声無き世界

鳴神楓

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本編

ささやかなデート

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「今日の弁当、なんか豪華じゃない?」

 弁当はいつも朝ご飯を作る時ついでに、適当にサンドイッチやタコスを1種類だけ作って持っていくのだが、今日のテディは3種類のサンドイッチを作っている。
 小さなリンゴのような果物も用意されていて、いつもよりもかなり豪華だ。

 不思議に思って聞いてみた俺に、テディはなんだか楽しそうにニコニコ笑ってみせた。

「え、なんなの?
 何かあるの?」

 重ねて聞いても、テディは『内緒』というように立てた人差し指を唇に当てるだけだ。

「えーっ、なんだよ、気になるなぁ」

 結局テディは何も教えてくれなかったけれど、笑顔なのだから悪いことではないのだろう。
 気になるけれど、昼の楽しみに取っておくことにしよう。

 ────────────────

 今日は森の中を歩いて種になる木の実や苗を集めるようだ。
 小さなスコップや袋などを持って出かけたのは、俺がまだ来たことのない辺りだった。
 道のない森の中、帰りに迷わないように印をつけながら進んでいく。
 苗は荷物になるので帰りに掘れるように目印をつけておき、種は取り過ぎない程度に拾う。

「あ、小川、って言うか湧き水?
 こんなのあったんだね」

 前を歩いていたテディが足を止めた場所の近くの地面に、チョロチョロと水が流れているのに気付いて俺は声をあげる。
 テディはうなずいて、水が流れてくる上流の方を指差した。
 この森はほとんど高低差がなく平らなところにあると思っていたが、テディが指差す方はゆるやかな登り坂になっている。

「あっち行くの?
 うん、わかった」

 テディにうなずき返し、俺たちはまた歩き出した。

 ────────────────

「わぁ……すごい。
 水の中に花が咲いてる……」

 たどり着いたのはきれいな水が湧き出る泉だった。
 泉の中には水草が生えていて、たくさんの小さな白い花を咲かせている。

「きれいだね。
 もしかしてテディ、俺にこの花を見せるためにここに来たの?」

 俺の言葉に、テディはニコニコしながらうなずく。

「ありがとう! テディ」

 俺は特に花が好きというわけでもないけれど、こんなきれいで珍しいものをテディが俺に見せようと考えてくれたその気持ちは素直にうれしかった。


 昼にはまだ少し早かったけれど、俺たちは泉のほとりで弁当を広げた。
 景色のいいところでテディと2人で食べる、いつもよりも豪華な弁当は、特別美味しく感じる。
 会話もしながら楽しく食事を終え、デザートのリンゴをかじっていると、先に食べ終えたテディが口笛を吹き始めた。

 聞いたことのないメロディは、きっとこの世界の曲なのだろう。
 少し哀愁を帯びたゆったりとした曲調なので子守歌とかなのかなと想像しながら、静かに耳を傾ける。

 一曲吹き終えたテディに拍手をすると、テディは照れたように笑いながら、俺に向かってどうぞというように手のひらを向けた。

「え、俺も? うーん……」

 テディがそう言うのならと、俺も唇をとがらせて口笛を吹こうとしたが、唇からはフーとかスーとかいう息が出るだけだった。

「やっぱダメか。
 俺、口笛吹けないんだよ」

 小学生の時、友達の間でちょっと口笛が流行ったことがあったけど、その時も俺だけ何度やっても音が出なかったのだ。
 中学や高校では口笛なんか吹く機会はなかったけど、子供の時に吹けなかったものが大人になったからといって、いきなり吹けたりはしないだろう。

 俺が1人でふてくされていると、テディはなぐさめるように俺の腕を軽く叩いて、それから唇を動かした。

「『歌って』?
 うーん、歌もそんなに得意じゃないんだけどなぁ」

 それでもテディもこちらの世界の曲を聞かせてくれたのだし、俺もお返しにテディに日本の歌を聞かせてやりたいような気もする。

 うーん、じゃあ何か短くて簡単なやつ……。

 目の前の花が咲く泉を見ながら、そうやって考えていた俺の口から出たのは、童謡の『チューリップ』の歌だった。

 日本人なら幼稚園の子でも歌えるその歌を歌いながら、俺は自分の顔が恥ずかしさに赤くなっていくのを感じていた。

 我ながら、この選曲はないだろ!
 小さい子に歌ってやるのならともかく、仮にも恋人に歌う曲にしてはあんまりだよ。

 恥ずかしさに身もだえながらも、短い歌をあっという間に歌い終えると、テディはニコニコしながら拍手をしてくれた。

「え、『もっと』?
 えー、もういいだろ?
 もう、ほんと拍手とかしてもらうような歌じゃないから!」

 俺がテディの腕をつかむと、テディは笑いながら拍手をやめてくれた。
 俺はつかんだテディの腕をそのまま自分の胸に抱き混み、テディに寄り添う。

「……たまには、こうやってゆっくりするのもいいね」

 俺の言葉に、テディもうなずく。

「時々でいいからさ、またこうやって出かけようよ。
 のんびりする時間を作れるように、俺ももっと仕事がんばるからさ」

 俺がそう言うとテディはうなずいて、空いている方の手で俺の頭を優しくなでてくれた。
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