ。あのしぃちゃんがコタのことを知っていることにちょっとだけ驚く。
コタは不思議そうに顔を上げ、それからもう一度小説に目を落として「うん」とだけ言った。
……しぃちゃん相手にも、こんな態度を貫くなんて! 無礼だぞ。
「ごめんねしぃちゃん、前田は極度の人見知りで」
わたしが慌ててフォローするも、コタは全然気にしていない。しぃちゃんも「ううん、大丈夫だよ」と天使の笑顔を返してくれたから、それだけでわたしは嬉しくなった。
教室では、しぃちゃんとこうやって話す機会はなかなかない。彼女と会話しているだけで、自分まで特別な存在になったような気がしてしまう。
そのとき、ポケットでスマホが震えた。
しぃちゃんも同じだったようで、二人同時にスマホを取り出す。
「あ、RN」
わたしたちはなんとなく顔を見合わせる。吸い込まれそうな黒い瞳に見つめられ、自分でも気付かないうちに、大胆な言葉が口から飛び出た。
「い、一緒にRN撮らない?」
我ながら大胆なことを言ったとは思う。それでもここが教室ではないこと、お互いにいつも一緒にいる子たちがいないという状況が、わたしに思い切ったことをさせた。
「それじゃいくよー」
しぃちゃんと一緒に、本で顔を隠して写真を撮る。
顔が見えない、本を持ったふたりの女の子の写真。
「これ、投稿してもいい……?」
「もちろんだよ」
しぃちゃんの快い返事に、胸の中に嬉しさが広がっていく。一緒に投稿する文章は何にしようかな。そんなことを考えていると、しぃちゃんがためらいがちに質問してきた。
「沙幸ちゃんって、前田くんと付き合ってるの?」
「ううん、ただの幼馴染だよ」
中学の頃から、この質問は何度も何度もされてきた。
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連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
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