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希望の炎編
折れた心
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夜の病院。
静寂と闇に包まれた中を、同じく闇のように深く黒いローブを纏った者が進んでいた。
物音を立てず慎重に、ゆっくりゆっくりと歩くその姿は、その者の巨躯に似つかわしくない。
その物は1つの病室の前で立ち止まり、ゆっくりと腰に差した剣を抜き、病室のドアに手をかける。
その刹那。その病室周辺の明かりが一斉に灯り、ローブの者は数名の騎士に包囲をされた。
その中から1人の騎士が代表して言葉を放つ。
「大人しく投降しろ。今なら命までは取らない。」
怒気を孕んだ女性の声は、ある1件で弱りきっているその者の精神を強くえぐる。
メンタルが落ち着かないまま慣れない剣を振り回し、その隙に部屋の中へ侵入を試みる。
(あいつさえ殺せば・・・あいつさえ・・・)
――ザン!
縋るような歪んだ一縷の望みは、先程言葉を発した騎士の決死の一閃により潰えた。
胸から鮮血を噴き上げ倒れ込む最中、前回は出番の無かった相方を頼る。
「ミュアァァァ!あいつを殺せえぇぇ!」
その怒声を聞いた瞬間、騎士たちはすぐに病室の中に入った。
目に飛び込んできたのは、ベッドの上にいながら窓の方に剣を構えていた顔見知りの少年と、窓の縁に足をかけ病室内に向けて魔法を発動しようとしている女性―――の石像。
「ほっほ、これでも若い頃は天才魔術師と言われておってのう。」
その石造の傍らにいたのは、人の良さそうな老人だった。
~~~~~
「ユウくん・・・ごめんね、怖かったよね。本当に怪我してない?大丈夫?」
泣きそうな顔をして、騎士の女性――アルはユウの身体や顔をペタペタと触る。
それを見て人の良さそうな老人――ソディスが笑うと、ギロっとアルはソディスを睨みつける。
今夜のこの襲撃は、ソディスが犯人たちに起こさせたものだった。つまり、ユウは囮にされたのだ。
「ほっ、怖いのう・・・。こんな棺桶に片足突っ込んどる爺さんにそんな冷たい目を向けんでもええじゃろう・・・」
「・・・ユウくんが無事だったからよかったものの、もし怪我でもしていたら一生あなたを許さないつもりでした。私はずっと反対でしたので。」
ユウが起きて犯人の顔を覚えていない時点で、この作戦をするとソディスから言われていたらしい。
そしてユウを襲った真犯人は・・・ケールとミュアだった。2人は今牢屋へと連行されている。
そもそもアルたち騎士団や冒険者ギルドは、今回の事件を最初からパルファの犯行とは思っていなかったようだ。
「剣士なら、突き立てるよりも首をはねた方が確実で早いからね。それにあの人は・・・その、身内のアリバイがあって、証言としては有力だったから違うって分かっていたの。」
確かに。わざわざ突き立てるよりも普通に切った方が早いし、何より殺傷力が高い。それをしなかったということは、剣術スキルを持っていない剣士以外の犯行ということか。それにしても・・・
(身内の証言が有力?パルファの親は騎士かなにかなのか?)
新しく出来た疑問について考えていると、ドアが開き騎士が数名入ってきた。
「失礼する。久しぶりだねユウくん。・・・今回は本当に災難だった。」
その中心にいたのはアルも所属する第二騎士団団長のノーツだ。敬礼をとるアルに軽く返し、ノーツは続ける。
「さて早速だが、報告すべきことがある。襲われたユウくんや犯人逮捕に躍起になっていたアルにとって、良い知らせとなるか悪い知らせとなるかは分からんが・・・。」
ひと呼吸置き、何かを思案しながら口を開いた。
「護送中だったケール・ミュアの冒険者両名が死亡した。」
~~~~~
「アハハハハ。サイゴハスコシモリアガッタナァ。」
どこにいるのか分からなくなるほどの闇と静寂に包まれた森の中を、フワフワと漂うように移動する気味の悪い男がいた。
男が思い出したのはつい先日ちょっかいを出した冒険者グループの男女。退散する直前に男のスキルで精神干渉をして、弱い心をちょっと刺激したら面白いことに仲間割れをしてくれた。
「ホントウニ、ヒトノココロハヨワイナァ。」
2人の死に際を思い出すと、男の無感情な顔にも少し喜色が浮かぶ。
恐怖心をはじめとするさまざまな負の感情によるストレスによって死んだあの2人。自分と出会う前と比べて肌の血色は悪くなり、行き場のない恐怖により護送中の数分で頭髪は禿げ上がった。目の周りのクマもひどかったし、あれではまるで自分の外見を真似したようだ。
「アァデモ、アノフタリハキカナカッタカ。」
次に思い出したのは、先述した冒険者グループの残りの2人。
女の方は最初こそ効いたものの、帰り際の攻撃は効いていないようだった。ちょうどよいタイミングで耐性が付いたのか、それとも特殊なスキルでも持っているのか・・・
そして一番印象に残るのはあの少年。数少ない仲間の匂いが付いていて、視覚からの精神攻撃が一切効かなかった。
「アノコ、コワシテミタイナァ」
にやり、と感情の無かった顔に影の差す笑みが浮かんだ瞬間、木々がざわめき周辺の魔物や動物が逃げ出した。
そうして闇の中に残っている者は男だけに・・・
とはならなかった。
黒に近い暗闇の中に、場違いなほど明るみを帯びた水色が浮かぶ。
「アイジャナイカ。ヒサシブリダネェ。」
「私は久しぶりでもないけどね。マリ、そろそろ戻ってきて。」
そう告げて少女は、自身のスキルを発動するために男の手を取る。
だがスキルを発動する前に、男に顔を向けて言い放った。
「しばらくは外出禁止。あの少年にも手出し禁止。」
反論する暇もなく、男は仲間と呼べる者が待つ、家と呼べる場所に帰された。
追って少女も闇の中から消える。2つの異物がなくなり、魔物に恐怖を残しつつも夜の森は本来の姿に戻っていく。
静寂と闇に包まれた中を、同じく闇のように深く黒いローブを纏った者が進んでいた。
物音を立てず慎重に、ゆっくりゆっくりと歩くその姿は、その者の巨躯に似つかわしくない。
その物は1つの病室の前で立ち止まり、ゆっくりと腰に差した剣を抜き、病室のドアに手をかける。
その刹那。その病室周辺の明かりが一斉に灯り、ローブの者は数名の騎士に包囲をされた。
その中から1人の騎士が代表して言葉を放つ。
「大人しく投降しろ。今なら命までは取らない。」
怒気を孕んだ女性の声は、ある1件で弱りきっているその者の精神を強くえぐる。
メンタルが落ち着かないまま慣れない剣を振り回し、その隙に部屋の中へ侵入を試みる。
(あいつさえ殺せば・・・あいつさえ・・・)
――ザン!
縋るような歪んだ一縷の望みは、先程言葉を発した騎士の決死の一閃により潰えた。
胸から鮮血を噴き上げ倒れ込む最中、前回は出番の無かった相方を頼る。
「ミュアァァァ!あいつを殺せえぇぇ!」
その怒声を聞いた瞬間、騎士たちはすぐに病室の中に入った。
目に飛び込んできたのは、ベッドの上にいながら窓の方に剣を構えていた顔見知りの少年と、窓の縁に足をかけ病室内に向けて魔法を発動しようとしている女性―――の石像。
「ほっほ、これでも若い頃は天才魔術師と言われておってのう。」
その石造の傍らにいたのは、人の良さそうな老人だった。
~~~~~
「ユウくん・・・ごめんね、怖かったよね。本当に怪我してない?大丈夫?」
泣きそうな顔をして、騎士の女性――アルはユウの身体や顔をペタペタと触る。
それを見て人の良さそうな老人――ソディスが笑うと、ギロっとアルはソディスを睨みつける。
今夜のこの襲撃は、ソディスが犯人たちに起こさせたものだった。つまり、ユウは囮にされたのだ。
「ほっ、怖いのう・・・。こんな棺桶に片足突っ込んどる爺さんにそんな冷たい目を向けんでもええじゃろう・・・」
「・・・ユウくんが無事だったからよかったものの、もし怪我でもしていたら一生あなたを許さないつもりでした。私はずっと反対でしたので。」
ユウが起きて犯人の顔を覚えていない時点で、この作戦をするとソディスから言われていたらしい。
そしてユウを襲った真犯人は・・・ケールとミュアだった。2人は今牢屋へと連行されている。
そもそもアルたち騎士団や冒険者ギルドは、今回の事件を最初からパルファの犯行とは思っていなかったようだ。
「剣士なら、突き立てるよりも首をはねた方が確実で早いからね。それにあの人は・・・その、身内のアリバイがあって、証言としては有力だったから違うって分かっていたの。」
確かに。わざわざ突き立てるよりも普通に切った方が早いし、何より殺傷力が高い。それをしなかったということは、剣術スキルを持っていない剣士以外の犯行ということか。それにしても・・・
(身内の証言が有力?パルファの親は騎士かなにかなのか?)
新しく出来た疑問について考えていると、ドアが開き騎士が数名入ってきた。
「失礼する。久しぶりだねユウくん。・・・今回は本当に災難だった。」
その中心にいたのはアルも所属する第二騎士団団長のノーツだ。敬礼をとるアルに軽く返し、ノーツは続ける。
「さて早速だが、報告すべきことがある。襲われたユウくんや犯人逮捕に躍起になっていたアルにとって、良い知らせとなるか悪い知らせとなるかは分からんが・・・。」
ひと呼吸置き、何かを思案しながら口を開いた。
「護送中だったケール・ミュアの冒険者両名が死亡した。」
~~~~~
「アハハハハ。サイゴハスコシモリアガッタナァ。」
どこにいるのか分からなくなるほどの闇と静寂に包まれた森の中を、フワフワと漂うように移動する気味の悪い男がいた。
男が思い出したのはつい先日ちょっかいを出した冒険者グループの男女。退散する直前に男のスキルで精神干渉をして、弱い心をちょっと刺激したら面白いことに仲間割れをしてくれた。
「ホントウニ、ヒトノココロハヨワイナァ。」
2人の死に際を思い出すと、男の無感情な顔にも少し喜色が浮かぶ。
恐怖心をはじめとするさまざまな負の感情によるストレスによって死んだあの2人。自分と出会う前と比べて肌の血色は悪くなり、行き場のない恐怖により護送中の数分で頭髪は禿げ上がった。目の周りのクマもひどかったし、あれではまるで自分の外見を真似したようだ。
「アァデモ、アノフタリハキカナカッタカ。」
次に思い出したのは、先述した冒険者グループの残りの2人。
女の方は最初こそ効いたものの、帰り際の攻撃は効いていないようだった。ちょうどよいタイミングで耐性が付いたのか、それとも特殊なスキルでも持っているのか・・・
そして一番印象に残るのはあの少年。数少ない仲間の匂いが付いていて、視覚からの精神攻撃が一切効かなかった。
「アノコ、コワシテミタイナァ」
にやり、と感情の無かった顔に影の差す笑みが浮かんだ瞬間、木々がざわめき周辺の魔物や動物が逃げ出した。
そうして闇の中に残っている者は男だけに・・・
とはならなかった。
黒に近い暗闇の中に、場違いなほど明るみを帯びた水色が浮かぶ。
「アイジャナイカ。ヒサシブリダネェ。」
「私は久しぶりでもないけどね。マリ、そろそろ戻ってきて。」
そう告げて少女は、自身のスキルを発動するために男の手を取る。
だがスキルを発動する前に、男に顔を向けて言い放った。
「しばらくは外出禁止。あの少年にも手出し禁止。」
反論する暇もなく、男は仲間と呼べる者が待つ、家と呼べる場所に帰された。
追って少女も闇の中から消える。2つの異物がなくなり、魔物に恐怖を残しつつも夜の森は本来の姿に戻っていく。
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