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第1章 子犬編
14 お風呂
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タロが人間の姿でうちの門から出ようとすると犬に戻ってしまうということが判明した日の翌日の夕方、タロはまた人間に変身した。
タロはいつも着ている服ではなく俺が買ってやった服を着て、ちょっと元気がなさそうな様子で立っていた。
「タロ! 昨日も人間になったばっかりなのに大丈夫なのか? 無理してないか?」
「はい、大丈夫です。
昨日はすぐ犬に戻ってしまって、人間になる力をほとんど使わなかったので。
それよりご主人様、昨日はせっかく洋服まで買ってもらったのに、お出かけできなくてすみませんでした。
僕、人間の姿ではこの家から出られないって知らなくて……。
今日聞いてみたら、力が強くなったら家から出られるようになるけど、それには今よりももっとずっと力をつけないといけないって言われて……」
「あー、そうなのか」
「ご主人様、もう少し待ってください!
僕もっとがんばって力をつけて、人間の姿でもご主人様と一緒にお出かけできるようになりますから」
「いや、無理してがんばらなくてもいいぞ。
人間の姿では出かけられなくても、犬の姿だったら毎日でも一緒に出かけられるし、それに外に出なくても家の中で一緒にできることもいっぱいあるからな。
確かに俺も人間の姿のお前と出かけるの楽しみにはしてたけど、だからといってお前が無理したりつらい思いをしたりしてまで出かけるようになりたいとは思わないからさ。
だから別に今のままでも十分だからな?」
そう言い聞かせるとタロは「ありがとうございます」と言って微笑んだ。
「じゃあ無理しない程度にがんばりますね!」
「あー……、うん、ほどほどにな」
そういえば忘れていたが、タロは案外頑固で負けず嫌いなところがあるのだった。
階段の上り下りの時も俺が言ってもやめなかったから、たぶん今回もいくら言っても無駄だろう。
タロがどういう方法で頑張って力を強くするのかはわからないが、危ないことや体力的に無理なことをしないように、さりげなく見張っておかなければいけないなと俺は思う。
「あ、そうだ。
出かける代わりと言ってはなんだけど、よかったら一緒に風呂に入らないか?
お前、結構風呂好きだろ?
犬の時も気持ちいいだろうけど、人間の姿で一緒に話をしながら入るのも楽しいと思うぞ」
犬は風呂が好きな子と嫌いな子がいるらしいが、タロはたぶん風呂が好きな方だと思う。
俺が風呂に入る時に時々一緒に入って洗ってやるのだが、タロは洗われている時もおとなしくしているし、お湯を入れたタライに入れてやると、なんとなく気持ちよさそうな顔をしているからだ。
「いいですね。僕、お風呂好きだし、この姿でご主人様と一緒に入ったら楽しそうです」
「よし、じゃあ決まりな。
今日は晩飯簡単にして、一休みしたら風呂入ろうぜ」
「はい」
――――――――――――――――
そうして俺たちは二人で簡単な食事を作って食べ、少し休んでから風呂場に向かった。
「お前が元々着てた服、一応洗っておいたから、風呂出たらこれを着たらいいからな」
「はい」
「じゃあ脱ぐか」
2人してそれぞれさっさと服を脱いで裸になる。
人間の姿のタロの裸を見るのは初めてだったが、見たところ人間の子供と変わりないようだった。
「……ん?
これ、ほくろか?
いやにたくさんあるな」
タロのお腹には両脇それぞれに縦に並んで3つずつ、合計6つの小さなほくろのようなものがあった。
ほくろとは言っても色は濃い茶色で、少しふくらんでいるので、むしろ小さいできものと言った方がいいかもしれない。
「え? これ、お乳ですよ。
あれ? でもなんで上の2個は普通なのに、下のは小さくなっちゃってるんでしょう?」
「あー、なるほど、お乳か」
そういえば、犬のタロの腹をなでてやる時、ぽつぽつと小さい乳首が並んでいたような気がする。
「たぶん、人間はお乳が2つしかないから、他のは小さくなってるんだよ。
ほら、俺も2つしかないだろ?」
「あ、なるほど。
きっとそうですね」
タロが納得したところで、俺たちは風呂場に入った。
互いに背中の流しっこをしたりしながら体を洗い、2人で湯船に入る。
浴槽はごく普通のサイズだが、タロが小さいので2人で入っても狭くはなかった。
「そうだ、タロ。
見てろよ」
俺は濡らしたタオルで風船のように空気をためて、それを湯船に沈めてから、ボコッと大きな泡を作ってやった。
「わっ!」
目の前に大きな泡が浮かんできたの見て、タロは驚いた声を上げ、目を丸くしている。
「もう一回!
ご主人様、もう一回見せて下さい!」
「おお、いいぞ」
リクエストに答えてもう一度やってやると、タロはまた目を丸くしていた。
「タロもやってみるか?
教えてやるよ」
「はい、お願いします!」
教えると言っても、やり方は簡単だ。
タロにタオルを持たせて、手を取ってやり方を教えてやると、タロはすぐに自分で泡を作れるようになった。
「できました!」
「うまいうまい」
タオル風船はタロのお気に召したようで、タロは何度も何度も泡を作っていた。
大きな泡だけでなく、湯船の中でタオルをぎゅっと握ってブクブクと小さい泡を作ったり、風呂の底からタオル風船をぷかっと浮かべたりと飽きもせず遊んでいる。
これ、俺も子供の時によくやったんだよな。
人間の時のタロは大人びた話し方をするし、俺の世話もよく焼いてくれるので、大人のような気がしているが、こういうところを見ると、やっぱりまだ子犬なんだよなと思う。
――――――――――――――――
タロが遊びに夢中になってのぼせてしまう前に、俺たちは風呂を出た。
「タロ、人間で風呂に入るのは気持ちよかったか?」
「はい、気持ちよかったし、楽しかったです!」
「そうだな、俺も楽しかったよ。
また一緒に入ろうな」
「はい、ぜひ!」
そうして俺たちはタロが犬に戻るまで、冷たい麦茶を飲みながら風呂上がりの時間をまったりと過ごしたのだった。
ちなみに余談になるが、後日タロの腹にあった小さなお乳について調べてみると、人間にもまれに小さな乳首のようなものが1つか2つついている人がいることがわかった。
副乳と言って、人間が進化する前にたくさん乳首があった頃の名残りらしい。
人体の神秘である。
タロはいつも着ている服ではなく俺が買ってやった服を着て、ちょっと元気がなさそうな様子で立っていた。
「タロ! 昨日も人間になったばっかりなのに大丈夫なのか? 無理してないか?」
「はい、大丈夫です。
昨日はすぐ犬に戻ってしまって、人間になる力をほとんど使わなかったので。
それよりご主人様、昨日はせっかく洋服まで買ってもらったのに、お出かけできなくてすみませんでした。
僕、人間の姿ではこの家から出られないって知らなくて……。
今日聞いてみたら、力が強くなったら家から出られるようになるけど、それには今よりももっとずっと力をつけないといけないって言われて……」
「あー、そうなのか」
「ご主人様、もう少し待ってください!
僕もっとがんばって力をつけて、人間の姿でもご主人様と一緒にお出かけできるようになりますから」
「いや、無理してがんばらなくてもいいぞ。
人間の姿では出かけられなくても、犬の姿だったら毎日でも一緒に出かけられるし、それに外に出なくても家の中で一緒にできることもいっぱいあるからな。
確かに俺も人間の姿のお前と出かけるの楽しみにはしてたけど、だからといってお前が無理したりつらい思いをしたりしてまで出かけるようになりたいとは思わないからさ。
だから別に今のままでも十分だからな?」
そう言い聞かせるとタロは「ありがとうございます」と言って微笑んだ。
「じゃあ無理しない程度にがんばりますね!」
「あー……、うん、ほどほどにな」
そういえば忘れていたが、タロは案外頑固で負けず嫌いなところがあるのだった。
階段の上り下りの時も俺が言ってもやめなかったから、たぶん今回もいくら言っても無駄だろう。
タロがどういう方法で頑張って力を強くするのかはわからないが、危ないことや体力的に無理なことをしないように、さりげなく見張っておかなければいけないなと俺は思う。
「あ、そうだ。
出かける代わりと言ってはなんだけど、よかったら一緒に風呂に入らないか?
お前、結構風呂好きだろ?
犬の時も気持ちいいだろうけど、人間の姿で一緒に話をしながら入るのも楽しいと思うぞ」
犬は風呂が好きな子と嫌いな子がいるらしいが、タロはたぶん風呂が好きな方だと思う。
俺が風呂に入る時に時々一緒に入って洗ってやるのだが、タロは洗われている時もおとなしくしているし、お湯を入れたタライに入れてやると、なんとなく気持ちよさそうな顔をしているからだ。
「いいですね。僕、お風呂好きだし、この姿でご主人様と一緒に入ったら楽しそうです」
「よし、じゃあ決まりな。
今日は晩飯簡単にして、一休みしたら風呂入ろうぜ」
「はい」
――――――――――――――――
そうして俺たちは二人で簡単な食事を作って食べ、少し休んでから風呂場に向かった。
「お前が元々着てた服、一応洗っておいたから、風呂出たらこれを着たらいいからな」
「はい」
「じゃあ脱ぐか」
2人してそれぞれさっさと服を脱いで裸になる。
人間の姿のタロの裸を見るのは初めてだったが、見たところ人間の子供と変わりないようだった。
「……ん?
これ、ほくろか?
いやにたくさんあるな」
タロのお腹には両脇それぞれに縦に並んで3つずつ、合計6つの小さなほくろのようなものがあった。
ほくろとは言っても色は濃い茶色で、少しふくらんでいるので、むしろ小さいできものと言った方がいいかもしれない。
「え? これ、お乳ですよ。
あれ? でもなんで上の2個は普通なのに、下のは小さくなっちゃってるんでしょう?」
「あー、なるほど、お乳か」
そういえば、犬のタロの腹をなでてやる時、ぽつぽつと小さい乳首が並んでいたような気がする。
「たぶん、人間はお乳が2つしかないから、他のは小さくなってるんだよ。
ほら、俺も2つしかないだろ?」
「あ、なるほど。
きっとそうですね」
タロが納得したところで、俺たちは風呂場に入った。
互いに背中の流しっこをしたりしながら体を洗い、2人で湯船に入る。
浴槽はごく普通のサイズだが、タロが小さいので2人で入っても狭くはなかった。
「そうだ、タロ。
見てろよ」
俺は濡らしたタオルで風船のように空気をためて、それを湯船に沈めてから、ボコッと大きな泡を作ってやった。
「わっ!」
目の前に大きな泡が浮かんできたの見て、タロは驚いた声を上げ、目を丸くしている。
「もう一回!
ご主人様、もう一回見せて下さい!」
「おお、いいぞ」
リクエストに答えてもう一度やってやると、タロはまた目を丸くしていた。
「タロもやってみるか?
教えてやるよ」
「はい、お願いします!」
教えると言っても、やり方は簡単だ。
タロにタオルを持たせて、手を取ってやり方を教えてやると、タロはすぐに自分で泡を作れるようになった。
「できました!」
「うまいうまい」
タオル風船はタロのお気に召したようで、タロは何度も何度も泡を作っていた。
大きな泡だけでなく、湯船の中でタオルをぎゅっと握ってブクブクと小さい泡を作ったり、風呂の底からタオル風船をぷかっと浮かべたりと飽きもせず遊んでいる。
これ、俺も子供の時によくやったんだよな。
人間の時のタロは大人びた話し方をするし、俺の世話もよく焼いてくれるので、大人のような気がしているが、こういうところを見ると、やっぱりまだ子犬なんだよなと思う。
――――――――――――――――
タロが遊びに夢中になってのぼせてしまう前に、俺たちは風呂を出た。
「タロ、人間で風呂に入るのは気持ちよかったか?」
「はい、気持ちよかったし、楽しかったです!」
「そうだな、俺も楽しかったよ。
また一緒に入ろうな」
「はい、ぜひ!」
そうして俺たちはタロが犬に戻るまで、冷たい麦茶を飲みながら風呂上がりの時間をまったりと過ごしたのだった。
ちなみに余談になるが、後日タロの腹にあった小さなお乳について調べてみると、人間にもまれに小さな乳首のようなものが1つか2つついている人がいることがわかった。
副乳と言って、人間が進化する前にたくさん乳首があった頃の名残りらしい。
人体の神秘である。
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