天才第二王子は引きこもりたい 【穀潰士】の無自覚無双

柊彼方

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3巻

3-3

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「武力で制圧しようにも、ファルロス軍は手練てだればかりでこちらの軍勢も大きな損害を被る。そのため長年放置されてきたのです」
「そんな場所に俺とテト二人で行こうとしているわけですよね……」
「その通りです。私としては絶対反対です。しかし、私たち魔王派を集めたところで宰相と話すことすら叶わないでしょう。すぐに捕まって処刑されるか監禁されるのがオチです」
「かなり難しい状況ですね……」
「はい、私たち魔王派にもっと力があれば良かったのですが、ネクロ様が亡くなられた後はわずかな忠臣以外、宰相派になってしまい……」
「それは仕方ないですよ。そもそも何もしてないテトにも原因が……」

 そこまで言って俺は黙り込んでしまった。言葉が続かなかった。

「ニート様?」
「あっ、いえ、何でもありません。俺も宿に帰りますね。また夜にでも話をさせてください」

 俺は村長に頭を下げてから部屋を後にする。
 テトと俺の境遇は、奇跡と言っていいほど同じだ。引きこもりで、怠惰で、それでも家族を守りたいという信念はあって。
 そして今回、テトは最も信頼していた宰相と敵対することになった。
 もし、だ。もし俺が第一王子であるアレク兄さんと敵対するような状況になったとして、俺はアレクに刃を向けられるのだろうか。俺はアレクに勝つことが出来るのだろうか。
 無理だ。国民からの信頼が段違いすぎる。これまでつちかってきたものが違いすぎる。
 そんな絶対に勝てない相手にテトは立ち向かおうとしているのだ。

「……他人事じゃないな」

 俺も、そんなもしもの世界が存在することを覚悟しながら宿へと戻った。


 俺は宿に戻ると早速、魔道具製作に取り掛かった。
 ちなみにテトは隣の部屋で爆睡していた。そのメンタルを見習いたいものだ。

「さて、最初に作る魔道具は決めてるんだよな」

 テトには申し訳ないが、自分のために作る魔道具だ。

「この魔石を材料にすれば……」

 ダンジョン攻略の際に採取した魔石を鞄から取り出す。
 帰還石というものを覚えているだろうか。
 ダンジョンから脱出するために使うもので、俺が持っていた二つの魔石はルカに破壊されてしまった。
 しかし、それまでに仕組みの解析は終えていて、別の魔石を使って復元することは可能である。
 ダンジョンにいないのに帰還石なんて作ってどうするんだ。そう思う人もいるかもしれない。しかし本当の目的は別にあった。

「この帰還石に追跡機能をつければ……!」

 そう、俺が学院の担任であるルーグ先生からもらった帰還石には、追跡機能がついていた。ルーグ先生が生徒たちの居場所を確認するために特別につけたものだ。
 もちろん俺は、その追跡機能に関しても解析済みである。
 俺は作り上げた帰還石に追跡機能の術式を刻んでいく。
 かなり複雑な術式で時間がかかるだろう。これをクラスメイト全員分用意出来るとは、流石はルーグ先生だ。
 俺は一時間ほどの時間を費やして追跡機能を刻んだ帰還石を作り上げた。
 追跡対象については、ルーグ先生の魔力を辿たどるようにしている。これは元々借りていた帰還石の仕組みがそうなっていたからだ。
 しかも驚くべきことに、これはルーグ先生がいなくても作れてしまう。魔石に先生の魔力を直接こめるわけではなく、魔力の特徴を分析したデータを登録しているのだ。これなら材料さえあれば、いつでもどこでも、そして誰でも作ることが出来る。

「これでルーグ先生が気づいてくれたら……」

 既に合宿を終えているため、ルーグ先生が帰還石を追跡する可能性はほぼないだろう。
 けれど万が一、気づいてくれたら、俺が生存していることだけでも知らせることが出来る。
 まぁ気づいたところで、大森林を抜けて魔大陸まで助けに来ることは不可能なので、本当に生存を知らせることしか出来ないが、やらないよりはマシだろう。

「さて、次は……何を作ろうか」

 防御面に関しては日焼け止めさえあれば何とかなる。大抵の攻撃はあれが防いでくれる。
 となると今必要なのは、攻撃用魔道具と逃亡用魔道具、補助系魔道具といったところか。
 まず最初に攻撃用を考えていく。殺虫剤などの超接近戦用の魔道具はあるが、広範囲を攻撃出来るものがない。

「攻撃系は……『水鉄砲』にしよう」

 昔読んだ空想本に書かれていた。
 水を発射して敵を倒す武器。普通の鉄砲に比べれば弾が水であるため威力は劣るが、敵を無力化するぐらいは出来るだろう。
 そもそも今回の相手は魔族。同じ人類だ。殺すのではなく無力化が目的だ。むしろ丁度いい。
 昔、一度拳銃を作ったことがあるため、ある程度の構造は理解している。といっても拳銃は危険だからと兄のアレクに没収されてしまったけど。
 俺は早速外側の型作りから行っていく。王城ならしっかりとした設備の中、魔道具を作ることが出来るのだが、あいにく今いるのは魔大陸の宿だ。
 粗削りにはなるものの、このような状況を想定して鞄に入れておいた工具で魔道具を作っていく。
 型を作り終えると、そこに水魔術の術式を刻んでいく。別に魔術を使うわけではないので魔大陸でも可能だ。
 水を『発生』、『凝縮』、高出力で『発射』。その三段階の動作を一つの術式で完成させる。

「よし、完成だ」

 製作時間は二時間半。少し時間がかかってしまったがこのペースなら問題ないだろう。

「一つじゃ心もとないし、色々な水武器を作ってみるか」

 水鉄砲一つでは応用性に欠けるかもしれない。
 そこで俺は『グレネード』や『ロケットランチャー』など、戦い方を広げられるように様々な水の武器を作り始めた。
 そして時間は経ち、全てが完成した頃には既に太陽が沈みかけていた。

「テト、ちょっと実験するから意見が欲しいんだけど」
「んー? 魔道具の実験かぁ。いいよ、楽しそうだしぃ」

 俺は隣の部屋で爆睡していたテトを叩き起こして、村の外まで出る。
 今日作った水武器の使用実験をするためだ。

「いっぱい作ったんだねぇ。何だいそれは?」
「水鉄砲。水を弾丸として撃つ武器かな」

 狙いは俺の身長の五倍以上ある巨大な木。ここ周辺で一番頑丈がんじょうそうなものを選んだ。
 するとテトが隣で説明を始める。

「黒木かぁ、魔大陸で一番頑丈な木だねぇ。武器の威力の検証なら、ちょっと傷をつけられたくらいで合格ってところかなぁ」
「じゃあこの木を削れれば十分な威力ってことだよな」
「それは無理だねぇ。ただの水だろ? 言ったら悪いけど、そんな玩具おもちゃみたいな魔道具で黒木を削れるとは思えないなぁ」

 テトは俺の水鉄砲を見ながら苦笑交じりに言った。
 確かに見た目は不格好で、玩具のようかもしれない。

「まぁまぁ、見てなって」

 俺はまず最初に作った水鉄砲を構える。
 使い方は簡単。魔術と違って詠唱えいしょうも魔法陣の展開も必要ない。
 ただ引き金を引くだけで、水鉄砲に刻まれた術式に魔力がこめられ、三つの動作を完了する。

「貫け」

 俺が引き金を引いた途端、水鉄砲の銃口から水弾が目にも留まらぬ速さで発射された。
 黒木に直撃した水弾はすぐには霧散せず、黒木の表面をえぐり取った。

「うん、いい威力だな」

 想定通りの威力に俺は満足して頷いた。この威力なら革鎧くらいは貫けるだろう。
 テトはそんな俺の様子を目を丸くして見ていた。

「えっ……」
「じゃあここからが本番だ」
「本番って――」

 呆然としているテトを放って次の段階に入る。
 俺は水鉄砲の装置を少しいじって、設定を『セミオート』から『フルオート』に変える。要するに単発から連射に変えたわけだ。
 ここからが水鉄砲の本領である。
 念のために、先にテトに確認しておく。

「テト、ちなみになんだけど、木を再生させる魔術は使える?」
「治癒魔術を使えば再生出来るとは思うけど……」

 これで容赦なく水鉄砲を試すことが出来る。
 俺は少し口元を引き締めて引き金を引いた。
 その瞬間、勢い良く何十発もの水弾が銃口から放たれた。弾が放たれる度に強力な反動が来るが、俺は歯を食いしばって堪える。
 そして先ほどの威力の水弾が何十発も黒木に直撃する。
 全ての弾を撃ち終えた頃には、黒木の中心部に大きな穴が開いて向こう側が見えていた。

「どう? 玩具じゃないだろ?」
「は、はいいいいいいいいぃぃぃぃ⁉」

 テトに尋ねると、彼は初めて見せるぐらいの大きな声量で叫んだ。
 そんな反応に懐かしさを覚える。アレクに魔道具を見せた時も、よくこんな反応をしてたっけ。

「三十発撃ったら魔力の補充に少し時間がかかるって制約はあるけど、魔力さえある空間なら半永久的に使えるな」
「いやいや、ちょっと待って……黒木を貫通した?」
「そうだな。二十発ぐらいで貫通したかな?」
「そもそも何その魔道具! 上級魔術ぐらいの威力を何の代償もなく連射出来るのぉ⁉」
「それが魔道具だからね。学院に通い始めてからは一切触ってなかったけど、やっぱり便利だな」
「ぼ、ボクが知ってる魔道具じゃないよぉ……」

 テトは何故か頭を抱えるような素振りを見せる。

「ファルロス軍なんてニート一人いればいらないんじゃ……」
「ん? なんか言ったか?」
「い、いや! 他の魔道具はどんななのかなぁって」

 一瞬何か聞こえたような気がしたが、テトはすぐに笑顔を作る。

「じゃあ次はロケットランチャーかな」
「ろけっとらんちゃー?」
「広範囲を攻撃出来るロケット水弾を撃つ魔道具、って言えばいいかな」
「これでもボクは知識がある方だと思ってたんだけど、聞いたことも見たこともないなぁ。どうやったらそんな発想が出来るんだい?」
「空想本かな。空想の知識とか技術を記した本なんだけど」
「その誰が書いたか分からない空想をニートは実現してるってことだよねぇ⁉」
「そうだな。最初は難しかったけど、今なら何となく出来ると思うぞ」

 俺の知識と技術の発想元は、空想本と伝記が大半を占めている。
 引きこもりの俺にとって、その空想の世界や、英雄たちの逸話はとても魅力的で理想的で。
 その頃は、その世界をどう実現するかしか考えられなかった。

「ロケットランチャーは魔力の充填に一分はかかるんだけど、その分威力は水鉄砲とは比べ物にならないんだ」

 俺はそう言って、黒木に向かってロケットランチャーを放つ。
 放たれたロケット水弾は黒木に直撃し、見事に黒木がぜた。下の幹だけが残り、上の部分は跡形もなく消えていた。

「アハハ……思ったより凄い威力になったね」
「…………」

 苦笑いする俺と隣で黙り込むテト。
 それから俺たちは日が落ちるまで魔道具の試用実験を行ったのだった。


 翌日。俺は徹夜で魔道具製作に取り掛かっており、気づいたら朝日が昇っていた。
 大事な日に眠くならないのかって?
 大丈夫。こんな時のために『エナジーポーション』という、飲んだら目がバキバキになるポーションを作っておいた。
 我ながらなんて用意周到なのだろうか。
 準備を終えた俺たちは、村の入り口から少し離れた場所にいた。

「どうしたんだテト? なんか疲れてそうだけど」
「そりゃあんな魔道具を見せられたら疲れるよぉ……」
「エナジーポーションいる?」
「いらないよぉ!」

 いつも気だるげなテトだが、今日はより一層気が重そうだ。

「それにしてもこの村にはお世話になったな」
「そうだねぇ。ここに転移出来て本当に良かったよぉ」

 この村には一か月お世話になった。村長以外にも村人たち全員が、俺たちよそ者に優しく接してくれた。
 正直に言おう。最初は魔族が怖かった。
 二本の角が生えた別の種族。初めて出会う種族。恐怖を覚えないわけがない。
 けれどそんな恐怖は一日で消え去った。

「たまには外の世界もいいな……」

 ずっと引きこもっていたら、この人たちに会うことは出来なかった。
 もちろん俺は家が大好きだ。ダラダラするのが大好きだ。友達が大好きだ。
 けれどこうして外の世界を実際に見て、感じていくたびに、自分の視野が広がっていく。
 アストリアに帰った時に、家族やステラ、ロイなどクラスメイトにこの話をするのが楽しみだ。

「村長も連れていければ良かったんだけどねぇ」

 元王宮騎士の村長は、剣士としての実力はこの国でトップクラスだ。一般兵には何があっても負けないだろう。そんな彼が同行してくれれば百人力だ。
 けれどテトの飛行魔術では、二人も抱えていくことは不可能だった。

「まぁいつでも駆けつけてくれるって言ってくれたし、それだけでも十分だろ」
「そうだねぇ」

 村長は別れ際にテトに約束した。
 何かあればいつでも駆けつけると。
 その目には、覚悟や思いのようなものが宿っていた気がする。
 おそらくそれは、テトの心の成長にも繋がっているのだろう。

「はぁ……やっぱり行きたくなくなってきたぁ。宿に帰らない?」

 うん、前言撤回だ。
 何も変わってないかもしれない。

「ほら、行くよ」
「えぇ~」

 やる気のないテトだったが、事前に用意していた長いほうきに渋々またがる。そしてその後ろに俺を乗せた。
 俺は飛行魔術を使う時には何も使わないが、大抵は何かまたがれるものに乗るらしい。
 その方が飛行効率も良く、疲れにくく安定するのだとか。
 いつかは俺も飛行系の魔道具を作りたいものだ。空想本にそのようなものがあった気がする。『ひこうき』だっただろうか。

「上級魔術【浮遊エオーリン】」

 テトは魔術を使って箒を浮かせる。

「中級魔術【加速ブースト】」

 そして補助魔術である【加速ブースト】で箒を一気に加速させた。
 かなりの空気抵抗がかかるが、すぐにテトが魔術で保護結界を張ってくれた。

「本当に魔大陸なんだな……」

 俺は空を飛びながら下を見てそんな感想を漏らした。
 真っ黒な地面に荒れ果てた大地。所々植物が育っている箇所も見られるが、ほとんどが荒廃している。
 引きこもっていた俺でも分かる。ここが全くの別の場所なのだと。アストリアでは決して見られない光景だ。

「寂しくなってきたぁ?」
「そりゃあな。こんなに遠出したのも家に帰らなかったのも初めてだし」

 今だって家族に会いたい、ロイやステラに会いたい。
 けれどそれは叶わない。弱音を吐いたところで何も解決には繋がらない。

「ボクがちゃんとしていたらすぐに帰してあげることが出来たんだけどねぇ」

 テトは正面を向いたまま申し訳なさそうに言った。
 宰相に交渉出来ない無力さを詫びているのか、俺を遠い異国に連れてきたことを後悔しているのか。

「いいや、テトには感謝してるよ」

 テトがいたから今の俺は普通にしていられる。
 テトが魔王の座を追われていなければ、そもそも出会うことはなく、あのままダンジョンの底で死んでいただろう。
 奇跡的に助かって魔大陸に逃れられたとしても、俺一人では間違いなく孤独に押し潰されていた。歩き出すことはおろか、立ち上がることすら出来なかったに違いない。
 優しい人たちばかりのあの村に転移出来たから立ち直れた。
 テトはあの時、あの場面で最適解を選んでくれたのだ。

「それに寂しいのはテトも一緒だろ?」
「……別にそんなことはないけどねぇ」

 テトは一瞬押し黙ってから、すぐに気にしていないように微笑む。
 けれどそんなはずはない。
 今までずっと家にいたのに急に暗殺されそうになって、外の世界に追い出されて、気づけば自分とは異なる別の種族の国にいて。
 そんな体験をしてここまで平静を装うのは俺には無理だ。

「何としてでも魔王城に帰ろうな」
「うん、そうだねぇ」


 ◆◆◆◆◆◆◆


 場所は移りアストリアにて。時は少し遡り、ニートが行方をくらまして一週間が経った頃のこと。

「可哀そうにねぇ、十六歳の少年が亡くなったんでしょう?」
「しかも他の冒険者を助けようとしてのことらしいわ」
「魔術学院から来ていた学生なんだろ? 冒険者でもないのにすげぇ勇気だよなぁ」

 ニートが死んだ。
 その情報はすぐに広まった。
 王都から授業で来ていた国立魔術学院の生徒が、冒険者を助けるためにダンジョンに潜って死亡した。
 魔物暴走スタンピードが落ち着いた後、何十人もの冒険者職員と冒険者が中層の捜索を行ったが、何一つ成果は得られなかった。


 冒険者協会のとある一室に、魔術学院高等部一年、Eクラスの生徒と担任教師のルーグが集まっていた。

「うそだ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁ!」

 ニートの親友の一人、男装の少女ステラは、床にうずくまって甲高い声で泣き叫んでいた。
 彼らはつい先ほど、ニートの死亡認定報告を冒険者職員から受けた。
 情報源は、ダンジョンから一週間かけて脱出してきた冒険者、ルカだ。ルカが実際にニートが古代狼エンシェントウルフに噛み殺された瞬間を見たそうで、彼は今も同じ建物の中で事情聴取を受けている。
 本来なら行方不明として扱い、これからも数週間ニートの捜索が行われるはずだった。
 けれど、ルカの目撃証言があれば話は別だ。
 捜索はもちろん行うが、規模は小さくなる。冒険者協会はニートを死亡者として認定した。

「ステラ君、落ち着い――」
「落ち着いてられるわけないでしょ! 逆になんでロイ君はそんなに落ち着いてられるの!?」

 ステラは隣にいた同級生――同じくニートの親友であるロイの胸ぐらを縋るように掴む。
 ロイも必死な彼女の前では、視線を逸らすことしか出来ない。
 何を言っても慰めにはならないと分かっていたからだ。

「ニート君が死ぬわけないもん! あのニート君だよ? 魔物なんかに殺されるわけない!」

 ステラは何度も首を左右に振って否定する。
 そんな彼女に向かって、今度はルーグが冷たく告げた。

「帰還石につけていた追跡機能によると、二十階層でニートの反応は消滅している」
「先生までニート君が死んだって信じてるんですか!」
「事実を言ったまでだ。そうやっていつまでも現実を否定していては先には進めん」
「なんでそんな冷静なんですか! 先生はニート君のことを何とも思っていないんですか!」
「そんなわけないだろうが」
「……え?」

 うつむいて泣きじゃくっていたステラだが、ルーグの一言にハッと顔を上げた。

「生徒を守れなかったのは教師の俺の責任だ、全て俺のせいだ。何も思わないわけがないだろうが」
「…………」

 初めて見るルーグの悲痛な面持ちに、ステラは押し黙ってしまう。
 ルーグだけではない。ロイも、クラス一の秀才リリスも、他のクラスメイトも皆が表情を歪めていた。
 誰一人として、ニートを失って平気な者などない。
 このEクラスにとってニートは欠けてはならない人間だった。

「なんでぇ……何でよりによってニート君がぁ……」

 ステラは溢れて止まらない涙を拭いながらも嗚咽おえつを漏らす。
 どんよりとした空気に、全員の視線が下に落ちていく。負の感情に呑まれていく。
 そんな時だった。

「お前ら、顔を上げろ」
「「「……っ?」」」

 重たい空気をぶった切るようにルーグの声が響く。
 いつもよりも覇気のある声に、生徒たちは反射的に面を上げた。

「ニートはたった一人の命を救うために自らの犠牲ぎせいかえりみなかったお人よしだ。その行動は誉められたものではない」

 取り残された冒険者を救うために、命懸けでダンジョンに潜った。
 これを聞いた一般人は、恐らくその勇気を称賛するだろう。
 しかしルーグにとってはただの愚行でしかなかった。自分の命を投げ打つ人助けなど論外である。
 それを教えてやれていなかったことに教師としてさらに責任を感じているのだが、今、生徒たちの前では弱った様子を絶対に見せない。

「けれど、あいつには信念があった、覚悟があった、誰にも譲らない意志があった」

 穀潰士になりたい。国民という名の家族を守れる王子になりたい。
 その夢を知っている者はロイだけだ。
 だがニートに確固たる信念があることは、普段の行動を見ていれば誰もが分かることだった。

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