俺とタロと小さな家

鳴神楓

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番外編

富士山旅行 2

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スケッチを終え、ホテルの大浴場で富士山を眺めながらゆっくりと温泉に浸かった後、俺たちは湯冷めしないように急いで車に戻った。
後ろに敷き詰められたマットレスの上に厚めの布団を敷いて、2人で早々に布団に潜り込む。
いつもなら寝る前にいちゃつくところだけど、さすがに車の中でやると車が揺れて目立ちそうなので、旅行の間は諦めた方が良さそうだ。
キャンピングカーは安上がりだし便利だけど、その点は残念だなと思う。

「明日は日の出前に起きるからな」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ」

タロは疲れていたのか、すぐに眠って犬に戻ってしまう。
車の中は家よりもだいぶ寒いので、犬のタロの高い体温をありがたく思いながら、俺も目を閉じた。

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翌朝はスマホのアラームで目が覚めた。

「おはようございます」
「おはよう」

いつものように朝のあいさつを交わして、俺たちは布団から出た。

「うー、寒っ」

寒さに震えながら、俺は急いで着替える。
こういう時は神通力で一瞬で着替えられるタロが羨ましい。

スケッチブックとカメラを持って、俺たちは周りの車で寝ている人たちの迷惑にならないように静かに車を出た。
湖岸に向かうと、三脚にカメラをセットしている人たちがすでに何人もいる。
みんなゴツいレンズの本格的なカメラばかりで、俺のようなコンパクトカメラの人はほとんどいないのでちょっと肩身は狭いが、俺たちも富士山と湖がよく見える位置を選んで日の出を待つことにする。

しばらく待っていると、あたりがだんだんと明るくなってきた。
山頂よりも少し下の、雪で白い部分が明るくなったかと思うと、太陽が顔を出した。

一斉に鳴り出したカメラのシャッター音の中、隣で「わぁ……」という感嘆の声が聞こえた。
俺もカメラを構えて一枚だけ写真を撮ると、後は黙って富士山が朝日に照らされていく風景をじっと見つめ続けた。

「写真、もういいんですか?」
「うん。
 写真よりも、この目でしっかりと見ておいた方がいい気がするからな。
 それに、タロと一緒に見たこんな綺麗な景色は、写真に撮らなくても一生忘れないと思う」
「そうですね。
 僕も、ずっと忘れないと思います」

そうやって話している間に、太陽はすっかり昇り切ってしまった。
日の出の富士山が見られたのは短い時間だったけど、だからこそ美しい風景だったと思う。

「あー、綺麗だったな。
 さて、今日も描くぞー!」
「あ、僕おにぎりとお茶持って来ますね」
「うん、ありがとう。
 あのへんのベンチにいるから」
「はい」

そうして俺は、タロが持って来てくれた昨日買っておいたおにぎりと温かいお茶の朝ご飯を食べながら、また夢中になって富士山を描き続けた。


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※3泊4日全部書いてるときりがないので、一番書きたいところだけですみません。
湖のモデルは田貫湖ですが、実際にはオートキャンプはできないようなので作中では名前は出していません。
昔、田貫湖のバンガローに泊まったことがあるのですが、その時の富士山がすごく印象的だったので、2人にも見せたいと思って書きました。

今回は書けませんでしたが、この他にも2人で滝を見たり、名水の湧き水を飲んだり、牧場で動物と戯れたり、富士宮焼きソバや静岡おでん食べたり、ワサビソフトクリームを食べて甘いのにツーンと来る不思議な味に目を白黒させたり、帰りに漁港に寄って桜海老とマグロを食べてお土産もいっぱい買ったりしてます。
静岡、いいところですよね!


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