20 / 34
20
しおりを挟む
「失礼する。鼬瓏……」
場の空気にも大分慣れてきた頃、VIPルームに麗が訪れた。いつもクールなイメージだが、今日はどことなく落ち着かない様子だ。鼬瓏の側に寄り、彼になにやら耳打ちをしている。
「……好吧」
麗からの言葉に鼬瓏は今まで楽しそうだった表情から、一瞬朱兎の知らない冷ややかな顔に変わる。
「朱兎、俺の隣にオイデ」
「お、おう」
今まで女性を挟んで座っていたが、突然横に来るように言われ朱兎は大人しくそれに従う。先程一瞬見えた冷ややかな顔はそこにはなく、いつも通りの笑みを浮かべている鼬瓏がいる。それにホッとしたのも束の間、そのまま肩を抱かれて鼬瓏にくっ付く態勢になってしまう。
「時期头目が遊びほうけているとは、随分と良い身分だな……香主」
肩を抱かれたことに対して文句を言う前に、鼬瓏と同じく長袍を纏った男が数人VIPルームへ入ってきた。
まるでそういったドラマや映画でも見ているような強面の出で立ちの男たちは、朱兎が一目見ても一般人ではないと判断できる。中心にいるオールバックで眼鏡をかけたインテリ風の男は、レンズの奥から見える切れ長な冷ややかな瞳で鼬瓏と朱兎を交互に見ている。まるで蛇にでも睨まれているような感覚で、朱兎は身動き1つ取れなかった。鼬瓏の後ろで控えている麗は警戒心でピリピリとしているのがわかる。
「そちらこそ、随分と無粋だネ。本国大好きな哥哥が出向いてくるなんて、観光でもしに来たの? ようこそ紅龍楼へ」
重々しい雰囲気を気にすることもなく、いつもの調子で鼬瓏は男達にそう挑発をするように問いかける。
「父亲の招集に応じないのはどこの誰だ」
「それで態々迎えに? 随分と優しいネ、伟」
にこやかに会話を進める鼬瓏とは対照的に、伟と呼ばれた男は眉1つ動かさない。伟の後ろに控えている男たちも同様だ。
「我不知道你还喜欢孩子。 坏品味」
「没你多」
吐き捨てるように言われた言葉にも、鼬瓏は変わらずにこやかに返す。なにを喋っているのか朱兎には理解ができないが、良くないことを言われているのだということは容易に想像がついた。
「それで、本国へはいつお戻りで?」
「3日後……お前も連れ帰るように言われている」
「幹部も大変だネェ。滞在するなら泊まっていく? 生憎とスイートは予約で埋まってるケド」
「必要ない。你永远不知道他们会给你上什么菜」
それだけ言うと、伟とその部下の男たちは部屋を去っていく。
「それをやるのはあなたのほうデショ」
伟の姿が見えなくなってから、鼬瓏はそう呟いてクツクツと笑う。
ようやく重々しい雰囲気から開放された朱兎は、反射的に鼬瓏の服をギュッと掴んでしまった。
「ごめんネ~、朱兎。怖かったデショ? もう大丈夫ダヨ」
「ちょっ、そんなことしなくても平気だから!」
両腕に閉じ込められるように抱きしめられながら頬ずりをされる。まだ周りには女性たちもいるというのに、とんだ羞恥プレイだ。暴れてもビクともしない鼬瓏だが、流石に恥ずかしさが勝つため朱兎は必死に抵抗する。
「ラブラブネ」
「オーナー、麗サン後ろで凄い顔シテルヨ」
女性が言う通り、鼬瓏を見ている麗は眉間に皺を寄せながら溜息を吐いていた。
「大丈夫、それ多分紫釉に会いたいだけだカラ」
「紫釉サン、今ドコニ?」
「多分伟の相手をしてくれてるんだろうネ」
伟……会話から察するに、鼬瓏に近しい相手なのだろう。ただ、初対面ではあるが朱兎はどうにもあの目が苦手だった。
「なあ、グァグァってどういう意味?」
「朱兎は俺の母国語にも興味を持ってくれたの? イイヨ、教えてアゲル」
相変わらず離してくれないが頬ずりは収まったので、抜け出そうと試みながらも気になっていたことを鼬瓏に訪ねてみた。
「哥哥はお兄チャンって意味ダヨ」
「へぇ……は? 兄貴? あれが?」
「そ。伟は俺のお兄チャン」
その答えはまさかの血縁者。どうみても仲が良さそうな雰囲気ではなかったが、家柄のこともあるのだろうか。
「まぁ、俺あの人キライなんだけどネ~」
「ワタシも伟サン苦手ヨ」
「オーナーのほうが色男ネ」
確かに、似てもにつかない容姿ではあった。きっと色々と触れてはいけないところなのだろう。
「せっかく楽しんでたのにあの人のせいで台無しだヨ……朱兎、あとで美味しいご飯食べにいこうネ」
「はいはい、わかったから早く離してくれ」
「もうチョット……朱兎抱いてると癒されるんだよネ」
「……少しだけだからな」
先程のやり取りで流石の鼬瓏も疲れたのかと思い、しばらく好きにさせてやるかと許したのがいけなかった。この後30分、抱きしめられたまま離されなかった朱兎は、鼬瓏を甘やかすのはやめようと心に誓った。
場の空気にも大分慣れてきた頃、VIPルームに麗が訪れた。いつもクールなイメージだが、今日はどことなく落ち着かない様子だ。鼬瓏の側に寄り、彼になにやら耳打ちをしている。
「……好吧」
麗からの言葉に鼬瓏は今まで楽しそうだった表情から、一瞬朱兎の知らない冷ややかな顔に変わる。
「朱兎、俺の隣にオイデ」
「お、おう」
今まで女性を挟んで座っていたが、突然横に来るように言われ朱兎は大人しくそれに従う。先程一瞬見えた冷ややかな顔はそこにはなく、いつも通りの笑みを浮かべている鼬瓏がいる。それにホッとしたのも束の間、そのまま肩を抱かれて鼬瓏にくっ付く態勢になってしまう。
「時期头目が遊びほうけているとは、随分と良い身分だな……香主」
肩を抱かれたことに対して文句を言う前に、鼬瓏と同じく長袍を纏った男が数人VIPルームへ入ってきた。
まるでそういったドラマや映画でも見ているような強面の出で立ちの男たちは、朱兎が一目見ても一般人ではないと判断できる。中心にいるオールバックで眼鏡をかけたインテリ風の男は、レンズの奥から見える切れ長な冷ややかな瞳で鼬瓏と朱兎を交互に見ている。まるで蛇にでも睨まれているような感覚で、朱兎は身動き1つ取れなかった。鼬瓏の後ろで控えている麗は警戒心でピリピリとしているのがわかる。
「そちらこそ、随分と無粋だネ。本国大好きな哥哥が出向いてくるなんて、観光でもしに来たの? ようこそ紅龍楼へ」
重々しい雰囲気を気にすることもなく、いつもの調子で鼬瓏は男達にそう挑発をするように問いかける。
「父亲の招集に応じないのはどこの誰だ」
「それで態々迎えに? 随分と優しいネ、伟」
にこやかに会話を進める鼬瓏とは対照的に、伟と呼ばれた男は眉1つ動かさない。伟の後ろに控えている男たちも同様だ。
「我不知道你还喜欢孩子。 坏品味」
「没你多」
吐き捨てるように言われた言葉にも、鼬瓏は変わらずにこやかに返す。なにを喋っているのか朱兎には理解ができないが、良くないことを言われているのだということは容易に想像がついた。
「それで、本国へはいつお戻りで?」
「3日後……お前も連れ帰るように言われている」
「幹部も大変だネェ。滞在するなら泊まっていく? 生憎とスイートは予約で埋まってるケド」
「必要ない。你永远不知道他们会给你上什么菜」
それだけ言うと、伟とその部下の男たちは部屋を去っていく。
「それをやるのはあなたのほうデショ」
伟の姿が見えなくなってから、鼬瓏はそう呟いてクツクツと笑う。
ようやく重々しい雰囲気から開放された朱兎は、反射的に鼬瓏の服をギュッと掴んでしまった。
「ごめんネ~、朱兎。怖かったデショ? もう大丈夫ダヨ」
「ちょっ、そんなことしなくても平気だから!」
両腕に閉じ込められるように抱きしめられながら頬ずりをされる。まだ周りには女性たちもいるというのに、とんだ羞恥プレイだ。暴れてもビクともしない鼬瓏だが、流石に恥ずかしさが勝つため朱兎は必死に抵抗する。
「ラブラブネ」
「オーナー、麗サン後ろで凄い顔シテルヨ」
女性が言う通り、鼬瓏を見ている麗は眉間に皺を寄せながら溜息を吐いていた。
「大丈夫、それ多分紫釉に会いたいだけだカラ」
「紫釉サン、今ドコニ?」
「多分伟の相手をしてくれてるんだろうネ」
伟……会話から察するに、鼬瓏に近しい相手なのだろう。ただ、初対面ではあるが朱兎はどうにもあの目が苦手だった。
「なあ、グァグァってどういう意味?」
「朱兎は俺の母国語にも興味を持ってくれたの? イイヨ、教えてアゲル」
相変わらず離してくれないが頬ずりは収まったので、抜け出そうと試みながらも気になっていたことを鼬瓏に訪ねてみた。
「哥哥はお兄チャンって意味ダヨ」
「へぇ……は? 兄貴? あれが?」
「そ。伟は俺のお兄チャン」
その答えはまさかの血縁者。どうみても仲が良さそうな雰囲気ではなかったが、家柄のこともあるのだろうか。
「まぁ、俺あの人キライなんだけどネ~」
「ワタシも伟サン苦手ヨ」
「オーナーのほうが色男ネ」
確かに、似てもにつかない容姿ではあった。きっと色々と触れてはいけないところなのだろう。
「せっかく楽しんでたのにあの人のせいで台無しだヨ……朱兎、あとで美味しいご飯食べにいこうネ」
「はいはい、わかったから早く離してくれ」
「もうチョット……朱兎抱いてると癒されるんだよネ」
「……少しだけだからな」
先程のやり取りで流石の鼬瓏も疲れたのかと思い、しばらく好きにさせてやるかと許したのがいけなかった。この後30分、抱きしめられたまま離されなかった朱兎は、鼬瓏を甘やかすのはやめようと心に誓った。
164
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる