この秘密を隠したまま、彼の子を孕むことができるでしょうか〜どうやら、アリスさんにはエッチな秘密があるようです〜

こうしき

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1話 黒部アリスの性質について

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 PM二十二時。黒塗りの高級車のハンドルを握り、法定速度で公道を駆ける。夜道の運転はいつもより一層気を引き締めねばならない。後部座席には大切なあの方が乗っていらっしゃるのだから。

「遅くなってしまい、すまないな」
「いえ、問題ありません」
「会合がここまで長引くとはな……君も疲れただろう」

 後部座席からはコキコキと首を鳴らす音が聞こえる。それすらも愛おしくて、つい口角が上がってしまう。

「いえ、問題ありません。 夏牙なつき様こそお疲れなのでは。いつもより声のトーンが低いですよ」
「そうか?」
「30Hzは低いですよ」
「君の知識量にはいつも驚かされる」

 適当言ってます♪ だなんで明かすことはない。堂々としていれば、適当なことを言ってもそれっぽく聞こえるのだということは長年お側にいる間に検証済で。全てにおいて完璧な方だと尊敬はしているが、少し抜けた所があるのが堪らなく────愛おしかった。

「今のうちに明日の予定を確認しても?」
「ああ」

 言いながら夏牙様は剥き出しの額に手を添え、軽く目を閉じる。ああ、疲れていらっしゃるのだなと仕事の話を続ける事に罪悪感を覚えるが、夏牙様──だけではなく、私がお仕えする立石家の方々のスケジュールを管理し、御世話をする。それが私の仕事である。情に流され、ここで「やめておきましょう」と言うわけにはいかないのだ。

「明日は十一時よりT国プラザホテルの会長主催の会合、その後会食。十四時より当ホテルの第二会議室にて後期予算会議。資料は後程お渡ししますので、明日の移動中に目を通して頂ければ。十七時より当ホテル会員 鶴瀬様の御息女の結婚式がございますので、ご挨拶が……夏牙様?」

 ルームミラーで後部座席を確認すると、うとうとと船を漕ぐ夏牙様の姿が。思いもよらぬご褒美に、鼻息と呼吸が荒くなるのをなんとか堪え、赤信号で留まった隙に後ろを振り返る……勇気はないので、ルームミラーを動かしてそのお姿が映り込むよう調節をする。

 か……か……かわ……かわわわわわっ……かわいいいいいっ!!

 麗しいお姿に手を合わせ、「ありがとうございます」と天を仰ぐ。ああ、信号が青に変わってしまった。チクショウと悪態をつきながら、渋々ゆっくりとアクセルを踏んだ。滅多に見れぬこの最高で最強の寝顔を一秒でも長く見ていたいので、超がつくほどの安全運転でお屋敷を目指す。あと二十分はかかる距離だ。その間信号が変わる度に、そのお姿を舐め回すほど拝見させて頂くことにしようと思う。


 私のこの、多少の変態気質は誰にも知られていないハズで。しかしまあ……この程度の秘密、知られたら知られたで問題はないのだけれど、もっと知られては困ることが……私にはある。軽蔑されやしないかと内心ヒヤヒヤしてはいるのだけれど、やめられないのよ、どうしようもないほどに。



 高校を卒業し、この家に仕える使用人として働き初めてから今日でぴったり丸十四年。気がつけば私も三十二。男は三十歳を越えて童貞であれば魔法使いになれるとかなんとかと言うけれど、私は魔法使いにもなれなければ魔法少女にすらなれやしなかった。

 ……まあ、こんなデカい図体で魔法少女だなんて笑いの種にしかならないのだけれど。

 長身も巨乳も私には無駄で、邪魔でしかない。身長は百七十センチジャスト。おまけにHカップで三十路越えだなんて、最早武器を持て余した戦後の兵士のようじゃない? まだ戦える年齢の頃であれば多少は──と思っていた頃もあったけれど、この職種で、この多忙さで、この図体で寄り付く男性などいるはずもなく。言い訳ばかりを並べた所で私が処女で多少の変態である事実が覆ることなどありもしない。

「……眠い」

 朝は苦手だった。お湯を沸かしてコーヒーを淹れた後、目を覚ますために無理矢理シャワーを浴びるのが日課になっていた。
 有り難いことに自室に備え付けられたシャワールームで熱いお湯を浴び、本日の下着を選ぶ。お姫様の部屋にあるような、白い猫足箪笥の金の取手を引けば、小さくてキラキラした鮮やかな布地たちが、今日はどれにしようかと私を悩ませる。数年前までは皆同じようなシンプルで黒い、可愛らしさの欠片もないものばかりだった。しかし新しい友人の紹介で何度か訪れたランジェリーショップで、人生観がひっくり返る出会いをしたのだった。出会いといっても人ではなく、下着なのだけれど。

「こっちか……こっちかな」

 こういうものは毎日入れ替わりで、順番に身につけるのが一般的なのかもしれない。しかしあまりにも数が多い。二十セットは優に超えている下着たちは、ぎゅうぎゅうに箪笥に詰め込まれ、「使って!使って!」と私に訴えかけてくる。
 よし、今日は天気も良いし、桜もそろそろ満開になるだろう。とのことで、パステルカラーの桜色の下着を取り出す。私が選ぶ基準は大体こんなもの。

「かわいい、かわいい……よし」

 カップの部分は白地で、桜の花弁が象られたデザインだ。花弁の周りは金の刺繍で縁取られている所がお気に入り。フロントとサイド部分は桜色で、ショーツも同じく桜色。Tバックのショーツを履くとこれまた大きな尻が威嚇するように鏡に写り込むが、知ったことではない。Tバックは私の中では最強であり、かわいい下着を身に着けた私は無敵、無敵なのだ。

「明日は白い下着にしよう……今日もお仕事がんばるぞ……」

 ボソボソと気の抜けた掛け声で己を鼓舞し、 ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干す。手早く化粧を済ませ、今日の予定を再確認すると足早に自室を後にした。ガレージに向かい、楓様を送り、桜江様から本日の頼まれ事を引き受けた後、夏牙様を出迎える準備をしなければならない。今日も私は忙しい。充実した毎日が心地よい、これから大好きなあの方に会える──最高だ。



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