俺とタロと小さな家

鳴神楓

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第1章 子犬編

13 お出かけしよう

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タロの人間に変身するための力は少しずつ強くなっているらしく、人間の姿でいられる時間もだんだん長くなっている。
3回目に変身した時には、タロは1時間半近くも人間の姿でいることが出来た。(ちなみにその日は晩ご飯に魚を焼いてくれて、その後魚焼きグリルの後片付けをした上に、絵のモデルまでしてくれた)

「タロ、そろそろ人間の姿で出かけても大丈夫じゃないか?
 次あたり、一緒に商店街に買い物に行ってみるか?」
「ワン!」
「よし、じゃあそれまでに服を買っておくか。
 しまったなあ、タロが人間の時にどんな服にするか相談しておけばよかったな。
 まあ、今回は俺が適当に選んでくるな」
「ワン」

商店街には小さな洋品店しかないので、俺は画材を買いに繁華街に出たついでに、大型ファストファッションの店でタロの服を買い揃えることにした。
耳が押さえつけられないように上部に余裕があるデザインの帽子、尻尾が入るゆったりしたシルエットのズボン、腰まわりが隠れる丈のカーディガンといった、タロの正体がバレないようにするための服の他に、Tシャツと下着と靴も買う。

全身一式揃えるとかなりの金額になってしまったが、それでも光と付き合っていた時にねだられて買ったブランドのコート一着分よりも安いくらいだ。
それにタロが人間に変身する時は、いつも俺がよく着ているボロい普段着の小さいバージョンの服だったので、もうちょっとまともな服を着せてやりたいと思っていたからちょうどいいだろう。


――――――――――――――――

あらかじめ買い物に行こうと伝えてあったので、タロは今日はいつも変身する夕飯の時間よりも早く人間になった。

「よし、じゃあこれ着てみてくれ」
「はい」

タロと一緒に二階に上がって買っておいた服を渡し、俺も作業用の汚れた服を着替える。

「尻尾きつくないか?」
「大丈夫です」

ズボンの中に尻尾を入れているので、お尻に不自然なふくらみができてしまっていたが、上からカーディガンを着せてやると目立たなくなった。
仕上げに帽子をかぶせると、タロはどこからどう見ても人間の男の子に見えた。

「うんうん、これなら外に出ても大丈夫だな。
 服、きゅうくつなところはないか?」
「いえ、それは大丈夫なんですけど……」

そう言いながらタロは、両足をすり合わせるようにもぞもぞと動かした。

「ん? 靴下きついか?」
「いえ、きつくはないんですけど、なんか落ち着かないっていうか、むずむずするっていうか……」

タロの足元を見て、俺はタロの足がむずむずする原因に気が付いた。

「あー、もしかして両足白い靴下だと落ち着かないのかな。
 お前、犬の時も右足は黒だし。
 試しに靴下はきかえてみろよ」
「はい」

靴下を元からはいていた左右白黒のものに戻すと、タロはほっとした顔になった。

「大丈夫か?」
「はい。靴下替えたらむずむずしなくなりました」
「やっぱりか。
 まあ、靴はいたら靴下はほとんど見えないし、白黒でも大丈夫だろう」
「すいません。せっかく買ってもらったのに」
「気にすんなって。
 それより早く出かけようぜ」
「はい!」
「買い物してると時間なくなるから、今日は俺も晩ご飯作るの手伝うよ。
 今日は何を作るつもりなんだ?」
「煮魚と具だくさんのお味噌汁にしようかなと思ってます。
 ご主人様は自分で作られる時はお肉が多いから、僕が作る時はお魚にした方がいいかなと思って」
「あー、確かに肉の方が簡単だから魚はあんまり食べないかも。
 タロが作ってくれると助かるよ」

そんなことを話しながら、俺たちは一階に降りて玄関で靴をはいた。
玄関の鍵をかけ、俺が先に立って外に向かう。

「どの魚にするかはまだ決めてないんですけど、魚屋さんで聞いて……キャン!」
「え?」

俺の後ろでしゃべっていたタロが、急に犬のような鳴き声を上げたので驚いて振り向くと、タロがいなくなって……いたわけではなく、視線を落とすと、そこには犬の姿のタロがいた。
犬に戻ってしまったタロは悲しそうにヒンヒンと鳴き声をあげ、尻尾もしょんぼりと下がってしまっている。

「え? まさかもう時間切れ?
 いくらなんでも早くないか?」

俺の疑問にタロは首を左右に振って答えると、すぐそばの門柱にちょんと右足をかけた。

「ん? 門?
 ……あ! お前もしかして、人間の姿だとこの門から出られないのか?」

俺がそう言うと、タロはうなずき、しょんぼりとうなだれた。

「そっか……残念だな……」
「クゥン……」
「仕方ない。今日は帰ろうか」

すっかり出かける気をなくしてしまった俺たちは、さっき出たばかりの家にとぼとぼと戻ったのだった。
 

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