【完結済】婚前教育〜使用人たちに気が狂うまで愛されて、子作りの方法を教わらなければならないようです〜

水鏡こうしき@4/13書籍配信開始

文字の大きさ
4 / 10

四話 六之宮家の接吻指南(★)

 温かく、柔らかい。離れては触れ、優しく重ねられる唇の初めての感触。

「ろ……ろくろぉっ……!?」

 息が苦しい。鼻から吸って吐けばいいだけだというのに、それすらできなくて。この近距離で鼻から息を吐けば、間違いなく息が触れてしまう。それがなんだか恥ずかしく思えたのだ。

「お嬢……どうですか?」
「ん……はぁッ……どうって言われても……」
「接吻は初めて?」
「そりゃぁ……そうだけど……」

 ちゅ、と何度も押し当てられた禄郎の唇は、いつも嫌味を言ってくるものと同じとは思えないくらい優しくて。同じことを繰り返すうちに、次第に全身の力が抜けていった。

「……鼻から吐いて、吸って」
「こ……う……?」
「……上手」

 日焼けして大きな禄郎の手が史乃の髪を撫でる。彼にこんなことをされるのは初めてのことだった。体から抜けていた力が再び姿を現して、史乃の全身を緊張の糸で縛り上げてしまう。

「口を少し開けてもらえます?」
「こう?」
「そうです」

 半開きになった史乃の口に、禄郎がぱくんと噛みついた。唇全体を喰むように甘噛みされ、史乃の眉根がキュッと寄った。

「……ふ……ぅ……あ……」
「お嬢?」

 ちゅ、と軽く口づけられた後、史乃の両頬を禄郎の手が包みこんだ。明るい茶の瞳は、真っ直ぐに史乃のことを見つめていて。

「ふわふわするの……」
「心地よいですか?」
「ええ……口づけって、心が解れるのね」

 おまけに「もっと」と求めたくなってしまう。

(それにこの……妙な感覚は何なの……)

 臍のうんと下の辺りが、むずむずと火照っている。こんな感覚は初めてのことだった。

「お嬢、目を閉じて口を開けて」
「え……ん゙ん゙ッ!?」

 押し当てられた禄郎の唇の隙間から史乃の口内入ってきたのは、禄郎の舌だろうか。ざらりとした熱い肉に、史乃の目が大きく見開かれる。

「ん゙ぁ……ぁ……んッ……」
「お嬢……お嬢の舌も下さい」
「ん……こ……う?」
「……ん」

 狭い口内で、二つの舌が一体となる。逃げてはすぐに追いつかれ。絡め取られ、吸われ、歯茎をなぞる、禄郎の長い舌。

(きもちいい……なにこれ……止まらない……おねがい、もっと……)

 夢中になって禄郎の舌を吸った。自然と腕が伸び、彼の体に抱きついていた。

「ん……ふ……ぁ、ろ……くろぉ……」

 口の端から唾液が滴った。唇同士の間で跳ねて混ざる水音は聞いたこともないほど淫らで、史乃の思考を掻き乱す。

「んッ……はぁ……」
「お嬢も、さ……絡めて」
「ん……ふ、ぅ……」

 言われるがまま、お構い無しに舌を絡める内に周りが見えなくなってきた。この光景をすぐ近くで、誠とジェイクが見ているというのに。

(でも……止まれないの……)

 心地よさの中に、ふと史乃の体を妙な感覚が襲った。驚きのあまり、閉じていた目を見開いてしまった。

(……え? なに? どうしてこんな……自分の股に触れたいの……?)
 
 足の付け根から股の間にかけてが、ジリジリと熱く響くように痛む。太股がきゅ、と内側に寄り、両膝が触れ合った。股の間の妙な感覚に、もじもじと尻が浮いてしまう。

(うそ……まさか失禁!?)

 股が濡れているのだ。おまけに痛みはどんどん酷くなる。触れれば収まりそうな痛みだというのに、この場では流石に憚られて。

「お嬢?」
「はぁッ……なんで……こんな……!」

 どくどくと胸が激しく跳ねていた。目の前の禄郎がひどく男前に見える。

「私……おかしいわ……」

 禄郎は元を辿れば幼馴染。異性として見たことなどなかったはずだ。史乃の世話を焼いてくれる、喧嘩は多いが良き使用人。それなのに──……。

「大丈夫、おかしくありません。手順を教えますって言いましたよね? これは第一段階ですよ」
「だ、第一段階?」
「接吻は……同衾の導入に行われます。いきなり、だなんて無粋すぎますよ」

 禄郎の顔を見ることができなかった。サッと顔を伏せた史乃の視界に飛び込んできたのは、膨らみを増した禄郎の股間だった。

(これ……さっきのジェイクと同じ……! どうして、触れてもいないのに……?)

 姿勢を正した禄郎は史乃の視線に気が付くが、恥ずかしげもなく誇張した頂きを晒す。彼女の視線が自分の下半身に向けられていることが嬉しくもあり、悦びであった。

「三段階の一段目は接吻です。二段目は前戯……三段目は挿入……です」
「ぜんぎって?」
「挿入の前の戯れです。接吻も前戯に含むという考え方もありますが、この家の儀式では別と考えるそうです」

 儀式が始まってから、初めて聞く言葉だらけだ。わからないことはきっと全て三人が教えてくれる。そう考えるとフッと体の力が抜け、禄郎の胸に倒れ込んでしまった。

「ご……ごめんなさい!」
「もうへばったんですか?」
「そんなことないわよ!」

 意地悪い禄郎の笑みに、史乃の頬が膨らんだ。

「じゃあお嬢、復習です。今俺がやったこと、自分からやってみて下さいよ」
「自分から……?」
「そうです。婿殿はどのような方かわかりません。受け身ばかりでは問題があるかと」

 禄郎が言うことにも一理ある。迎え入れた婿が奥手であれば、同衾にまで至らないかもしれない。そうなれば子を設けるなど無理な話。

「自分から攻めるのも大事ってことね」
「よくわかってるじゃないですか」

 寝台の中央に移動した禄郎が胡座をかいた。史乃は意を決してその上に腰を下ろした。

「お嬢!?」
「これは作法的にはよくなかった?」
「いえ…………最高かよ……」
「何か言った?」

 口元を手で覆い隠してしまった禄郎の言葉が、最後まで聞き取れなかったのだ。視線も上に持ち上げられてしまったし、彼の思いが掴めないままだ。

(そんなことより……これ……!)

 史乃は足を揃えて横座りのように禄郎の下半身の上に腰を据えたが、ちょうど臀部の谷の端に触れているのだ──禄郎の股間の、膨れ上がった箇所が。

(これ……触れるの、気持ちいい……)

 あまり臀部で押しては、禄郎も驚くかもしれない。自然な風を装って、史乃は腰を捩った。

「……ッ! おじょ……ッ……接吻を」
「あ……ええ、わかっているわ」

 上半身を折ってくれる禄郎に合わせ、史乃も目一杯顔を上に持ち上げた。首が疲れてしまうので時折休憩をする度に、艶の混じった禄郎の吐息が史乃の首筋を撫でた。

「お嬢……それ、わざとやってます?」
「何のこと?」
「とぼけないで下さいよ……!」
「きゃ!」

 視界が周り、史乃の両肩を抑え込むのは禄郎の大きな手。寝台に押し倒された史乃の上に覆い被さった禄郎の瞳は、艶美な色を纏って揺れていた。

「ほら、続き」
「まって……ちょっ……!」

 そっと押し当てられた唇は、史乃の舌を待っているようだ。そろりと顔を出した舌先で禄郎の唇を舐め、僅かに開いた口の隙間から舌先を押し込んだ。

「そう、そうです」
「こ……う?」
「もっと」

 体の一部が重なって、吸い合っているだけだというのに。たったこれだけのことで、史乃の腰は砕けてしまいそうだった。

「……こんなもんですかね」
「へ?」
「交代しましょう。お嬢が蕩けてしまう前に」

 最後にちゅ、と史乃の額に唇を落とした禄郎は、寝台を降りて傍の椅子にどかりと腰を落とした。
 
「次は誰なの……?」

 接吻の余韻に浸ったまま、史乃は身を起こした。よく見れば寝台と使用人たちの座る椅子の距離は凡そ一メートル。いつの間に椅子を動かしたのだろう──こんなにも近距離だったことに驚き、史乃は寝台の淵にまで後ずさった。
 
「お嬢様。失礼します」
「誠……」
 
 誠の片膝が寝台に乗ると、ギッと寝台が沈む。にじり寄ってきた誠は史乃の前で正座をすると、深々と頭を下げた。

「ここからは私が」
「ええ。よろしく、誠」

 誠の体は大きい。十五の時にこの屋敷にやって来てからというもの、彼の背はぐんぐん伸び、今やこの屋敷で一番の大柄だ。恵まれた肉体で力仕事をなんでも熟す一方、手先も器用。この太い指が繊細に動く様は魔法のようで、史乃はいつもその動きに見惚れてしまっていた。

「ではお嬢様。まずはお召し物を全て脱いで下さい」
「……え?」

 寡黙で真面目。表情の変化が乏しい誠の口から飛び出した言葉は、あまりにも衝撃的だった。


あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。