【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山

文字の大きさ
19 / 47

19、止められないモフモフです

しおりを挟む
 最初はちょっと、腕を触ってみた。

 モフモフ、モフモフ。

 でも、どんどん、抑制が効かなくなった。

 少し触るつもりだったが、あまりにも気持ち良すぎて魔獣さんの頭まで触っていた。

 うわっ……、やっちゃった。
 やっちゃったよ……。

 でも、なんだか、やめるタイミングが分からず……。

 博美は魔獣の頭を触りながら、内心焦っていた。

 目の前にいるのは、魔獣さん。

 話を聞いてもらったのに、つい、犬やネコにするように接してしまった。

 とにかく、ごまかさないと――。

 そんなとき、廊下からエミリーに声を掛けられた。

「魔獣さん、いったいその頭はどうなされたのですか?」

 や、やばい……。

「いや、これは、ちょっとね。何もないよね、魔獣さん」

 慌てて博美は、魔獣に同意を求めた。魔獣もウンウンと頷いている。

 でも……、わたしが触りすぎて、魔獣さんの頭がもじゃもじゃだ。これじゃ魔獣さんの尊厳が……。
 とにかく誤魔化そう。

「ねぇ、エミリー、今からピクニックに行かない?」

 博美は何事もなかったかのように、冷静を装う作戦に出た。

「今日は天気もいいし、魔獣さんに手伝ってもらうことにしたの。ね、魔獣さん」

「あ、はい」

 もじゃもじゃにされた状態の魔獣が、コクコクと頭を下げる。

 うわぁ、カワイイ。
 可愛すぎる――!
 ぎゅっとしたい。

 だが、次の瞬間、エミリーが言った。

「急にどうされたのですか、博美様。魔獣さんにお体の具合を見てもらいましたか?」

「う、うん……」

 言い淀む博美の代わりに、魔獣が応えた。

「はい。博美様のお体に毒はありません。大丈夫です」

 魔獣さん、わたしの身体に毒が入っていないか見てくれていたんだ。
 何も言ってないのに……。

 博美は嬉しくなった。

 そしてテンションが一気に上がる。

「だから、みんなでこれからお庭に出て、ピクニックしよう!」

「ですが、今日の予定では、魔獣さんと街に行かれるのでは?」

「明日でもいいでしょ。今から三人で、外で食事をするの。今日はいい天気だし、その食事を屋敷の外で、賑やかに食べるの。ね、いいアイデアでしょ!」

「いいアイデアですか……、ああ、いいアイデアですね!」

 何かに気が付いたように、エミリーがぽんっと手を叩く。

「わかりました! 博美様。では魔獣さんに頼みましょう」

「よろしくね、魔獣さん」

 博美からそう言われた魔獣だが、わからないというような表情で謝った。

「すみません。いったい僕は何をすれば?」

「まずは、ワゴンに乗っている食事を魔法陣の上に置いて……、ですね、博美様」

 エミリーは言いながら、ゴロゴロと部屋の中にワゴンを転がし、魔法陣の上に置いた。

「そうそう。魔獣さん。悪いけど、この食事に入っている毒の除去お願いね。後でこれをみんなで食べるから」

「は、はい、わかりました」

 そうして魔獣が魔法を唱えはじめた。

 その様子をじっと博美は傍で見ている。

 銀のワゴンには、皿に乗ったお肉や卵。そしてカゴに入ったいくつかのパンの中がある。

 そして部屋で見たときよりも、はっきりと博美は毒を感じていた。
 大きな丸いパンから出ている紫色のモヤが、警告色に見えたからだ。

 魔獣が魔法を唱え終わると、パンの中にあった紫色のモヤが宙に浮いて、ふっと消えさった。

「これですべての毒は除去できました」

 なるほど……、あのやり方で毒を消すんだ。

「ありがとう、魔獣さん。じゃ、このワゴンを外に運ぼう」

「博美様。あとは私にお任せください。今から使用人が使うキッチンに持って行ってきます。これらの食事をバスケットとカゴに分けて、外で食べられるように簡単なものにしてきます。それまではお部屋でお待ちくだされば」

「わたしも手伝うから」

「いいえ、博美様も、このお部屋で魔獣さんんとお待ちください。用意が出来ましたら呼びに参りますので、それまで、さきほどの続き方をお二人でお楽しみください」

 博美と魔獣は、同時にエミリーを見て、
「ん?」「え?」

 二人のよく分からないというような表情に、エミリーは大きく手を振った。

「鈍感なお二人でございましますね。これほど私が気をつかって申し上げていますのに」

「いや、わかんない。どういう意味よ、エミリー」

「先ほど、私はお二人の邪魔をしたようでしたので、申しわけなく思っておりました。胸が痛む所存でございます。ですから、そのつづきをこれからされてはいかがですか、と申しております」

「続き?」

 キョトンとする博美に対して、エミリーは笑顔で、
「何をすっとぼけた表情をされているのですか。私が上の階までワゴンを取りに行く僅かな時間でも、お二人はもう我慢ができなかったようで、それは激しく……。魔獣さんの頭の毛の乱れ方を見れば一目瞭然でございました」

 エミリーはニッコリと笑みを浮かべる。

 焦ったように獣毛を整える魔獣を見て、慌てて博美が口を出す。

「いや、ちょ、ちょっと……、エミリー。何を勘違いしているのよ。別にやましいことをしていたわけでもないのに」

 そうは言ったものの、すぐに博美は思い直した。

 もしかして、この世界……。もふもふをするのは、ものすごく淫らなことだったりする?

 国が違えばダメな行為はいくらでもある。タイでは子供の頭をなでちゃダメだし、子供に向かってカワイイという言葉もタブーだ。まして、ここは異世界。

 ええっと、それじゃ……、この異世界でモフモフするのは、人前で恥ずかしい行為だったりするわけ?

 うわぁ、失敗したかも。

 博美は、魔獣に手を合わせた。

「ごめん、魔獣さん、わたし……、ヘンなことしちゃったよね?」

 魔獣は首を横に振る。

「いえ、ぜんぜんです。僕は嬉しかったし、なにより気持ちよかったです」

「嬉しくて、気持ちいい……」

 そう言いながら、ぷっと噴き出したのはエミリーだ。

「もしかして……、エミリー。最初から分かっていて、わたしたちをからかった?」

「はい、モフモフ気持ちいいですよね。魔獣さん、ぜひとも今度、私も魔獣さんの毛をモフモフふさせてくださいね。私の手は、博美様のように気持ちいいか、わかりませんが」

 エミリーがいたずらっぽい笑みを浮かべると、魔獣は恥ずかしそうに顔を下に向けていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです

籠の中のうさぎ
恋愛
 日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。 「はー、何もかも投げだしたぁい……」  直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。  十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。  王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。  聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。  そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。 「では、私の愛人はいかがでしょう」

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる

腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。 荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

処理中です...