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その2
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夕食の買い出しに出かけようと財布の中身を確認してみると、私にのんびり思案する時間がないことに気づいた。それでもういいや!と藤沢洋子さんの提案を受けることにした。
連絡のメールを送ってしばらくすると、彼女から電話があった。
「その人は笹木伸夫という人よ。七十過ぎてるけどとっても元気。それに心配しないで。怖い人じゃないから。嫌なことは嫌って言ったらいいよ、怒ったりしない人だから」
と言ったあとに、落ち合う時間と場所を教えてくれた。
「私ひとりで行くんですか?」
すると洋子さん、呆れたような声を出して、
「真知子さん、あなたは一人きりで生きていくのよ。そうよ、ひとりで行くしかないの」
そんなわけで私は今、浅香山駅を降りたところだ。約束の午後3時にはまだ少しあるけど、改札を出たところでの待ち合わせだから、そこでぼおっと待つことにした。
灰色のトレーナーに茶系のチノパンと、楽な格好過ぎたらしら?と私はちょっと不安になった。でも外着というものを持ってないし、現場では裸になるかも知れない、服装なんか気にしないでいいか。
それにしても、本当に知らない人の前で裸になれるのかしら。性サービスなんてできるのかしら。男性の身体のことはほとんど無知なのに。
そんなことを考えていると、
「真知子さんですか」男に呼び掛けられた。
私は緊張した面持ちで男を見た。
穏やかな目。きれいに頭の禿げ上がった細みのお爺さん、だけど背中がスッとしていて立ち姿が若々しい。
「笹木伸夫です。藤沢さんの知り合いになりますが、真知子さんですかね」
「あ、ごめんなさい。森川真知子です。なんかすっごい恥ずかしいお願いをいたしまして。私、なんか大間違いなことやってるような」
「藤沢さんから聞いてます。あなたを愚か者だなんて思ってませんよ。さ、行きましょう」
と歩き出したので、私もあわてて彼の横に並んだ。
「わしはね、地を這い回ってなんとか生きてる虫ケラなんですよ。だからわしのことは気にしないでください」
「とんでもないです。私なんかこの歳になって、どうやって暮らしていけばいいかわからなくて。いろいろ教えてください」
「健康な身体があれば心配することはありません。小さな家なんですけどね、そこを曲がったとこですから。まあ楽しくやりましょう」
連絡のメールを送ってしばらくすると、彼女から電話があった。
「その人は笹木伸夫という人よ。七十過ぎてるけどとっても元気。それに心配しないで。怖い人じゃないから。嫌なことは嫌って言ったらいいよ、怒ったりしない人だから」
と言ったあとに、落ち合う時間と場所を教えてくれた。
「私ひとりで行くんですか?」
すると洋子さん、呆れたような声を出して、
「真知子さん、あなたは一人きりで生きていくのよ。そうよ、ひとりで行くしかないの」
そんなわけで私は今、浅香山駅を降りたところだ。約束の午後3時にはまだ少しあるけど、改札を出たところでの待ち合わせだから、そこでぼおっと待つことにした。
灰色のトレーナーに茶系のチノパンと、楽な格好過ぎたらしら?と私はちょっと不安になった。でも外着というものを持ってないし、現場では裸になるかも知れない、服装なんか気にしないでいいか。
それにしても、本当に知らない人の前で裸になれるのかしら。性サービスなんてできるのかしら。男性の身体のことはほとんど無知なのに。
そんなことを考えていると、
「真知子さんですか」男に呼び掛けられた。
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と歩き出したので、私もあわてて彼の横に並んだ。
「わしはね、地を這い回ってなんとか生きてる虫ケラなんですよ。だからわしのことは気にしないでください」
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