俺とタロと小さな家

鳴神楓

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番外編

年越し 3

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6時半にセットしたアラームで目が覚めた。
タロもまだ犬の姿のままではあるが、目を開けてこちらを見ていた。

「おはよう、タロ」
「おはようございます。
 あ、それと、あけましておめでとうございます」
「あ、そうだった。
 夕べ言おうと思っててすっかり忘れてたな。
 あけましておめでとう。
 今年もよろしくな」
「はいっ。こちらこそよろしくお願いします」
「うん。
 さて、もう起きないとな」
「はい」

俺たちは布団を出ると身支度をして、借りた布団を畳んだ。
タロは当然人間の姿に変身済みだ。
まだ寝ている佐々木さんを起こさないように静かに部屋を出て、社務所の方に移動する。
冷蔵庫に確保してもらってあったお接待の料理で朝食を済ませ、2人で授与所に入った。

深夜から早朝まで授与所の係をしていた総代さんから引き継ぎをして、タロと俺ともう1人の総代さんと3人で授与所に座る。
交代した時はまだ朝早かったので参拝者は多くなかったが、時間が経つにつれ徐々に増えてきて、10時に拝殿の中でお祭りが始まる頃には、境内は多くの参拝者で賑わっていた。
拝殿の外でお祭りに参列している人もいるが、授与所に来る人も多くて忙しい。

俺と総代さんはお守りを売るだけで精一杯だが、タロは普段から神社を手伝っているだけあって、参拝者から質問されても慌てることなく答えている。
普段から神社によく参拝している人が、タロに新年のあいさつをしに来てくれたりもして、タロがいつも神社でがんばって働いていることがうかがえて嬉しかった。

途中で昼食を交代で食べながらお守りを売っていると、2時頃に隣町の稲荷神社とうちの庭の稲荷神社のお祭りに行っていた佐々木さんが帰ってきた。

「太郎くん、松下さん、ありがとうございました。
 明日もまたお願いしますね。
 お供えのお下がりですみませんが、おうちの方に酒屋さんおすすめの日本酒を置いて来ましたから、よかったら飲んでください」
「あ、ありがとうございます。
 それじゃあ、お先に失礼します」

俺とタロは今更だが初詣ということで拝殿に参拝して、それからうちへと帰った。

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