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24/嫉妬と諍い
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互いの予定が合えば、週に二度三度と顔を合わせることもあった。会う=身体を重ねる、ということが二人の間では暗黙の了解で、時間があれば互いの部屋へ行ったし、なければ食事をした後にホテルで交わることも稀にあった。
セックスをするために会っているのか、そうではないのか。この頃のわたしは、そんなこと微塵も考えたりはしなかった。互いが互いを好きだから、交わりたいと思うのは自然なことだと思っていたし、体目的でとおやがわたしと付き合っているだなんて、そんなこと有り得ないという根拠のない自信もあった。
ゴールデンウィークやお盆なんかは酷いもので、予定を合わせて何日も家に籠っては殆どの時間を身体を重ねて過ごした。愛し合っては眠り、目覚めては愛し合う──その繰り返しの日々。
それとは裏腹に、繁忙期で何週間も会えない時期もあった。久しぶりに会うと外での食事もそこそこに、スキンシップが始まってしまう。車の中で周囲の視線に警戒しては唇を重ね、帰路に着く。そしてシャワーも浴びずそのまま映画のワンシーンのように互いの服を脱がせ合い、欲望のままに交わった。
そんな生活がしばらく続いて──一年半が経っていた。
上手い具合に互いの週末の休みが重なった金曜日、わたしはとおやの部屋に泊まりに来ていた。合鍵は貰っていたので、先に入って少し散らかった部屋の掃除を済ます。今夜、職場飲み会が行われるというとおやは夕食を済ませて帰ってくるので、わたしもここに来る前に適当に済ませていた。
二人で夕食を食べれる時は、外食で済ますこともあれば、どちらかの家で調理をすることもあった。とおやが「手料理が食べたい」と言ってくれた日にはわたしが腕を奮うのだ。食器の片付けは彼が行ってくれるので、助かっている。
「ただいま……悪い、遅くなって」
「おかえりー、お風呂先に入っちゃった」
「俺も先に入ろうかな」
夫婦ごっこのような挨拶を済ませ、手の開いていたわたしはとおやに駆け寄った。家で少しだけお酒を飲もう、という話をしていたので、彼の手にはお酒の入ったビニール袋。おつまみはわたしが作ってきたものと、購入してきたものが冷蔵庫に入ってる。
十一月にもなり、日中に暖かい日は減ってきたせいか、とおやはスーツの下に薄手のカーディガンを着込んでいる。スーツの上着とカーディガンを脱ぐとおやにほんの少しだけ見蕩れると、わたしは彼の左胸に顔を埋めた。
(……え?)
なんだろう、この甘い香水の匂い。ハッとして顔を上げると、とおやのカッターシャツの右胸──わたしが顔を埋めていた場所とは反対側の部分に、うっすらと肌色のファンデーション……それに明るいピンク色の口紅が、少しだけ付着していた。
「なにこれ……」
「どうした?」
「……とおや!」
思い切りとおやを突き飛ばす。何がなんだかわからない彼は、不思議そうにわたしの顔を見つめている。
「なんだよ、急に……」
「それ、なに」
怪しい痕跡の残るカッターシャツを指差し、わたしはとおやを睨み付ける。彼がわたしの指を追ってシャツに視線を落とし、目を丸くした。
「……これは」
「これは、なに?」
「多分……さっき、飲み屋で……」
「そんなに、他の女の人とくっついたってこと?信じらんない!」
そういう飲み屋に行くなとは言わない、けれど、そこまで密着する必要があったのか──と、わたしは感情に任せて散々とおやを罵った。
「仕方ないだろ!」
「……仕方ないの?」
「俺はちゃんと相手に止めるよう言った。何度もだ。それでも、止めてくれなかった結果がこれだ。あっちも仕事でやってるんだから変な嫉妬は──」
「わかった……もういい!」
荷物と上着を持って、部屋着のまま玄関を飛び出す。後ろから追いかけてきたとおやに手を掴まれたが、反対の手でそれを叩き落とし無理矢理振りほどいてドアノブを握った。
「おい、待てよ」
「うるさい!着いてこないでよ!」
「待てって……! 待てって言ってんだろこの虫女!!」
「虫女って言わないでよ!最低!」
とおやを思い切り突飛ばし、玄関を出る。早足の大股歩きで外廊下を進むが彼が追ってくる様子はなかった。エレベーターに乗り込んだところで、玄関が開き駆けてくる気配。
(お願い、早く閉まって──)
エレベーターのドアがゆっくりと閉まる。祈るように見つめた閉じ行くドアの隙間から、とおやの姿が──。
「ほたる!」
「……馬鹿」
扉は閉まり、わたし一人を乗せたエレベーターはゆっくりと下降して行く。お酒を飲んでいるのだから、とおやは車を運転して追ってくることは出来ない。階段を使って駆け下りてくるにしても、相当お酒を飲んだ雰囲気もあったし、難しい筈だ。
案の定駐車場にとおやの姿はなく、愛車に乗り込んだわたしはバンドルを握り自宅へと向かう。
けれど、まさかあんなことになるなんて──。
セックスをするために会っているのか、そうではないのか。この頃のわたしは、そんなこと微塵も考えたりはしなかった。互いが互いを好きだから、交わりたいと思うのは自然なことだと思っていたし、体目的でとおやがわたしと付き合っているだなんて、そんなこと有り得ないという根拠のない自信もあった。
ゴールデンウィークやお盆なんかは酷いもので、予定を合わせて何日も家に籠っては殆どの時間を身体を重ねて過ごした。愛し合っては眠り、目覚めては愛し合う──その繰り返しの日々。
それとは裏腹に、繁忙期で何週間も会えない時期もあった。久しぶりに会うと外での食事もそこそこに、スキンシップが始まってしまう。車の中で周囲の視線に警戒しては唇を重ね、帰路に着く。そしてシャワーも浴びずそのまま映画のワンシーンのように互いの服を脱がせ合い、欲望のままに交わった。
そんな生活がしばらく続いて──一年半が経っていた。
上手い具合に互いの週末の休みが重なった金曜日、わたしはとおやの部屋に泊まりに来ていた。合鍵は貰っていたので、先に入って少し散らかった部屋の掃除を済ます。今夜、職場飲み会が行われるというとおやは夕食を済ませて帰ってくるので、わたしもここに来る前に適当に済ませていた。
二人で夕食を食べれる時は、外食で済ますこともあれば、どちらかの家で調理をすることもあった。とおやが「手料理が食べたい」と言ってくれた日にはわたしが腕を奮うのだ。食器の片付けは彼が行ってくれるので、助かっている。
「ただいま……悪い、遅くなって」
「おかえりー、お風呂先に入っちゃった」
「俺も先に入ろうかな」
夫婦ごっこのような挨拶を済ませ、手の開いていたわたしはとおやに駆け寄った。家で少しだけお酒を飲もう、という話をしていたので、彼の手にはお酒の入ったビニール袋。おつまみはわたしが作ってきたものと、購入してきたものが冷蔵庫に入ってる。
十一月にもなり、日中に暖かい日は減ってきたせいか、とおやはスーツの下に薄手のカーディガンを着込んでいる。スーツの上着とカーディガンを脱ぐとおやにほんの少しだけ見蕩れると、わたしは彼の左胸に顔を埋めた。
(……え?)
なんだろう、この甘い香水の匂い。ハッとして顔を上げると、とおやのカッターシャツの右胸──わたしが顔を埋めていた場所とは反対側の部分に、うっすらと肌色のファンデーション……それに明るいピンク色の口紅が、少しだけ付着していた。
「なにこれ……」
「どうした?」
「……とおや!」
思い切りとおやを突き飛ばす。何がなんだかわからない彼は、不思議そうにわたしの顔を見つめている。
「なんだよ、急に……」
「それ、なに」
怪しい痕跡の残るカッターシャツを指差し、わたしはとおやを睨み付ける。彼がわたしの指を追ってシャツに視線を落とし、目を丸くした。
「……これは」
「これは、なに?」
「多分……さっき、飲み屋で……」
「そんなに、他の女の人とくっついたってこと?信じらんない!」
そういう飲み屋に行くなとは言わない、けれど、そこまで密着する必要があったのか──と、わたしは感情に任せて散々とおやを罵った。
「仕方ないだろ!」
「……仕方ないの?」
「俺はちゃんと相手に止めるよう言った。何度もだ。それでも、止めてくれなかった結果がこれだ。あっちも仕事でやってるんだから変な嫉妬は──」
「わかった……もういい!」
荷物と上着を持って、部屋着のまま玄関を飛び出す。後ろから追いかけてきたとおやに手を掴まれたが、反対の手でそれを叩き落とし無理矢理振りほどいてドアノブを握った。
「おい、待てよ」
「うるさい!着いてこないでよ!」
「待てって……! 待てって言ってんだろこの虫女!!」
「虫女って言わないでよ!最低!」
とおやを思い切り突飛ばし、玄関を出る。早足の大股歩きで外廊下を進むが彼が追ってくる様子はなかった。エレベーターに乗り込んだところで、玄関が開き駆けてくる気配。
(お願い、早く閉まって──)
エレベーターのドアがゆっくりと閉まる。祈るように見つめた閉じ行くドアの隙間から、とおやの姿が──。
「ほたる!」
「……馬鹿」
扉は閉まり、わたし一人を乗せたエレベーターはゆっくりと下降して行く。お酒を飲んでいるのだから、とおやは車を運転して追ってくることは出来ない。階段を使って駆け下りてくるにしても、相当お酒を飲んだ雰囲気もあったし、難しい筈だ。
案の定駐車場にとおやの姿はなく、愛車に乗り込んだわたしはバンドルを握り自宅へと向かう。
けれど、まさかあんなことになるなんて──。
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