【完結済】こんなに好きになるつもりなんて、なかったのに~彼とわたしの愛欲にまみれた日々~

水鏡こうしき

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2/馴染みの顔ぶれ

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 葵と約束した土曜日。わたしは待ち合わせ時間の十分前に指定された居酒屋に到着した。予約者である「菱川」の名を告げると案内されたのは、掘炬燵のある個室だった。

「あ、ほたるちゃーん」
「ゆーちゃん、久しぶり」

 友人の美夜川みやかわ 夕実ゆみ。ゆーちゃんと呼んだ方が可愛いからといって、わたしは中学の頃から彼女のことをずっと「ゆーちゃん」と呼んでいた。長く暗い色の茶髪を背中に流し、小さな手をこちらに向けて振っている。

「ゆーちゃん、相変わらず……」

 大きくせり出した二つの山にはどうしても目がいってしまう。彼女はどちらかと言えば着痩せするタイプなのだが、春先の薄手の服装ではどうしてもボディラインが出てしまう。

「この時期は嫌よね、夏も嫌い。変な男ばかり寄ってくるもの」
「昔より増えた?」
「変わらないわ。男運が悪いのかなあ、変な男ばっかりよ」

 溜め息をつく彼女の隣にわたしは腰を下ろした。 彼女が成人してから愛用しているというブルガリの香水の香りがふわりと鼻をくすぐる。加えてこのスタイルに優しげな顔立ち。彼女の女性としての魅力は、女のわたしでも引き込まれてしまう。

「モテるのもなかなか大変だね」
「モテてないってば」
「そんなことないと思うけどなぁ。わたしが男なら──って、あれ、可原かはらくん?」

 個室の襖をスッと開け、入ってきたのは見覚えのある男。中学生時代の同級生である可原くんだった。

「久しぶりー。お、まだ始まってない?」
「久しぶり、って、どうして……?」
「ほたるちゃん、何も聞いてないの?」

 ゆーちゃんが首を傾げると、靴を脱いで座敷に上がった可原くんは彼女の正面に座った。その位置はベストポジョンだと思う。グラス越しにちらりと彼女の体を見つめても、恐らくは誰も気が付かないだろうから。

「何もって?」
「葵ちゃんにね、『他にも誰か誘ったら?』って提案したのよ」
「ゆーちゃんが?」
「うん」
「それで誘ったのが可原くん?」
「まあ俺だけじゃないよ? 他にも来るし」

 わたしの知らぬ間に、女子三人による飲み会が合コンにすり変わっていたようだ。


(あんまり男子って得意じゃないんだよね……)


 というのもわたしの「ほたる」というこの名前は、幼い頃からからかわれる標的となりやすかったからだ。「虫女むしおんな」なんてあだ名がついて馬鹿にされ、おまけに手を出してくる男の子も多かった。それが次第に喧嘩に発展し負けることがなかったものだから、いつの間にか「格闘虫女」なんてあだ名にパワーアップしてしまって。


(……まあ、喧嘩に負けないよう独学で格闘技を学んだわたしもわたしなんだけど)


 お陰で地元ではちょっとした有名人。大人になってからこちらが知らない男性に声を掛けられることはなくなったけれど、学生の頃はそれは大変だった。


(どうして親はこんな名前をつけたんだろう。聞きたくもないけど)


「真戸乃さんどうかした?」
「ん……ううん、なんでもない」

 可原くんはわたしのことを虫女とは呼ばない、安全な男子だ。こういう子はたまにいる。こういう子こそモテるのだ。

「あー、大丈夫。男は俺ともう一人しか来ないから」

 わたしを気遣ってか、可原くんは顔の前でヒラヒラと手を振った。


(ゆーちゃん、男運がないって言っていたけどこういう子がいいんじゃないかな)


 そう思って彼女に視線を送ったがなるほど……好みではないようだった。


 聞き覚えのある声が耳に届き視線を移すと、スッと襖が開いた。

「遅れてごめーん」
「葵ちゃん遅ーい」
「ごめんってー。もう一人も一緒に来たからさ」

 バタバタと座敷に上がってきたのは葵。暗い色のマッジュボブを整えながら、ゆーちゃんの隣に座った。これで一緒に来たという男から彼女を守ることができる。

「わりぃわりぃ、遅くなって」
「あ、!」
「ほたる、ご無沙汰」

 明るい茶髪は緩くパーマをかけているようだった。仕事柄もう少しちゃんとした格好の方が良いような気もするが、わたしがどうこう言える立場でもないし。

「おっす可原、美夜川も待たせて悪い」

 猫のように人懐っこい目元を弛緩させながら、とおやは可原くんの隣に座る。わたしが手渡したメニュー版を順番に見て飲み物を注文し終えると、乾杯の音頭と共に同窓会のような飲み会は始まった。



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