婚約さえ出来ない令嬢はストレス発散にこっそりダンジョンに潜ります~S級冒険者や第一王子が私に言い寄ってきてますが気のせいでしょう~

柊彼方

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ダンジョン

ボス

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 暗闇に染まっていた視界が徐々に開き始める。
 他の階層と違って血の匂いも金属の匂いもない。
 未開拓地と証明するような状況である。

 そして、私たちの視線の先には、

「オオォ!? ヤットキタカ! ニンゲン!」

 私はその魔物を見た時、人間ではないかと錯覚してしまった。
 やはりそう思ってしまうのは私だけではないようで、

「なっ! あれは魔物じゃないですよね!?」
「あれは…………まさか魔族か!?」
「魔族ってあの伝説の?」

 キールに続いてアレン、マルクの三人は口を大きく上げながら驚愕を顕わにしている。

 魔族とは伝説上の存在である。
 英雄譚や軍記物語などでたまに出てきて、架空の存在だと考えられてきた。
 まぁいわば子供の悪の象徴になっていたのである。

 魔物の上位互換と言えばいいだろうか。
 知能が上がり人間並みの戦術を覚えた者である。

 私は深くフードをかぶりなおして後ろに下がった。

「コレガユウシャパーティーッテヤツカ? イイネ! サッサトタタカオウゼ!」

 どこか片言であるもののその魔族は鞘にさしていた剣を抜刀する。

 見た目はそこまで人間とは変わらない。
 赤く染まった角と尾があり、肉体が緑色に染まっている。
 また筋骨隆々な肉体を備えており、一目で強者と分かってしまう。

「どうしますか? 僕の転移魔法で逃げれると思いますが」
「そうだな。この状況は芳しくない。一度引いた方が――」

 そんな二人の会話を遮るように私は口にする。

「無駄だわ。結界が張られているもの。戦うしかないわよ」
「結界? そんなもの…………いや、薄いが特殊な結界が張られているね」

 マルクが目を凝らしながら部屋を見回す。
 すると、気づいたのか少し驚嘆気味に口にした。

 ちなみに70階層からはすべての階層に結界が張られている。
 何故そんなことを知っているのかって?
 まぁこの結界を作った張本人から聞いたとだけ言っておこう。

「…………三人は下がっていてくれ」

 この現状にアレンは一言だけ告げた。
 分かるのだろう。相手の魔族の実力がマルクとキールには敵わないと。
 
 しかし、そんな理由で二人が下がるはずもない。

「こっそりエリス様にかっこいいところを見せようとしても無駄ですからね」
「そうだね。抜け駆けはよくないね」

 キールとマルクはフードを脱ぎ去ってから杖を構えてアレンの隣に立つ。
 そんな二人にアレンは苦笑いを漏らすものの、少し嬉しそうに大楯を構えた。

「なら、せいぜい俺にかっこいいところをとられないように頑張るんだな!」

 意気揚々としている三人を見て相手の魔族は歪に口角を上げた。

「イイゾ! サッサトコイ!」
「おおおおおおおおおおおぉぉぉ!」

 その魔族の言葉を合図にアレンは大楯を正面に構えて突進し始める。
 アレンの役割は守護者タンカーと言ったところか。

「アッハッハ! チカラショウブカ? オレニハ、ソレジャカテナイゾ!」

 魔族はアレンめがけて長剣を空を薙ぐように振り切った。
 それは今まで見てきた魔物の中で一番速い攻撃であり、重い攻撃であった。

「…………うっ!」

 それを大楯で受け流そうとするが、難しかったようでアレンは壁にドカンと言う音を立てて飛ばされる。
 あの誰にも押し負けたことのないアレンがいとも簡単に飛ばされるなどやはり魔族はレベルが違うようだ。

 アレンの様子を見てマルクは少し表情を青ざめる。
 しかしすぐに詠唱していた魔法を行使した。

「火なる加護のもとに…………【炎地獄ボルケーノ・ノヴァ

 マルクの手から巨大な炎の塊が放たれる。
 それはすべてを焼き尽くすような獄炎であり、熱風が私たちを覆いつくす。
 しかし、魔族は、

「コンナマホウクラワネェゾ!」

 その魔族は長剣で獄炎を切ろうと、大きく長剣を振りかぶった。
 このままではきれいに切断されてしまうだろう。
 だが、どうやら対策方法はあるようだ。

「空間の加護のもとに…………【転移ワープ】!」
「ナッ!?」

 キールは魔族が長剣を振りかざそうとした瞬間に獄炎を転移させる。
 当然、急に目の前から獄炎が姿を消したとなると魔族もその状況に驚愕するしかない。
 そして、その驚愕が注意をうち消してしまう。

 キールが行使した魔法は【転移ワープ】だ。
 そう。ただの打消しではない。

「ギ、ギャアアアアアアァァァァ!」

 背後からの獄炎に魔族は断末魔を上げたのだった。
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