商店街の稲荷神社に奉職しました

鳴神楓

文字の大きさ
36 / 57
本編

正体を知っても

しおりを挟む
「それじゃあさ、拓也は俺がこういう不思議な存在だってわかっても、気持ちは変わらない?」

そう言うと、倫之くんの姿をしていた倫くんは、一瞬で佐々木宮司に姿を変えた。
隣で突っ立ったままだった佐々木宮司の姿をした式神も、木彫りの人形の姿に戻って畳の上にコロンと転がる。

「さっき、私のことを好きだと言ってくれましたよね?
 私の正体を知っても、その気持ちは変わりませんか?」

毎日慣れ親しんだ佐々木宮司の顔が、僕に近づいて来る。
今更だが、さっき僕が倫之くんに「佐々木宮司が好きだ」と話したつもりだったのは、実際には佐々木宮司本人に告白したのと同じことだったのだと気付いて恥ずかしくなる。

「ず、ずるいです、今その姿になるのは!」

日頃の習慣でつい敬語になってしまう僕に、倫宮司は顔が触れ合いそうなくらいに近付いてくる。

「ずるくもなりますよ。
 私だって、これでも必死なんです。
 神使になって以来、初めて好きになった人に男として意識してもらいたくて、わざわざ若返った姿でアプローチするくらいですから。
 もっとも、拓也には若い姿よりもこちらの方が良かったようですが」

そう言いながら、倫宮司は右手をそっと僕の頬に当てる。

「ああ、それともどちらでも大丈夫なのでしょうか。
 拓也は、倫之の宮司と似てる部分に好感を持ったと言っていましたよね?
 だったら拓也は、どちらの姿の私にも好感を持ってくれたということですよね?」

確かにそれは、倫宮司の言う通りだ。
その証拠に、僕は倫くんにも倫宮司にも──つまり、若い姿にも年をとった姿にも同じくらいドキドキしているのだから。

「教えてくれますか、拓也。
 私の、どんなところが好きなのか」

いつの間にか「好感を持っている」が「好き」に置き換えられているけれども、倫宮司の真剣な眼差しに捕らえられている僕には、その違いに気付く余裕はない。

「参拝者に丁寧に接するところ……」
「うん、それから?」
「歴史好きで趣味が合うこと……」
「それから?」
「字が綺麗なことと、つり目と低めの声と……」
「それから?」
「優しいところと、僕の作ったご飯をいつも美味しいって言ってくれるところと、神職の先輩として尊敬できるところと、それから一緒にいると居心地がいいことと……」

うながされて口にしていくうちに、いつの間にか2人の似ているところは関係なくなってきて、佐々木宮司の好きなところになってきている。
けれど、どちらにしろ中身は1人なのだから、同じことだ。

「というか、全部好きです」

そう言った途端、倫宮司の唇が僕のそれに重なった。
男同士のキスなのに少しも嫌じゃなくて、それどころか嬉しいと感じる辺り、本当に僕は恋愛の意味でこの人のことが好きなんだと、改めて思う。

「それじゃあ、これでは?」

そう言うが早いか、倫宮司は倫くんに若返って、再び僕にキスをする。

「……うん、その姿でも好きだよ」

さっき告白された時は倫之くんと佐々木宮司は別人だと思っていたから、倫之くんの気持ちを受け入れることは出来なかったけど、2人が同一人物だとわかった今は、倫くんの姿でも同じように好きだと思える。

「それなら、これでも?」

そう言うと、倫くんは本来の姿だと言っていた、町人髷に狐の耳と尻尾を生やした姿に変わる。

「……はい、好きです」

本来の姿で唇を重ねられても、他の姿の時とは違う、神使というとくべつな存在に対する敬意は感じられるけど、好きという気持ちは変わらなかった。

「……よかった」

倫神使は安堵したようにほっと息をつく。

「本当は倫之の姿で告白して付き合ってもらえるようになったら、時間をかけて拓也を俺から離れられなくしてから、正体を教えるつもりだったんだ。
 でも、今こうして正体を明かして良かった。
 倫之の姿だけを好きになってもらうより、こうして全部の俺を好きだって言ってもらえる方がずっと嬉しい」

そう言うと倫神使は本当に嬉しそうに笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

水泳部物語

佐城竜信
BL
タイトルに偽りありであまり水泳部要素の出てこないBLです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...