ターンオーバー

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その3

3−4

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 そのあとに会ったのが、岡崎を名乗る七十二歳のお爺ちゃん。穏やかな目をして、それでいて精悍さを備えた、品のある顔をした人でした。

「姐さん、よろしく頼みます。いや、メールに書きましたけど、僕はもう勃たないんですよ。ただ裸になって、一緒に横になってお話ししたいだけなんです。もちろん約束通り代金は支払いますからね」

「お金のことは気にしないでください。今晩はお互いゆっくり過ごしましょうね」

「おや?姐さんはこの後も仕事、あるんでしょう?」

「いえ。私は一日にひとりしかお相手しないことにしています。この歳ですからね、無理はできませんわ」
 今はまだ試運転の段階だからよ、と答えても良かったんだけど、いい子に見せたいという自分のエゴがそう言わせたの。

「そんなことを言うのは早いですよ。姐さんはとても若いじゃないですか。ささ、行きましょう。向こうにクルマを停めていますから」

 コインパークを出たクルマは大通りから裏の路地に入りクネクネと進み、やがて一軒家の前に着いた。

「ここは?」

「僕の家です。あ、自宅はまずいですか?」

 一瞬、私の耳に危険を知らせるベルの音が鳴った。でもお客さんは高齢だし、まわりに家が建ち並んでいて、大声を出せば両隣に届いてしまう、そんな環境で人を監禁は出来ないよね、と判断したわ。

「いえ、そんなことはないですけど、いいんですか?こんな怪しげな女を家に招いても」

「どうせ僕ひとりです。息子がひとりいますが別居してますし、訪ねてくる客は誰もいません。ですからよければ我が家で、と思ったんですが・・・」

「あ、いいんですよ。私は構いません」
 と、私はクルマのドアを開けて、外に出た。 

 岡崎と描かれた表札が見えた。お客さんは本名を名乗っていたようね。
 岡崎さんのあとをついて家の玄関をくぐる。外見は古く見えたけれど、内装はリフォームされていて壁やフロアーが明るい色で仕上げられていたわ。

「お風呂、入りません?お身体流しますよ」

「それはありがたい。では姐さんはここで休んでいてください。僕が用意しますから」 

 岡崎さんはそう言うと、私をリビングに残したまま、奥に行ってしまった。
 私はサイドボードの上にあるいくつかの写真立てに目がいった。奥さんと息子さんなのか、ビーチでのスナップが一枚。
 就学前くらいの男の子が畳の上で寝っ転がっているスナップが一枚。
 桜の樹の下、岡崎さんと奥さんの二人がならんで写っているスナップが一枚。
 お孫さんかな、二人の子どもが写っているスナップが一枚、計四枚の写真立てが並んでいた。

「家族の写真です」
 背中から岡崎さんの声がした。

「あら、ごめんなさい。勝手に見てました」

「気が散りますよね。すいませんでした」
 岡崎さんは私の横に立つと、写真立てを全部寝せた。


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