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本編

晩ご飯とその後 1

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倫之くんの神職体験1日目は無事終了した。

僕が見た限りでは、倫之くんは参拝者の方に丁寧に接していたし、姿勢が良くて立ち居振る舞いが綺麗だし、字も上手なので、神職に向いているように思える。
まあ僕の印象よりも、本人がどう感じたかということの方が問題なのだが。

その倫之くんは、朝社務所で着替えた私服を持って、宮司と共に宮司の部屋に向かった。
神職体験の間、倫之くんは宮司の部屋に泊まるそうだ。

僕も自室に戻って私服に着替えてから、台所に移動する。
宮司と話し合った結果、光熱費や食費などの生活費を宮司に多めに出してもらう代わりに、炊事を含む家事はほとんど僕が受け持つことになっているからだ。
僕は家事はあまり苦にならない方なので、正直その方がありがたいと思っている。

手を洗い、黒いエプロンを付けて料理を始めると、倫之くんが台所にやってきた。

「中芝さん、僕も手伝います」
「いいよ、倫之くんも初日で疲れてるだろうから、コタツでテレビでも見ててよ」
「大丈夫です。
 ファミレスのバイトよりもだいぶ楽だったから、疲れてませんから」
「あー、そうか。
 そりゃ、ファミレスと比べたらうちの神社は暇だよね。
 それじゃあ、せっかくだから手伝ってもらおうかな」
「はい。
 今日のメニューは何ですか?」
「今日はブリの照り焼きと菜っ葉と油揚げの煮浸しとお吸い物、あとは常備菜を出せばいいかな」

昨日魚屋さんで買ったブリを調味料に漬け込んでおいたので、ちょうど食べ頃になっているはずだ。
それと、油揚げはお供えのお下がりをもらうことが多いのと、宮司の好物なので、毎日どこかで一品以上、油揚げを使った料理を作ることにしている。

「中芝さん、料理上手ですよね。
 お昼の親子丼もうまかったです」
「そう? それなら良かった。
 けどあれ、僕の料理の腕というよりは、玉ねぎが抜群に美味しいんだよね。
 アルバイトの太郎くんが庭で野菜を作っていて、よくおすそ分けしてくれるんだけど、どれも美味しくって」

太郎くんがくれる野菜は、どれも大きくてみずみずしくて美味しいのだ。
こんな都会の真ん中であんな美味しい野菜が作れるなんて、太郎くんは野菜作りの天才だと思う。

「あ、けど野菜が美味しいからつい野菜多めのメニューにしちゃうんだけど、倫之くんには物足りないかな?」

宮司は和食でも洋食でも美味しいと言って食べてくれるのだが、僕が昔からばあちゃんと二人暮らしで和食が多かったので、メニューは和食に偏りがちだ。
けれども大学生の倫之くんには、野菜中心の和食は物足りないだろう。

「明日は何か倫之くんの好きなものを作るよ。
 倫之くんは何が好き?」
「えーと、肉かな」

いかにも大学生らしい答えに、僕はちょっと笑ってしまう。

「わかった。
 じゃあ明日はハンバーグでも作るね」
「はい、楽しみにしてます」

そんな話をしながら、着々と晩ご飯を作っていく。
倫之くんには主に野菜を洗って切ってもらっているが、手際はまあ普通と言えるレベルだ。
聞いてみれば、実家住まいなので料理はしないが、ファミレスで時々調理に入ることがあるらしい。

「さて、出来た。
 宮司を呼んできてくれるかな」
「はい」

いつも宮司はご飯が出来る前に来てコタツに入っているのに、今日は遅いんだなと不思議に思いつつ、僕はご飯をコタツに運んだ。

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