ターンオーバー

TeX

文字の大きさ
10 / 48
その2

2−1

しおりを挟む
 夕食の買い出しに出かけようと財布の中身を確認してみると、私にのんびり思案する時間がないことに気づいた。それでもういいや!と藤沢洋子さんの提案を受けることにした。
 連絡のメールを送ってしばらくすると、彼女から電話があった。

「その人は笹木伸夫という人よ。七十過ぎてるけどとっても元気。それに心配しないで。怖い人じゃないから。嫌なことは嫌って言ったらいいよ、怒ったりしない人だから」
 と言ったあとに、落ち合う時間と場所を教えてくれた。

「私ひとりで行くんですか?」

 すると洋子さん、呆れたような声を出して、
「真知子さん、あなたは一人きりで生きていくのよ。そうよ、ひとりで行くしかないの」

 そんなわけで私は今、浅香山駅を降りたところだ。約束の午後3時にはまだ少しあるけど、改札を出たところでの待ち合わせだから、そこでぼおっと待つことにした。
 灰色のトレーナーに茶系のチノパンと、楽な格好過ぎたらしら?と私はちょっと不安になった。でも外着というものを持ってないし、現場では裸になるかも知れない、服装なんか気にしないでいいか。

 それにしても、本当に知らない人の前で裸になれるのかしら。性サービスなんてできるのかしら。男性の身体のことはほとんど無知なのに。
 そんなことを考えていると、

「真知子さんですか」男に呼び掛けられた。

 私は緊張した面持ちで男を見た。
 穏やかな目。きれいに頭の禿げ上がった細みのお爺さん、だけど背中がスッとしていて立ち姿が若々しい。

「笹木伸夫です。藤沢さんの知り合いになりますが、真知子さんですかね」

「あ、ごめんなさい。森川真知子です。なんかすっごい恥ずかしいお願いをいたしまして。私、なんか大間違いなことやってるような」

「藤沢さんから聞いてます。あなたを愚か者だなんて思ってませんよ。さ、行きましょう」
 と歩き出したので、私もあわてて彼の横に並んだ。

「わしはね、地を這い回ってなんとか生きてる虫ケラなんですよ。だからわしのことは気にしないでください」

「とんでもないです。私なんかこの歳になって、どうやって暮らしていけばいいかわからなくて。いろいろ教えてください」

「健康な身体があれば心配することはありません。小さな家なんですけどね、そこを曲がったとこですから。まあ楽しくやりましょう」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...