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本編
正体を知っても
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「それじゃあさ、拓也は俺がこういう不思議な存在だってわかっても、気持ちは変わらない?」
そう言うと、倫之くんの姿をしていた倫くんは、一瞬で佐々木宮司に姿を変えた。
隣で突っ立ったままだった佐々木宮司の姿をした式神も、木彫りの人形の姿に戻って畳の上にコロンと転がる。
「さっき、私のことを好きだと言ってくれましたよね?
私の正体を知っても、その気持ちは変わりませんか?」
毎日慣れ親しんだ佐々木宮司の顔が、僕に近づいて来る。
今更だが、さっき僕が倫之くんに「佐々木宮司が好きだ」と話したつもりだったのは、実際には佐々木宮司本人に告白したのと同じことだったのだと気付いて恥ずかしくなる。
「ず、ずるいです、今その姿になるのは!」
日頃の習慣でつい敬語になってしまう僕に、倫宮司は顔が触れ合いそうなくらいに近付いてくる。
「ずるくもなりますよ。
私だって、これでも必死なんです。
神使になって以来、初めて好きになった人に男として意識してもらいたくて、わざわざ若返った姿でアプローチするくらいですから。
もっとも、拓也には若い姿よりもこちらの方が良かったようですが」
そう言いながら、倫宮司は右手をそっと僕の頬に当てる。
「ああ、それともどちらでも大丈夫なのでしょうか。
拓也は、倫之の宮司と似てる部分に好感を持ったと言っていましたよね?
だったら拓也は、どちらの姿の私にも好感を持ってくれたということですよね?」
確かにそれは、倫宮司の言う通りだ。
その証拠に、僕は倫くんにも倫宮司にも──つまり、若い姿にも年をとった姿にも同じくらいドキドキしているのだから。
「教えてくれますか、拓也。
私の、どんなところが好きなのか」
いつの間にか「好感を持っている」が「好き」に置き換えられているけれども、倫宮司の真剣な眼差しに捕らえられている僕には、その違いに気付く余裕はない。
「参拝者に丁寧に接するところ……」
「うん、それから?」
「歴史好きで趣味が合うこと……」
「それから?」
「字が綺麗なことと、つり目と低めの声と……」
「それから?」
「優しいところと、僕の作ったご飯をいつも美味しいって言ってくれるところと、神職の先輩として尊敬できるところと、それから一緒にいると居心地がいいことと……」
うながされて口にしていくうちに、いつの間にか2人の似ているところは関係なくなってきて、佐々木宮司の好きなところになってきている。
けれど、どちらにしろ中身は1人なのだから、同じことだ。
「というか、全部好きです」
そう言った途端、倫宮司の唇が僕のそれに重なった。
男同士のキスなのに少しも嫌じゃなくて、それどころか嬉しいと感じる辺り、本当に僕は恋愛の意味でこの人のことが好きなんだと、改めて思う。
「それじゃあ、これでは?」
そう言うが早いか、倫宮司は倫くんに若返って、再び僕にキスをする。
「……うん、その姿でも好きだよ」
さっき告白された時は倫之くんと佐々木宮司は別人だと思っていたから、倫之くんの気持ちを受け入れることは出来なかったけど、2人が同一人物だとわかった今は、倫くんの姿でも同じように好きだと思える。
「それなら、これでも?」
そう言うと、倫くんは本来の姿だと言っていた、町人髷に狐の耳と尻尾を生やした姿に変わる。
「……はい、好きです」
本来の姿で唇を重ねられても、他の姿の時とは違う、神使というとくべつな存在に対する敬意は感じられるけど、好きという気持ちは変わらなかった。
「……よかった」
倫神使は安堵したようにほっと息をつく。
「本当は倫之の姿で告白して付き合ってもらえるようになったら、時間をかけて拓也を俺から離れられなくしてから、正体を教えるつもりだったんだ。
でも、今こうして正体を明かして良かった。
倫之の姿だけを好きになってもらうより、こうして全部の俺を好きだって言ってもらえる方がずっと嬉しい」
そう言うと倫神使は本当に嬉しそうに笑った。
そう言うと、倫之くんの姿をしていた倫くんは、一瞬で佐々木宮司に姿を変えた。
隣で突っ立ったままだった佐々木宮司の姿をした式神も、木彫りの人形の姿に戻って畳の上にコロンと転がる。
「さっき、私のことを好きだと言ってくれましたよね?
私の正体を知っても、その気持ちは変わりませんか?」
毎日慣れ親しんだ佐々木宮司の顔が、僕に近づいて来る。
今更だが、さっき僕が倫之くんに「佐々木宮司が好きだ」と話したつもりだったのは、実際には佐々木宮司本人に告白したのと同じことだったのだと気付いて恥ずかしくなる。
「ず、ずるいです、今その姿になるのは!」
日頃の習慣でつい敬語になってしまう僕に、倫宮司は顔が触れ合いそうなくらいに近付いてくる。
「ずるくもなりますよ。
私だって、これでも必死なんです。
神使になって以来、初めて好きになった人に男として意識してもらいたくて、わざわざ若返った姿でアプローチするくらいですから。
もっとも、拓也には若い姿よりもこちらの方が良かったようですが」
そう言いながら、倫宮司は右手をそっと僕の頬に当てる。
「ああ、それともどちらでも大丈夫なのでしょうか。
拓也は、倫之の宮司と似てる部分に好感を持ったと言っていましたよね?
だったら拓也は、どちらの姿の私にも好感を持ってくれたということですよね?」
確かにそれは、倫宮司の言う通りだ。
その証拠に、僕は倫くんにも倫宮司にも──つまり、若い姿にも年をとった姿にも同じくらいドキドキしているのだから。
「教えてくれますか、拓也。
私の、どんなところが好きなのか」
いつの間にか「好感を持っている」が「好き」に置き換えられているけれども、倫宮司の真剣な眼差しに捕らえられている僕には、その違いに気付く余裕はない。
「参拝者に丁寧に接するところ……」
「うん、それから?」
「歴史好きで趣味が合うこと……」
「それから?」
「字が綺麗なことと、つり目と低めの声と……」
「それから?」
「優しいところと、僕の作ったご飯をいつも美味しいって言ってくれるところと、神職の先輩として尊敬できるところと、それから一緒にいると居心地がいいことと……」
うながされて口にしていくうちに、いつの間にか2人の似ているところは関係なくなってきて、佐々木宮司の好きなところになってきている。
けれど、どちらにしろ中身は1人なのだから、同じことだ。
「というか、全部好きです」
そう言った途端、倫宮司の唇が僕のそれに重なった。
男同士のキスなのに少しも嫌じゃなくて、それどころか嬉しいと感じる辺り、本当に僕は恋愛の意味でこの人のことが好きなんだと、改めて思う。
「それじゃあ、これでは?」
そう言うが早いか、倫宮司は倫くんに若返って、再び僕にキスをする。
「……うん、その姿でも好きだよ」
さっき告白された時は倫之くんと佐々木宮司は別人だと思っていたから、倫之くんの気持ちを受け入れることは出来なかったけど、2人が同一人物だとわかった今は、倫くんの姿でも同じように好きだと思える。
「それなら、これでも?」
そう言うと、倫くんは本来の姿だと言っていた、町人髷に狐の耳と尻尾を生やした姿に変わる。
「……はい、好きです」
本来の姿で唇を重ねられても、他の姿の時とは違う、神使というとくべつな存在に対する敬意は感じられるけど、好きという気持ちは変わらなかった。
「……よかった」
倫神使は安堵したようにほっと息をつく。
「本当は倫之の姿で告白して付き合ってもらえるようになったら、時間をかけて拓也を俺から離れられなくしてから、正体を教えるつもりだったんだ。
でも、今こうして正体を明かして良かった。
倫之の姿だけを好きになってもらうより、こうして全部の俺を好きだって言ってもらえる方がずっと嬉しい」
そう言うと倫神使は本当に嬉しそうに笑った。
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