歪な戦士の異世界転生録 〜授かった【変換】スキルが尖り過ぎてて異常な性能を得る〜

チャド丸

文字の大きさ
107 / 108
ノワール帝国編

三姉妹と借り

しおりを挟む
「私はハイロではない。というより、ハイロなんて人物は存在していない」
ハイロは驚く一同に対して、リブラの街で話したときとは違う女性の声でそう告げる。

「私はずっと、入国したあなた達を見てきた」
そう言うハイロの姿が一瞬ボヤけて、今度はユリウスの街でユウ達を取り囲んだ兵士になる。

「もし、偏見によって帝国民と触れ合わない者だったら、救える命を無視するような者だったら、カリセリア様には会わせなかった」
商人、ゴロツキ、宿屋の主人など、その姿はどんどんと変化していき、最後に1人の女性になった。

「・・・紹介しよう。帝国をはじめ、人の世の治安を守る者。今代【兇手】であるアリスだ」
見覚えのある女性は、女帝からそう紹介されて一礼をする。
ユリウスの街からセイムスの街まで一緒だった薬師アリスこそが兇手だったのだ。

「アリスさん・・・では、貴方の素性や過去は・・・」
何が本当で何が嘘なのか。わからないなかでパルファはアリスへと問いかける。
「いいえ、過去も素性も本当。父は戦争で死んだし、普段の仕事は薬師よ」
だが意外なことに、アリスは話したことに嘘はないと言った。

「勇者と違い兇手は、裏からこの世を平和に導く存在。だから表舞台で目立つことは許されない。表の世界で自然に動くために、『序列の低い宮廷仕えの薬師アリス』という身分があるの」
アリスはそう言って、パンを小さく齧った。

その冷淡かつ落ち着いた姿は、1日弱を共に過ごした女性と同一人物だとは思えないほどかけ離れていた。
いつの間にか空間に溶け込んでいたり、先ほどのように姿を変えたり、この兇手という存在には掴みどころの無さを感じる。

「ちなみに、あなた達のことは王国でも何度か視察していた。先のクーデターの時も、ね」
そう言うアリスに、ユウは最悪なケースを想像する。

兇手という存在は、悪人を徹底して粛清する。
そして先の一件で、問われるべき罪に問われなかった者が1人いる。
ユウの家に住むメリィのことだ。

もしアリスが、あの事件の全貌を知っていたとしたら。また、イメージした者を好きな場所に具現化できる能力を危険だと判断したら。
兇手がメリィを手にかけることは、ありえないことではなかった。

パルファも同じことを思っているのか、焦燥感が消えているユウに比べて、明らかに焦った顔をしている。
だがそんな心配とは裏腹に、女帝は笑いながら口を開く。

「安心しろ。アランの娘のことは全て知っているが、どうにもせん。というよりする筋合いがないのだ。王国と皇国には借りがあるのでな」
「借り・・・ですか?」
女帝の言葉にパルファが返す。どうにもしないという言葉から、平静さも戻ってきたようだ。

「はい、借りとは私のことですね。改めまして、リサと申します」
女帝よりも速く言葉を発して、リサはユウ達に一礼をした。

「これは私の妹でな。ちなみにアリスもだが。そして今言ったとおり、我が妹の存在こそが借りなのだ」
「妹・・・?まさか、そんな」
女帝の言葉に、パルファだけが察したように狼狽える。

「ねーねー、分かるように言ってくれないかなー?」
「おっと、さすがにヒントが少なすぎたか。まぁ説明は、お前に任せようぞ」
フルーツを口に運びながら、パルファへと丸投げする女帝。

「・・・国王と勇者、帝王と兇手、そして教皇と聖女。それらは交わってはいけないと、古くから決まっているの」
「スキルの関係、もしくは狙われた際のリスクの分散。それか、そもそも血筋を辿れば同じだからって感じかな?」
ベルベットの推察に、パルファは無言で頷く。

「でも、歴史上唯一その暗黙の掟が破られたことがあった。それが先代の帝王様よ」
「へぇ・・・ってことは」
ベルベットの呟きに、ユウは改めて3人の女性を見る。
たしかに、3人とも容姿はどことなく似ており、連れ立って歩いていたら姉妹に見えるだろう。

「左様。我が父であり先代の帝王は、兇手であった女性に恋をした。そして2人は結婚をして、3人の子を産んだ」
女帝はスっと、自分の胸に手を置く。

「長女であり王族のスキルを発現させた妾、次女であり兇手のスキルを発現させたアリス。そして三女にしてどちらでもないスキルを発現させたリサだ」
胸の上に置いた手は、説明と共に姉妹たちに向けられる。

「それが、どうして借りに・・・?」
「そこで先ほどの問題に戻るのだ。本来帝王と兇手が結ばれることはあってはならんこと。王国と皇国は、結ばれた挙句3人も子を作った帝王と兇手を非難した」

「そして父と母は、秩序を守らなかった責任を取って、通常よりも早く退位することを両国に約束した。だがまだ、3人の忌み子という問題が残っていた」
ここまで聞いた時、ユウは先の結末を察した。
それを確認するかのように、女帝は話し続ける。

「まぁ産まれてしまったものはしょうがないとして、治世のスキルを持つ妾は帝王を継ぎ、暗殺系スキルを持つアリスは兇手を継いだ。だが世継ぎでもなく、転移という物騒なスキルを持つリサに関しては、各国の貴族達が処分しろと嘆願してきたのだ」

転移はたしかに強力なスキルだ。どれだけ兵を集めても、どれだけ鍛えても、寝室に転移されて喉を裂かれればそれで終わる。そんな存在が隣国に居るというのは、他国からしたら恐ろしくてこの上ないだろう。

「そして各国の総意として、帝国にてリサを処刑することとなった。立ち会いはネグザリウス国王と、エリオール教皇だ」
「はい。私が子供の頃そのように聞きました」
女帝の言葉をパルファが裏付ける。

「そして処刑当日。最後まで処刑に抗い戦争も考えていた妾とアリスに、国王と教皇は賛同の意を示した。子に罪は無い、と」
「三国のトップ同士が口裏を合わせて、処刑したことにしたんだね」
ベルベットの言葉に、女帝がフッと笑いながら頷く。

「その恩があるのだから、メリィという少女を始末しようとは思わない」
平和を乱さない限りね、とアリスが言う。
リサもメリィも危険な能力だが、お互い目を瞑ろうということなのだろう。

「ついでに説明するとだな、幼くして帝位を継いだ妾や兇手を継いだアリスには、幼き頃から今もなお鬱陶しいお目付け役がいるのだ」
ぶすっとしながら女帝はため息をつく。その女帝の空になったワイングラスに、1人の老紳士が静かにワインを注ぎにくる。


そしてその老紳士は、ワインを注ぎ終わると女帝の首にナイフを突き立てた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...