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17話 勇者
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「僕にお願いって何かな? 公爵令息様。いや、次期国王様とでもいうべき?」
「お願いだ。行方不明者の捜索を手伝ってほしい」
あの後、すぐにマルクは自分の思い通りに行動した。
もう自分は誰に操られない。誰かの思い通りに動かない、そう心に誓って。
そして、現在マルクは冒険者ギルドに赴き。勇者である少年、アレンに頭を下げていた。
「貴族の捜索に僕を使うって? あっはっは! 舐めてんの?」
アレンはマルクの願いを笑いながら切り捨てる。
その笑みからは憤怒の感情も垣間見えた。
しかし、マルクは引き下がる様子もない。
「平民の女性だ。名はエリスと言う」
「平民? エリス? あぁ。あの王族から追放されたやつか」
アレンは思い出したのか首を縦に振る。
新聞にもなったほどだ。この国の住人であればほぼすべての人が知っているであろう。
マルクはそこでもう一度頭を下げる。
「えぇ。その女性がダンジョンで行方不明になったんだ。そこで貴方の力を借り――」
「――あぁもうそれからは言わないでね」
マルクの言葉を遮ぎるようにアレンは言った。
そして、先ほどまで少し興味があったように見えたアレンの目は色を失っている。
「ダンジョンで行方不明なら死んでる。そんな貴族たちが考える甘い場所じゃない。止めといた方がいいよ」
話は終わりだ。とでも言いたげな表情でアレンは椅子に腰かけた。
ダンジョンでの行方不明者は過去に何度もいた。
しかし無事で生きて帰ってきたのは誰もいない。行方不明者=死んだ人なのである。
しかし、今のマルクには諦めることは許されていない。
マルクはゆっくりとアレンに向かって地に膝をつける。
「エリスは僕が殺したんだ。僕が、僕が殺めた」
まるで懇願するようにマルクはアレンに土下座をした。
靴さえも舐めそうな勢いにアレンは唖然としている。
「僕のせいなんだ。死体や遺品を回収するだけでもいい。だから僕に協力してくれないだろうか」
「……………………」
アレンにとって貴族とは自分の保身と出世しか気にしないクソの烏合の衆だと思っていた。
実際はそうだ。目の前にいるマルクもその一人である。
しかし、過ちは人に変化を与える。一生苛み続ける後悔を与えるのだ。
「ちっ。分かったよ。頭を上げてくれ」
アレンは周りからの視線を気にしながらもマルクの頭を上げさせる。
今までで貴族が平民に頭を下げたことなどがあるだろうか。いや、絶対にない。
その事実がアレンの決定にも影響を与えたのだろう。
承諾されたことにマルクは一瞬で表情を明るくした。
「ほ、本当か!?」
「あぁ。それ行方不明になったのは何処のダンジョン?」
「カーラ村というところのダンジョンらしい」
マルクは勇者がついて来てくれるという現実に高揚感を覚えていた。
勇者とはこの世界を救う者。救世主なのである。
それがたとえ、冒険者になりたての勇者であれ、実力はそこらの冒険者の何倍もあるのだ。
「ふ~ん。もちろん報酬は出してくれよ?」
「報酬なら俺が出せるものならすべて出す!」
「その言葉忘れんなよ? じゃあさっさと死体を探しますか」
アレンは席から立ち上がり、冒険者ギルドをあとにしようとする。
しかし、そんなアレンをマルクは引き止めた。
「ちょっと待ってくれ。僕も一緒に連れて行ってくれないだろうか」
「は? あんた冒険者じゃないだろ?」
アレンは少し怒り交じりの声質で言った。
アレンもこの一か月で冒険者という仕事の危険さを学んできている。
勇者であれど、危険は多くある。油断していれば明日にでも死んでしまう世界なのだ。
マルクは真剣な眼差しでアレンを見据えて叫んだ。
「それでも連れて行かせてくれ! 僕はもう…………自分の意思で行動したいんだ!」
「はぁ。分かったよ。さっさと行くぞ」
渋々と言った様子でアレンは首を縦に振った。
その背中をマルクは覚悟を決めて追う。
こうしてエリスの捜索が始まったのだった。
「お願いだ。行方不明者の捜索を手伝ってほしい」
あの後、すぐにマルクは自分の思い通りに行動した。
もう自分は誰に操られない。誰かの思い通りに動かない、そう心に誓って。
そして、現在マルクは冒険者ギルドに赴き。勇者である少年、アレンに頭を下げていた。
「貴族の捜索に僕を使うって? あっはっは! 舐めてんの?」
アレンはマルクの願いを笑いながら切り捨てる。
その笑みからは憤怒の感情も垣間見えた。
しかし、マルクは引き下がる様子もない。
「平民の女性だ。名はエリスと言う」
「平民? エリス? あぁ。あの王族から追放されたやつか」
アレンは思い出したのか首を縦に振る。
新聞にもなったほどだ。この国の住人であればほぼすべての人が知っているであろう。
マルクはそこでもう一度頭を下げる。
「えぇ。その女性がダンジョンで行方不明になったんだ。そこで貴方の力を借り――」
「――あぁもうそれからは言わないでね」
マルクの言葉を遮ぎるようにアレンは言った。
そして、先ほどまで少し興味があったように見えたアレンの目は色を失っている。
「ダンジョンで行方不明なら死んでる。そんな貴族たちが考える甘い場所じゃない。止めといた方がいいよ」
話は終わりだ。とでも言いたげな表情でアレンは椅子に腰かけた。
ダンジョンでの行方不明者は過去に何度もいた。
しかし無事で生きて帰ってきたのは誰もいない。行方不明者=死んだ人なのである。
しかし、今のマルクには諦めることは許されていない。
マルクはゆっくりとアレンに向かって地に膝をつける。
「エリスは僕が殺したんだ。僕が、僕が殺めた」
まるで懇願するようにマルクはアレンに土下座をした。
靴さえも舐めそうな勢いにアレンは唖然としている。
「僕のせいなんだ。死体や遺品を回収するだけでもいい。だから僕に協力してくれないだろうか」
「……………………」
アレンにとって貴族とは自分の保身と出世しか気にしないクソの烏合の衆だと思っていた。
実際はそうだ。目の前にいるマルクもその一人である。
しかし、過ちは人に変化を与える。一生苛み続ける後悔を与えるのだ。
「ちっ。分かったよ。頭を上げてくれ」
アレンは周りからの視線を気にしながらもマルクの頭を上げさせる。
今までで貴族が平民に頭を下げたことなどがあるだろうか。いや、絶対にない。
その事実がアレンの決定にも影響を与えたのだろう。
承諾されたことにマルクは一瞬で表情を明るくした。
「ほ、本当か!?」
「あぁ。それ行方不明になったのは何処のダンジョン?」
「カーラ村というところのダンジョンらしい」
マルクは勇者がついて来てくれるという現実に高揚感を覚えていた。
勇者とはこの世界を救う者。救世主なのである。
それがたとえ、冒険者になりたての勇者であれ、実力はそこらの冒険者の何倍もあるのだ。
「ふ~ん。もちろん報酬は出してくれよ?」
「報酬なら俺が出せるものならすべて出す!」
「その言葉忘れんなよ? じゃあさっさと死体を探しますか」
アレンは席から立ち上がり、冒険者ギルドをあとにしようとする。
しかし、そんなアレンをマルクは引き止めた。
「ちょっと待ってくれ。僕も一緒に連れて行ってくれないだろうか」
「は? あんた冒険者じゃないだろ?」
アレンは少し怒り交じりの声質で言った。
アレンもこの一か月で冒険者という仕事の危険さを学んできている。
勇者であれど、危険は多くある。油断していれば明日にでも死んでしまう世界なのだ。
マルクは真剣な眼差しでアレンを見据えて叫んだ。
「それでも連れて行かせてくれ! 僕はもう…………自分の意思で行動したいんだ!」
「はぁ。分かったよ。さっさと行くぞ」
渋々と言った様子でアレンは首を縦に振った。
その背中をマルクは覚悟を決めて追う。
こうしてエリスの捜索が始まったのだった。
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