ターンオーバー

TeX

文字の大きさ
30 / 48
その4

4−8

しおりを挟む
「あなた、本当はサヤちゃんが好きなんじゃない?この子にしてきたことは、あなたなりの愛し方だったんじゃないの?」 

「そや。わいはこいつが好きや。いつか一緒に暮らせたらって、そう思っとんのや」

「だったら病院に」

「そんなこと言うたら、金田さんに殺されちまう。わいが死んだら、サヤも死ぬ。どこかに埋められて、それで終わりや」

「逃げるのよ。逃げて警察に駆け込むの」

「わい、捕まったら少年院行きや。サヤと暮らせなくなるわ」

「じゃあ一緒に私も逃して。あなたはどこかに逃げたらいい。警察には私が駆け込むから」

 寛治は私の言葉をじっくり検討し始めた。

 ・・・・・・・・・・

 その夜を大きく過ぎた真夜中。そっとドアを開けてやって来たのは寛治だ。
「おい。時間やで」小声でそう言った。

 私は眠っていなかったので、すぐに起き上がった。ちらっと香織さんを見ると、じっと私を見ている。
「必ず警察を連れてくるからね。朝までに出られるから」

「絶対に連れてきてくださいね」

 私は黙ってうなずいた。サヤちゃんは目をつぶったまま。私は寛治に顔を向けて、
「バッグと着るものは持ってきてくれた?」

「あかん。ブーさんの顔のすぐ横に置いてあるから、モゾモゾやってたら目が覚める」

 ・・・私は覚悟を決めた。
「わかった、行きましょう」

 私は香織さんとサヤちゃんの肩にそっと触れてから、忍び足で移動を始めた。

 男たちの寝ている部屋からはトイレが一番遠い。外の扉から様子を伺ったけど、人の気配はない。寛治はそっと扉を開けて、便器の向こう側にある小窓を開けた。思ったより狭いけれど、悩んでいる暇はない、私は便器に脚を乗せると、エイヤッ腕と頭を外に出した。
 乳房が引っかかる。手で引っ張り出すと次に腰まわりで引っかかる。寛治がお尻に手をあてて、ようやくお腹とお尻が抜けた。地面までの高さは1メートル60センチくらいか。私は思い切って飛び降りた。
「い痛ッ!」

 それなりの高さだったことと、アスファルトの冷たさで下半身に、あそこまでジーンと痺れが伝わった。

 すぐに寛治が飛び降りてくる。上を向くとどうやったのか、窓は閉まっていた。

「立てるか?おばはん」

 寛治は私の腕を取って、工場の敷地の外まで連れ出してくれた。
 三叉路に出たところでいったん立ち止まると、着ていたシャツを脱いで、渡してくれた。
「悪い、気ぃ付かんかった。前ボタンしたら隠れるやろ、必ず警察に行くんやで!」
 それから交番のおおよその場所を教えたあと、じゃあな、と反対方向に走り去った。

 私も走った。裸足だから小石を踏むと激痛が走る。でも二人を助けなきゃ。それにあいつら、絶対に許さない!警察に捕まえてもらうしか出来ないけど、やったことの罪を償ってもらうから!

 寛治の言ったとおり、大通りに出たところに交番があった。私はシャツ一枚で飛び込んだ。
「助けて!助けてください!」

 その声にドタドタと階段を駆け下りる音がして、ドアが開くと中から警官が飛び出してきた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...