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ノワール帝国編

ちょっとした口撃

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「おやおや皆様ぐっすりと・・・寝心地がよかったようで安心いたしました」
その言葉によって目を覚ます。牢屋の入口には先日の口髭男が立っており、扉が開けられていた。

「こちらの部屋が名残惜しいでしょうが・・・確認がとれましたので、どうぞ帝都まで向かって結構です。」
先日に引き続き横柄で失礼な口髭の男は、ユウたち一行に牢屋から出るように伝えた
「疑いに対して、謝罪はないのでしょうか?」
ムッとした顔でパルファが問いかけるが、口髭の男は不遜な態度を崩さない。
「国境を超えるというのは、こういうことなのですよ若き勇者殿。知見が広まりよかったではありませんか」

それに対してパルファが口を開こうとしたとき、ユウがその口を手で塞いだ。
「いい勉強になりましたよ!ありがとうございました!」
ユウが口を塞ぐ速度に男は驚き仰け反る。

「本当に勉強になりました!壁の素材や装備の仕様も全く違いますし!あ、あと偉い方は頭に毛がついた被り物をするっていうのも!」
ユウの発言に、口髭の男は「んなっ!?」と初めて慌てる素振りを見せた。

「ななななにを言っておる!!!無礼だぞ貴様ぁ!!!」
自分のサラサラ髪を手で押さえながら、男はこちらを指さし吠えてくる。
「あれ?もしかしてただ単に禿げているから被っていたのですか?それは失礼いたしました、なにぶん知見が狭いもので・・・」

ユウのその態度に、男の顔はカーッと赤く染る。
ついには剣を抜こうとしたとき、シルバがその剣を抜けないように抑えた。
「こっちはもう勇者だって証明されたんだろ?それ以上やってマズイのはどっちだ?」

そう言うシルバに圧倒されたのか、男は数歩後ずさり壁にぶつかった。
「じゃ、出よっか」
ユウがそう言って、4人は拘置所から出ていった。

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「さすがに外へ出たら大丈夫ね」
ガヤガヤとした街のなかでパルファが言う。兵士の装備や紋章は違えど、一般人の生活レベルや衣服は王国と変わらない。
それゆえユウ達一行も、周囲から王国民だとバレていないようだ。

「お、ここだな」
前を歩いていたシルバが、大きな建物の前で立ち止まる。
それは帝国の冒険者ギルドだ。
4人は帝国内での身分証を持っていない。今後必要なことも多いため、帝国の冒険者証を作りに来たのだ。

冒険者ギルドは国家から独立した組織だが、冒険者証のデザインは国に準じている。
王国の冒険者証は、こちらでは役に立たないのだ。

4人はギルドの中へ入った。
王都の固い印象のギルドとは違い、こちらは酒場が併設されている。
転生した当初ユウが思い描いていたイメージそのままの冒険者ギルドだ。

見た目麗しい女性と片腕片目の少年。
白髪と赤髪の悪目立ちする髪色の男が2人。
そんな一行はそこそこの視線を注がれながら、カウンターへとたどり着いた。

「ようこそ、ご要件はなんでしょう?」
「貴族の護衛依頼から戻った。依頼主からこれをギルドマスターに渡すよう言われている」
シルバがそう言って、受付嬢に丸まった羊皮紙を手渡した。

何か指示が出ていたようで、受付嬢の反応が少し変わる。
「・・・!承知いたしました。ギルドマスターをお呼びしますので、奥の待合室でお待ちください」


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「いやはやお手数をおかけしました。カウンターでゴチャゴチャやっていると、王国から来た勇者一行だと勘づく輩も多いので」
待合室、目の前に座る眼鏡をかけた人の良さそうな男はそう言った。
「私はユリウスの街のギルドマスター、ラルフです。ネグザリウス王国王都ギルマスのソディスさんより話は伺ってますよ」

ラルフは話しながら、机の上に4枚のバッジを置く。
「これが帝国の冒険者証となるものです。あなた方の王国でのランクに応じたものを用意しました」

「そういえば今更ですけど、ベルベットさんも冒険者証をもっていたんですか?」
騎士であるはずのベルベットに問いかけるユウ。
並んだバッジは銀色が3枚と黒が1枚。
この銀色がベルベット。すなわちベルベットは騎士でありながら、ユウやパルファと同じくBランクの冒険者であるということだ。

「ん~?あぁ、なんか貰ったことあったなぁ」
そういってゴソゴソとポケットを探るベルベットだが、その夏に着るようなペラペラの服から出てくるとは思えない一同。

「ベルベット様のお話は、こちらのギルドにも届いておりますよ。歴代最速でBランクとなった天才ですとね」
ラルフが微笑みながら言う。ベルベットの過去の話は聞いたことがないため少し気になったが、それ以上ベルベットについての話は続かなかった。
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