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番外編
稲荷神社御由緒 2
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そうして狐とお侍は村で幸せな時を何十年か過ごしたが、そのうちにお侍は寿命が来て死んでしまった。
狐は三日三晩嘆き悲しみ、4日目の朝、お侍の墓の側で狐の姿に戻って冷たくなっていた。
村人たちは狐をかわいそうに思い、またそれまで村を守ってくれた狐への感謝の思いもあり、その狐を村の守り神として祀ることにした。
ただ、その村は狐のおかげで災害に会わず、近隣の村から妬まれていたこともあり、元化け狐を大っぴらに神様として祀れば、お上に言いつけられて咎めを受けるかもしれないということになり、表面上は同じ狐がお使いのお稲荷さんを祀るということにして、神社を作ったんだ。
そういうわけで今でもこの神社は稲荷神社だし、表向きには稲荷大神が御祭神ということになっているが、本当はその化け狐がこの神社の御祭神で、この辺りに住んでいる人はみな小さい頃に親や近所の年寄りからその話を聞かされてそれを知っていて、その上でこの神社を大切に思っているんだ。
————————————————
「どうだい、なかなか面白い話だろう。
あ、そうだ、この話、人に話すのは構わないけど、紙に書き残したり、今流行りのSNSで書いたりしないでくれよ。
昔からの決まりで『口伝に限る』ということになっているからね。
その決まりさえなければ、面白い話だから本にでもしたいんだけどなあ」
地域の歴史研究家でもある役員さんは、少し悔しそうだ。
「その狐、すごいですね!
化けるだけじゃなくて、洪水から村を守ったりもできるなんて」
尊敬する神様の昔の話を聞いたタロは、目をキラキラさせて興奮した様子だ。
「まあ、ただの言い伝えだけどね。
それでも、この辺りの年寄りには本当に狐の神様を信じている人も多いよ。
なんか、大正時代の震災でもこの辺りは被害が少なかったとか、戦時中の空襲でも焼夷弾の大半が不発だったとかいうことがあって、今でも狐の神様がこの地域一帯を守ってくれているんだってね。
最近だと、バブルの頃に商店街の土地を狙っていた地上げ屋のヤクザが、いつの間にか来なくなってたなんて話もあったな。
まあ、実際には神様のおかげなんてことはなくて、全部たまたまなんだろうけどね」
そう言って役員さんははははと笑ったけど、実際に神様がいることを知っている俺には、とてもじゃないけど笑えなかった。
それだけ強い力がある神様なら、タロに人間に変身する力を与えたり、畑の野菜を急速成長させるくらいのことは、きっと簡単なことだっただろう。
「それじゃあ」と言って役員さんが行ってしまうと、いつの間にか佐々木さんが側に立っていた。
「宮司さん!
さっき総代役員さんから神様のことを聞いてたんです。
神様って、やっぱりすごいですね!」
「ああ、私もだいたいのところは聞いていましたよ」
「佐々木さん、さっきの話、本当なんですか?
洪水を防いだとか、焼夷弾を不発にしたとか……」
俺が恐る恐る聞いてみると、佐々木さんはなんでもないことのように笑顔で答えた。
「ええ、本当ですよ。
母は元々狐としては最上級の妖力を持っていましたから、神格化してもそれなりに強い神通力を得ることができたんですよ。
まあ、焼夷弾は私も手伝わされたんですけどね。
次々落とされる焼夷弾の中身を一つずつ湿らせて無力化するのはかなり大変でしたから、もう二度とやりたくありませんけどね」
「そ、そうですか……」
「わー、ノリさんもすごいですね!」と無邪気に喜んでいるタロの横で、俺は密かに佐々木さんには絶対に逆らわないでおこうと(逆らう機会もないだろうけど)心に誓っていた。
狐は三日三晩嘆き悲しみ、4日目の朝、お侍の墓の側で狐の姿に戻って冷たくなっていた。
村人たちは狐をかわいそうに思い、またそれまで村を守ってくれた狐への感謝の思いもあり、その狐を村の守り神として祀ることにした。
ただ、その村は狐のおかげで災害に会わず、近隣の村から妬まれていたこともあり、元化け狐を大っぴらに神様として祀れば、お上に言いつけられて咎めを受けるかもしれないということになり、表面上は同じ狐がお使いのお稲荷さんを祀るということにして、神社を作ったんだ。
そういうわけで今でもこの神社は稲荷神社だし、表向きには稲荷大神が御祭神ということになっているが、本当はその化け狐がこの神社の御祭神で、この辺りに住んでいる人はみな小さい頃に親や近所の年寄りからその話を聞かされてそれを知っていて、その上でこの神社を大切に思っているんだ。
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「どうだい、なかなか面白い話だろう。
あ、そうだ、この話、人に話すのは構わないけど、紙に書き残したり、今流行りのSNSで書いたりしないでくれよ。
昔からの決まりで『口伝に限る』ということになっているからね。
その決まりさえなければ、面白い話だから本にでもしたいんだけどなあ」
地域の歴史研究家でもある役員さんは、少し悔しそうだ。
「その狐、すごいですね!
化けるだけじゃなくて、洪水から村を守ったりもできるなんて」
尊敬する神様の昔の話を聞いたタロは、目をキラキラさせて興奮した様子だ。
「まあ、ただの言い伝えだけどね。
それでも、この辺りの年寄りには本当に狐の神様を信じている人も多いよ。
なんか、大正時代の震災でもこの辺りは被害が少なかったとか、戦時中の空襲でも焼夷弾の大半が不発だったとかいうことがあって、今でも狐の神様がこの地域一帯を守ってくれているんだってね。
最近だと、バブルの頃に商店街の土地を狙っていた地上げ屋のヤクザが、いつの間にか来なくなってたなんて話もあったな。
まあ、実際には神様のおかげなんてことはなくて、全部たまたまなんだろうけどね」
そう言って役員さんははははと笑ったけど、実際に神様がいることを知っている俺には、とてもじゃないけど笑えなかった。
それだけ強い力がある神様なら、タロに人間に変身する力を与えたり、畑の野菜を急速成長させるくらいのことは、きっと簡単なことだっただろう。
「それじゃあ」と言って役員さんが行ってしまうと、いつの間にか佐々木さんが側に立っていた。
「宮司さん!
さっき総代役員さんから神様のことを聞いてたんです。
神様って、やっぱりすごいですね!」
「ああ、私もだいたいのところは聞いていましたよ」
「佐々木さん、さっきの話、本当なんですか?
洪水を防いだとか、焼夷弾を不発にしたとか……」
俺が恐る恐る聞いてみると、佐々木さんはなんでもないことのように笑顔で答えた。
「ええ、本当ですよ。
母は元々狐としては最上級の妖力を持っていましたから、神格化してもそれなりに強い神通力を得ることができたんですよ。
まあ、焼夷弾は私も手伝わされたんですけどね。
次々落とされる焼夷弾の中身を一つずつ湿らせて無力化するのはかなり大変でしたから、もう二度とやりたくありませんけどね」
「そ、そうですか……」
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