血まみれの王妃は冷酷王の愛を乞う

斑猫

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人面瘡

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自分の左足を見て叫びながら気を失った。
人の顔をした気味の悪い痣。
その痣の目がギョロりと私を見た。

絶対に間違いない。
でも、痣があまりにも気味が悪いから
私が気が動転しただけだと誰も信じて
くれない。

怪異はには容易に信じて
もらえない。

お姉様の言う通りだった。

あの日から数日たった。
熱発した体は癒えたが痣は消えない。
一人になりたいと、人払いした寝室で
じっと左足を見つめる。

包帯をとってしまったので痣がそのまま
目に入る。
今は人の顔をした痣は目を閉じている。
目玉がない分、いくらかマシだ。

目玉は嫌だ。もう、ずっと目をとじて
いなさいよ。
痣に言い聞かせる。

あの船幽霊に捕まれた左足首の痣。
最初は手の形だったのに。
何でこんな気持ちの悪い姿になったの。

ねえ、あなたは船幽霊?
私にとりついたの?

いっそのこと切りとってしまおうか?
ナイフを取り出し痣に押しあてる。
うっすらと血が滲む。
ぐっと力を入れると痣の口がガバっと開き
ナイフを受け止める。
やたら歯並びの良い口。
ガッチリとナイフを咥え込んでいる。

やっぱりこの痣は生きている。
パチリと目も開いた。

「ねえ、ナイフを放しなさい。もう切り
取らないから。何で私にとりついたの?
どうしたら消えてくれる?」

痣に尋ねる。
痣は私の言葉を理解したのかナイフを
放してくれた。

「イ・ズ・レ・キ・エ・ル」

喋った!
いずれ消える?なら今すぐ消えてよ!
これはたぶん人面瘡だ。
お姉様が子供の頃に寝物語で話して
くれた怪異の話の一つにそんな話があった。

何でよりによって私にとりつくの。

王が戦場より帰還した。
明日は初夜だ。
この足をどうしょう。
包帯で誤魔化せる?

王が戦っていた相手は私の前の王の妻。
三番目の王妃キャサリン様の実家。
ブラウン侯爵の軍勢だった。
──内戦だ。
国内のゴタゴタは表に出したくなかった
のだろう。私の耳に入らなかったのは
そのせいだ。
モルトン卿に確認した。

戦の原因は私との婚姻。

キャサリン様の喪が明けると同時に私が
嫁ぐ事が決まったためにブラウン侯爵が
烈火の如く怒り狂ったとの事だ。

そして散々揉めた末に挙兵。
内乱となった。
だが、僅か数日で鎮圧された。
残務処理も済ませ昨日、王が戻られた。

──初夜か。
あの冷たい王の視線を思い出す。
心が冷える。
無事に済ませる事ができるだろうか。
賠償金代わりに王の子を生む。
それが私の仕事。
ため息が出る。

私を抱えて泳ぐあの方に見惚れた。
あのキラキラと輝く銀の濡れ髪。
力強い腕。

一目惚れだった。
私が海の女だからだろうか。
泳ぎの得意な男に惚れるのは。

望まれていない妻なのにね。
あの美しい王の顔を思い出す。
本当にきれいな人だった。
私って面食いだったのね。

左足にこびりついた人面瘡を見て涙が
溢れた。故郷くにに帰りたい。
お姉様に相談したい。

泣きながらいつの間にか眠った。

「オ・キ・ロ、オ・キ・ロ~」

嫌な声で目が覚めた。
目を開けるとキラリと光る剣が目に入る。
黒ずくめで覆面の男が私に向けて剣を
振り下ろそうとしていた。

刺客!!

何とか避ける。枕に剣が突き刺さり、
中身の羽根が舞う。
近くにあった水差しを男に投げつける。
男が怯んだ隙に呼び鈴の紐を三回引っ張る。

緊急を知らせる合図。
これで護衛が駆けつけてくれるはず。

そのはずなのに!
全然助けが来ない!!

剣を振り回す男から逃げ回る。
暖炉の側にあった火かき棒を手に取った。
ガキンガキンと剣を火かき棒で受け止める。
二度と受け止めただけで腕が痺れた。

力の強い男相手にどんどん窓の方へ
追い詰められていく。

「誰か助けて!!」

叫ぶが誰も来ない。どうなっているの!
バルコニーに追い込まれた。
この高さから落ちたら助からない。

振り下ろされる剣を火かき棒で
また、受け止める。
衝撃に耐えきれず火かき棒が
弾き飛ばされた。
男の口元が笑った。

ああ、もう駄目!

再び剣が振り下ろされる。
その時ぐいっと腕を引かれた。
目の前を大きな背中が横切る。

一瞬だった。

飛び散るおびただしい血飛沫。
生暖かい返り血をしこたま浴びた。
肩から一刀で真っ二つに切断された刺客。

呆然と私は血まみれで見惚れた。

月明かりに照らせれて輝く銀の髪。
刺客を斬り捨て血の滴る剣を握る
ゾッとするほど美しい王。

刺客を斬り捨て返り血一つ浴びてはいない
私の夫がそこに立っていた。










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