王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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辺境、魔物大戦

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「エリック兄さん!」

プチ・エトワールの店の前、辺境へと
出陣する人の群れの中に濃紺の騎士服の
熊を見つけた。

「お!アニエス!この『穴』から辺境へと
一瞬で飛べるらしいな。すげえな!」

熊が大興奮だ。

「片道だけね?赤竜のご厚意だからね?」

「片道だけで十分だ。帰りはそんなに急ぎ
じゃないだろ。しかし、魔物の氾濫スタンピードか。
厄介な事になったな」

「うん。父様や砦のみんなは大丈夫かな?
プリシラ様の防衛結界はすごいらしいけど
状態異常の魔物の群れ相手じゃ心配だよ」

「まあ、竜のお陰ですぐに駆けつけられる
のはありがたい事だよな。
よし。気合いを入れるぞ!」

兄熊が燃えている。

「アニエス!」

あ、グレン様の声だ!

「ごめん兄さん。グレン様に呼ばれた。
行くね?もう張り切り過ぎて無茶をして
怪我なんかしないようにね?」

「おう任せておけ。お前も怪我するなよ!」

頼もしい兄熊に別れを告げ小走りで
人をかき分け、グレン様の所へ向かう。
結構な大人数だな。知り合いも結構いる。
今回は第二騎士団は全員召集された。

事前に辺境出兵や『穴』の説明もあり
準備万端。でも、私みたいに気絶する人が
出なきゃいいけど。

ロイシュタール様、バルド様。
黒竜、青竜、赤竜の外に竜殺しの剣で支配
されている竜が四匹。
それだけでも結構な戦力だ。

マックス義兄様、カーマイン卿はもちろん
辺境に戻る。
アルフォンス様は防衛結界の再構築に
忙しいので居残り組だ。


「アニエス、ほら来い」

う~ん。『穴』に落ちると気絶する私の
ためにグレン様が抱きあげてくれるが、
皆様の生暖かい視線が辛い。
グレン様は私を抱いたまま出陣の号令を
かける気だ。
ううう。恥ずかしいよう。


「おお~?恥ずかしいなぁチビすけ」

ニヤニヤ笑う黒竜の頭を小突きたい。
グレン様は全く動じていない。
──だよね。グレン様だもの。


「出陣!皆、俺に続け!」

グレン様の合図で一斉に『穴』へ飛び込む。
あ~駄目、目の前が真っ暗。
また……気絶。





「アニエス!起きろ!!」

グレン様の声に一気に目が覚めた。
まだ抱き上げられたままだ。

「な、何あれ?」

砦から離れた丘の上に転移した私達。
皆が呆然とする。
砦が魔物に囲まれている。
空も陸も真っ黒に見えるほどだ。
おびただしい数の魔物の群れがさらに
集まり、数を増やしている。

「ずいぶん、うじゃうじゃいるな?」

「これ自然現象かな。多すぎない?」

「とりあえず全部、ぶち殺せば済むだろ」

グレン様とロイシュタール様の言葉を
バルド様が物騒に締めくくった。

は!いけない。呆けている場合じゃない。
グレン様に下ろしてもらう。

私は黒竜を見る。お願い!
黒竜は私の顔を見て笑う。

「空は任せろ!」

黒竜の言葉を合図に竜達が一斉に竜化して
空へと舞い上がる。
七匹の竜が魔物の群れに襲いかかる。

「さあ、やるか」

グレン様が呟くと太い蔦蔓が何本も地面から
勢い良く生えてくる。
それが互いに絡み合いながら砦の方へと
どんどん伸びていく。
ええ~~!!何これ!
どうするの?見守っていると
あっという間に大きな橋みたいになった。

バルド様、ロイシュタール様が一足早く
砦を目指し、蔦蔓橋の上を駆けて行く。


「全員続け!突撃!!」

「「「おお!!」」」

グレン様の号令に皆が蔦蔓橋の上を
駆けて行く。

「行くぞ。遅れるなよ?」

グレン様が橋に飛び乗り私に笑いかける。

「はい!」

私は剣を抜くと橋に飛び乗った。
グレン様の後を走る。
途中、ワイバーンから何度かブレス攻撃を
受けた。そのすべてをグレン様が一人で
防御結界で弾いてくれた。
全員、無事に砦の近くまで来た。
次々に橋から飛び降りる。
そこかしこで戦闘が始まっている。

派手な魔法攻撃はロイシュタール様ね。
あの辺りだけ魔物が遠巻きにして
避けているわ。

バルド様やカーマイン卿は剣でバンバン
魔物をぶった斬っている。

一際高い火焔旋風が魔物を焼き払いながら
生き物のように動きまわる。
マックス義兄様だ。
みんな頑張ってる。よし、私も!
飛び降りようとして戸惑う。


うわ、うじゃうじゃいるよ!

ゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、
サイクロプス、バシリスク、でたよ火焔熊!
結構、スライムもいるなぁ。
足元が悪そう。

よし、とりあえず。足場の確保だ。
焼いちゃえ。

火炎旋風でなぎ払う。
私が作ったスペースにグレン様が先に
飛び降りる。あ、ズルい!
私も慌てて飛び降りる。

「アニエス、俺の後ろで豆撒きしてろ」

グレン様が火焔熊を真っ二つに斬りながら
私に言う。
はあ?豆撒き……ああ、ピイちゃんね!

はいはい。ガッテンです。

よし。出でよ蔦蔓!
あ~やっぱり花が咲いたよ。
豆になったよ。
あっという間にピイちゃん誕生。
ピイちゃん達が魔物を捕食し始める。
大きいのも作るか。

大ピイちゃんに飛び大ピイちゃんも
作成する。

魔物の数が多いからジャンジャン
ピイちゃんを増産しなきゃ。

みんなが派手な戦闘を繰り広げる中、
グレン様の背に庇われて、
一人、孤独にせっせと豆撒きをする私。

ちょっと、寂しい。

余裕があるので砦を見ていると
砦の防衛結界が突然消えた。

「グレン様!砦の結界が!」

「プリシラが倒れたな。この数の魔物相手に
今まで良く防いだ。アニエス、行くぞ」

グレン様が砦に向けて氷結魔法を放つ。
一直線に氷の道ができた。
カチンコチンに凍った魔物が石像のように
立ち並ぶ。それを雷撃で砕きながら
走るグレン様を追いかける。


砦に近くなって来た。
国軍の兵が数多く魔物と交戦している。
グレン様に気付いて喜ぶ兵士達。
士気が一気に上がった。

疲れを振り払い魔物と戦う。


あ!父熊、発見!!

大剣を元気に振り回す熊。父様だ!
良かった。無事だ。

お館様やラケット将軍もいる。


「お!アニエス?!戻って来たのか!」

父様が私に気がつき手を振る。

こら!戦闘中に油断しちゃ駄目でしょ。
後ろからサイクロプスに襲われたのを
お館様に助けられる熊父。

もう、お館様。父がお世話になりました。

それでも懲りずにブンブン私に手を振る
父様に呆れる。

グレン様と顔を見合せ思わず笑った。

そんな次の瞬間。


上から竜の吐いたブレスが飛んできた。
ワイバーンを狙って外れた流れ弾だ。
爆風と共に地面が陥没する。
黒いブレスだ!
衝撃波が円になって広がって行く。

駄目、父様達が巻き込まれる!

目の前が真っ赤になった。

私の意識はそこで途絶えた。

















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