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さあ、どうしようか?
病院から帰って来たときには、すでに紫藤は帰宅をしていた。相変わらず部屋に篭っているが、誰かと電話をしているのか声は聞こえている。
(どうしよう、入るタイミング)
紫藤の部屋のドアの前で、入るタイミングを伺う律。かれこれ十分くらいはこの状態である。
電話も終わったのか、今は静寂に包まれている。それが余計に躊躇してしまう要因になっているのだ。
(やっぱり、今日じゃなくても良いかな)
ドアノブをノックしようとするも、踏み切れずにそのまま手を下ろしてしまう。急ぎの案件ではないので焦る必要もないのだから、やはり今日はやめておこうと律はドアに背を向けた。
「入らないのかい? ドア、鍵掛かっていないからどうぞ?」
急にドアの向こうから紫藤の声が聞こえ、律の肩が跳ねる。どうやらドアの前で入ることを躊躇っていたのはお見通しのようだった。
このまま居ないフリを決め込んで立ち去っても良かったのだろう。それでも、ここで逃げてはいけない気がした律は意を決してそのドアを開いた。
「失礼、します」
「どうぞ」
割り当てられている自室のドアと同じ作りのはずなのに、紫藤の部屋のドアはとても重たく感じた。
あの日以来入っていないその部屋は、相変わらず無駄なものがなくシンプルだった。
「どうしたんだい、キミからここに来るなんて珍しいこともあるね」
紫藤もまた、変わらない笑みを浮かべたまま律を見ていた。仕事でもしていたのか、使っていたノートパソコンを閉じて立ち上がる。
「少し、聞きたいことがあったんですけど……お邪魔ならまた今度で大丈夫です」
「丁度手が空いたところだから気にしなくていいよ」
いざ話をする機会が出来ると怖気づいてしまう。逃げ腰な姿勢を見抜いたのか、紫藤は逃がさないと言うように律の前に立つ。開いたままのドアを閉められてしまえば、律はいよいよ退路を断たれてしまった。
「立ち話もなんだと言いたいんだけど、生憎とこの部屋には椅子があれしかないからね」
ベッドにでも座ってくれるかい? と促されるままに踏み入ってしまえば、そこから先は相手のテリトリー。変な緊張感からか、手に汗が滲んでしまう。
「そんなに緊張しなくていいよ」
「すみません……」
自分から訪れておいて話を切り出せない。ただ一言聞けば良いだけの話だというのに。そもそも、何故こんなにも躊躇ってしまうのかすら、律自身にもよくわからなかった。
「えっと、ですね」
「うん」
パソコンデスクの椅子に座りながら、紫藤は急かすわけでもなく律の言葉を待っている。
「今更、なんですけど。紫藤さんが、どうして僕をここに置いてくれているのか気になってしまって」
「ああ、そんなことか」
あれだけ言葉を搾り出すのに勇気が入ったにも関わらず、紫藤にはそんなことの一言で片付けられてしまった。
どうやら彼にとっては、そこまで大した理由ではないのかもしれない。黒川との会話で危惧していたような内容にはならないだろうと、律は少し安堵した表情を浮かべた。
「俺がキミをここに置いているのは、キミに興味があるからだよ」
安堵した矢先、黒川の予想した通りの返答が返ってきてしまった。
「興味、ですか」
「そう。突然変異のオメガなんて、そうお目にかかれるものでもないからね?」
紫藤の興味は突然変異のオメガなのだと理解して、どこか附に落ちた感じがした。予想していた通りの回答だ。
理由なんてそんなものか、そう納得してしまえば先ほどまでの緊張は一瞬にしてどこかへ吹き飛んでしまった。
「……じゃあ、僕が普通のオメガなら」
病院から帰って来たときには、すでに紫藤は帰宅をしていた。相変わらず部屋に篭っているが、誰かと電話をしているのか声は聞こえている。
(どうしよう、入るタイミング)
紫藤の部屋のドアの前で、入るタイミングを伺う律。かれこれ十分くらいはこの状態である。
電話も終わったのか、今は静寂に包まれている。それが余計に躊躇してしまう要因になっているのだ。
(やっぱり、今日じゃなくても良いかな)
ドアノブをノックしようとするも、踏み切れずにそのまま手を下ろしてしまう。急ぎの案件ではないので焦る必要もないのだから、やはり今日はやめておこうと律はドアに背を向けた。
「入らないのかい? ドア、鍵掛かっていないからどうぞ?」
急にドアの向こうから紫藤の声が聞こえ、律の肩が跳ねる。どうやらドアの前で入ることを躊躇っていたのはお見通しのようだった。
このまま居ないフリを決め込んで立ち去っても良かったのだろう。それでも、ここで逃げてはいけない気がした律は意を決してそのドアを開いた。
「失礼、します」
「どうぞ」
割り当てられている自室のドアと同じ作りのはずなのに、紫藤の部屋のドアはとても重たく感じた。
あの日以来入っていないその部屋は、相変わらず無駄なものがなくシンプルだった。
「どうしたんだい、キミからここに来るなんて珍しいこともあるね」
紫藤もまた、変わらない笑みを浮かべたまま律を見ていた。仕事でもしていたのか、使っていたノートパソコンを閉じて立ち上がる。
「少し、聞きたいことがあったんですけど……お邪魔ならまた今度で大丈夫です」
「丁度手が空いたところだから気にしなくていいよ」
いざ話をする機会が出来ると怖気づいてしまう。逃げ腰な姿勢を見抜いたのか、紫藤は逃がさないと言うように律の前に立つ。開いたままのドアを閉められてしまえば、律はいよいよ退路を断たれてしまった。
「立ち話もなんだと言いたいんだけど、生憎とこの部屋には椅子があれしかないからね」
ベッドにでも座ってくれるかい? と促されるままに踏み入ってしまえば、そこから先は相手のテリトリー。変な緊張感からか、手に汗が滲んでしまう。
「そんなに緊張しなくていいよ」
「すみません……」
自分から訪れておいて話を切り出せない。ただ一言聞けば良いだけの話だというのに。そもそも、何故こんなにも躊躇ってしまうのかすら、律自身にもよくわからなかった。
「えっと、ですね」
「うん」
パソコンデスクの椅子に座りながら、紫藤は急かすわけでもなく律の言葉を待っている。
「今更、なんですけど。紫藤さんが、どうして僕をここに置いてくれているのか気になってしまって」
「ああ、そんなことか」
あれだけ言葉を搾り出すのに勇気が入ったにも関わらず、紫藤にはそんなことの一言で片付けられてしまった。
どうやら彼にとっては、そこまで大した理由ではないのかもしれない。黒川との会話で危惧していたような内容にはならないだろうと、律は少し安堵した表情を浮かべた。
「俺がキミをここに置いているのは、キミに興味があるからだよ」
安堵した矢先、黒川の予想した通りの返答が返ってきてしまった。
「興味、ですか」
「そう。突然変異のオメガなんて、そうお目にかかれるものでもないからね?」
紫藤の興味は突然変異のオメガなのだと理解して、どこか附に落ちた感じがした。予想していた通りの回答だ。
理由なんてそんなものか、そう納得してしまえば先ほどまでの緊張は一瞬にしてどこかへ吹き飛んでしまった。
「……じゃあ、僕が普通のオメガなら」
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