【完結済】こんなに好きになるつもりなんて、なかったのに~彼とわたしの愛欲にまみれた日々~

水鏡こうしき

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30/お願い、言葉にして★

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 涙が止まらなかった。驚いた顔のとおやが助手席に乗り込み、思い切り抱きしめてくれてもそれは変わらなかった。嗚咽を堪えながらとおやの胸倉を両手で掴むと、彼は両手を上げて降参の意を示した。

「誰よ!あの女っ!!」
「前に話した飲み屋のねーちゃんだよ。嫌って言ったのに無理矢理……」
「馬鹿っ……とおやのばかっ!!」

 疑わしい光景の一部始終を目撃していたわたしの目から見ても、とおやは明らかに彼女からのアプローチをが嫌がっていた。


(わかってる、わかってるのに悔しくて涙が止まらない……)


 とおやは悪くないのに、わかっているのに──八つ当たりでもしなければ、壊れてしまいそうで。

「見てたのか?」
「全部……見てた。わかってる、わかってるの……」
「そんなに泣くなら殴ってやればよかったのに、格闘虫女」
「その名前は言わないっでって言ったよね」
「……悪い」

 こんな所にいつまでもいるわけにはいかず、わたしはシートベルトをし、エンジンをかける。「待て待て」と、とおやが制止するので、シフトレバーにかけた手を離し彼を仰ぐ。

「……なに?」
「お前……その涙でぐちゃぐちゃな顔で運転するんか?」
「うん」
「危ねえから代われ。前見えねえだろうが」
「でも……」
「いいから」

 あまりにも強引に腕を引かれるので、仕方なしにドアを開け運転席と助手席を入れ代わる。
 
「……車ぶつけないでよ? わたし以外が事故したら保険適用外なんだから」
「なら、俺が運転しても大丈夫なように車の保険変えればいいじゃねえか。一緒に住んだら運転する機会、増えるかもしんねえぞ」
「なにそれ、プロポーズみたい」

 シフトレバーに添えられたとおやの手がスッと下り、わたしの手を握る。何事かと顔を上げれば、照れながら目を背ける彼の表情にどきりと胸が跳ねた。

「とおや?」
「俺は……いつかは……その……」
「あっ……」

 最後まで言わずにとおやは、震える唇でわたしのものに吸い付く。ちゅ、と優しい、長い口づけ──。

「とおや?」
「帰るぞ」
「さっき何て言おうとしたの?」
「……何でもねえ」
「何でもないって……」
「ちゃんと、いつか……今度言うから」

 それからは何度訊いてもとおやは無言。マンションに到着するとわたしの荷物を持ち足早に部屋へと向かう。わたしの車はとおやの車と縦列駐車が出来るよう、彼が契約を変更してくれていたようだ。これでわざわざ有料駐車場に停める手間がなくなったので、彼に感謝しなくてはならない。

「荷物、ありがと」
「先に片付けちまえよ」
「……うん」

 一人暮らしにしては広すぎるとおやの部屋は、空いているスペースがかなり多い。とりあえず寝室にキャリーケースを置き、洗面用具や化粧品などは洗面所にしまった。衣類をしまうスペースは流石にないので、衣装ケースかチェストの一つでも購入しなければならないだろう。


(とおやに相談してみようかな……)


 スーツの上着を脱いでネクタイを緩め、ソファでくつろぐ彼の背に声をかける。

「ねえとおや、服なんだけど──」
「服? あ……悪い、電話だ」
「うん、後で大丈夫」

 スマートフォンの画面を見るとおやは、不思議そうに眉根を寄せる。どうしたの、と訊ねるとどうやら知らない番号のようだった。

「お客さんかもしんねえ」
「名刺に電話番号書いてるの?」
「仕事用の番号はな…………はい、もしもし」

 余所行きの声で対応する横顔に惚れ惚れしながら、その隣に少し距離を開けて腰を下ろした。ポケットから自分のスマートフォンを取り出そうとした、その瞬間だった。

「いい加減にして下さい!」

 お客さんに向けるとは思えない声色で語意を強めるとおやの声に、驚き肩が跳ね上がった。彼の眉はつり上がり、怒っているのは明らかだった。それから二、三語相手と言葉を交わすと通話を切り頭を抱えてソファに身を投げ出した。

「どうしたの?」
「クソッ! あの女……!」
「……誰?」
「さっきの飲み屋のねーちゃん。うちの上司に番号訊いて電話してきた」
「はあ? 何それ……」

 とおやの言う「飲み屋のねーちゃん」というのは、職場の方々と時々行くキャバクラのキャバ嬢らしい。彼の上司で彼女と特別仲の良い方と個人的に電話番号を交換しており、その伝手つてでとおやの電話番号を入手したようだった。

「……ほたる」

 身を起こしたとおやが、おもむろにわたしに抱きつく。怯えた子犬のような後頭部を包み込み優しく撫でると、彼は鼻をスンと鳴らして腕にぎゅっと力を込めた。

「なんなんだよ……あの女……俺にはほたるが……ほたるが大事だってのに……」
「とおや? 大丈夫?」
「大丈夫じゃない」

 とおやがこんなにも弱い所を見せるなんて、初めてのことだった。得体の知れない女に言い寄られ怯えているのかもしれない。

「ほたる……」
「大丈夫、大丈夫だから」


(──わたしが彼を守らないと)


 腹の中でそんな思いが芽生えた瞬間、ゆるりととおやが顔を上げた。子供のように怯えきった表情を数秒で隠したかと思いきや、何故だか勝ち誇ったように得意気な表情を浮かべ始める。

「ひょっとしてお前、妬いた?」
「なっ……!」
「やきもち、妬いた? 俺が他の女に取られるかもしんねえって、不安になったりした?」
「う……うるさいなあ!」

 無理矢理ソファに押し倒し、唇を塞ぐ。舌を絡ませながらとおやのカッターシャツに手をかけると全てのボタンを上から順に外した。それを剥ぎ取りベルトを緩めると、私も自らの服と下着を取り払う。その足で寝室へ向かい、避妊具を手に戻ると彼の隣に腰を下ろした。

「どうした?珍しいな」
「……」
「泣いてる?」
「泣いてない!」

 とおやの腰に跨がり、表情を隠すように何度も唇を重ねた。つうっと流れた細い涙は、首筋を辿り胸の谷間に吸い込まれていった。

「んッ、んッんぅッ……と……おや……」

 ちゅう──ちゅう──と唇を吸い合う音の合間に、互いが互いの性器に手を伸ばす。太股の傍で勃ち上がった彼の性器に唇で触れると、ぴくんと跳ね上がるその腰回り。

「なんだよッ……どうしたよ、ほたる……このまま、セックスするのか?」
「んッ……んッ……ふぁ、うッ、ん、んッ……」
「あぁッ……そこッ……!」

 避妊具を脇に置き、彼の陰茎を吸い続けた。てのひらで陰嚢を包み込み優しく揉みほぐすと、伸びてきたとおやの両手が、強い力でわたしの頭を掴んだ。

「ッあ、は……あ、うッ……ほたるッ……!」

 眉根を寄せ、快感に歪む整った顔。わたしだけが見ることを許された、この厭らしくも見惚れてしまう──この表情。
 薄い唇、大きな手、節張って長い指。筋肉質な腕も、程よく割れた腹も胸も、骨の浮き出る足首も──全てが。全てが愛しい。全てがわたしの、わたしだけの、彼は、わたしの、わたしのもの。

「とおや……すき、だいすき、だいすき……」
「ほたるッ……早く、早く……!」
「早く、なあに?」
「繋がりたいっ……」

 せがむとおやを制し、勃ち上がった陰茎を手でしごく。先端からとろりとした先走りが溢れそれを吸い上げると、とおやが艶っぽい声を上げた。

「あぁッ……あ、あッあ……あぅ、うぅ……ほた、るッ……頼むッ、早く……!」
「かわいいね、とおや。すき、だーいすき」

 唇を重ね、更に、何度も、しつこく、扱く。情けない声を上げるとおやの腰ががくがくと震え出すので慌てて手を離し、避妊具を取り付けた。わたしに押し倒されたままの彼の下半身に、ゆっくりと腰を沈めてゆく。

「あッ──とおや、とおや……聞いて……」
「……なに?」

 身体が繋がる快感に、堪えきれない声が口の端から零れ落ちた。それでも尚、彼の顔から目を逸らさない。逸らしたくない。

「とおや……だいすき、だいすき。とおや……は、わたしの、わたしの恋人、絶対に、誰にも渡さないんだから……!」
「ほたる?」
「……絶対に誰にも渡さない」

 言い切った刹那、涙が一筋頬を伝った。驚き唖然とするとおやの唇を貪るように何度も吸い、そのまま彼の上で腰を振った。

「とおや……お願い、もっと抱きしめて」
「ほたる、どうした?」
「あ……う、だって」
「何?」
「とおや……が、他の誰かに取られるのが、怖いっ……」

 繋がっていないと、わたし一人だけ置いていかれてしまいそうな気がして、怖くて、それでも気持ち良くなりたくて、気持ち良くなって欲しくて──彼を無理矢理押し倒した。何度も何度も腰を振り快感に喘ぐと、上半身を起こしたとおやが強く抱きしめてくれるので、されるがまま身を任せ、居心地良さに目を閉じた。

「大好きなの、とおや。ずっとこうしていたいの……」
「……ああ」
「とおやは、わたしのこと好き?」
「当たり前じゃねえか」
「それならお願い、もっと言葉にして。愛情は言葉にしてくれないとわかんないよ」
「こうして、セックスしてても?」
「そうだよ」

 何かを隠すように、それからとおやは何度もわたしに口づけた。頭のてっぺんからとろけそうになる甘い、甘いくちづけ。

「お願い……安心させてほしいの、だから、お願い」
「好きって言えば安心できるのか?」
「できる、できるの。だから──」
「ほたる」

 わたしの身体を解放したとおやの右手が、優しく頭を包み込み撫でる。左手は頬に添えられ、するすると下降すると腰に添えられた。

「……好き、だから」
「うん……」
「大好きだから……大好きなんだ、だから……」
「……だから?」

 右手までもが下降し、わたしの腰に添えられた。足の付け根あたりをがっちりと固定され、身動きが取りづらくなる。

「ずっと一緒にいよう」
「とおや…………あ、や、ちょっと……!」
「ごめん、もう、我慢できねえ」

 ソファで対面座位のまま、とおやはがくがくと腰を振り始める。突然のことに身体は驚き、びくびくと過剰に反応してしまう。

「あ…………ああ、あッ、ああッ! とお……や……ぁ、あ、あッ!」

「気持ち良い?」

「きもちいい、よ……あ、あぁッ!」

 一旦身体が離れたかと思いきや、そのままのラグの敷かれた床に押し倒されてしまう。わたしの上に覆い被さったとおやは、優しく頭を撫でてくれながらなかに侵入を果たした。

「ッあ、ああぁ……ほたる……ほたる……!」

「はあッ……はあッ……だいすきッ……だいすきッ……とおや、とおや……」

「あ……あ、あ、ヤバい、イク……イク、イッ……あぁッ……!!」

 激しく腰を打ち付けたとおやが絶頂に達する。そのまましばらく抱き合った後、キスを交わしながら寝室へと向かった。
 シャワーを浴びることも、夕食を食べることも忘れわたしたちは深夜まで、何度も何度も愛し合ったのだった。


 
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