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第一章

初夜⑧ ※

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「俺は嫌いじゃない」
 腰を下げたイアンはオリヴィアの背中に流れた髪をそっと払い退けてからキスを落とした。傷を癒すように優しく触れるだけの感触に彼女は身じろいだ。キスをするだけじゃなく、唇で吸われて彼女の背中が仰け反った。
 初めて近くで目にする鞭の後は、染み一つなかった表と真逆だった。鞭で叩かれた事で出来た傷跡が生々しく残っている。傷が完治する前に鞭で叩かれて完治する事を許されずに残った痕だ。傷の上に新たな皮膚が出来、その皮膚を更に傷めつけられ──血を大量に流しただろう。服に染みた血の一文を報告書で目にした。それをアンが涙して治療をした事もあった。アンは自分の不甲斐なさを毎日感じていただろう──俺が彼女の立場に居たらそうだっただろうから。
 この傷を残した第四皇女はもうこの世にいない。子供だろうが容赦なく、この手で殺めたのだから。
(オリヴィアが六歳の頃、連れ去っていれば)
 後悔しなかった日はない。だからと言って、この傷を可哀想だと同情はしない。傷つけた人間は嫌悪してもオリヴィア自身を憐れだと思わない。彼女の過去も現世も未来も全て、濁りなく愛おしく思う。だから、傷跡を醜いと思わない。どうすれば消えるか、と奔走しない。ただこの背中と首の傷跡も、彼女が負った過去全てを幸福で包み込んでくれたら、と願う。未来永劫──それ以外望まない。その幸福を与えているのが、俺ならば何も文句はない。
「俺はオリヴィアの全部を愛してる」
 背中に熱い吐息と共に呟きながら、オリヴィアの躰のラインをなぞるように指先で撫でた。「わたしも」とオリヴィアは呟いた。「好き」という言葉は結婚記念日に言う予定だから大事な言葉は心の中で吐く。
 伝わったのか背中越しに「俺も愛してる」と返ってくる。
 彼女は躰を下にずらして自分の後頭部をイアンの胸に擦り寄せた。その頭にイアンは軽くキスを落とす。
「いいか……?」
「うん」
 声が裏返った気はしたものの、オリヴィアはイアンの指先の感触に集中する事にした。
 太腿に辿り着いたイアンは掌で太腿を何度も往復して撫でつけて彼女の上側の膝を曲げて軽く持ち上げ、下側の脚をイアンは自分の脚で絡めて密着する。
 オリヴィアはお尻に硬い物が触れ、布の感触はなく、濡れている感触があって思わずブルりと震えてしまう──期待からのものだった。
 グイっと膝を持ち上げられてトロトロに濡れそぼったそこに硬い物が当って、下から上に向かうように楔が突き入れられた。
「あぁ、ああああああっ、あ、あ、つ」
 熱くて指と比べ物にならない太い物が躰を押し広げる。その衝撃にオリヴィアは金魚のように口をパクパクされた。侵食する音が聞こえる。
「はー、ふー、はーっ、はっ、はっ」
 オリヴィアは息を整えるように深呼吸を繰り返した。イアンは苦し気な彼女の耳にキスを落とし、落ち着くのを待った。
「苦しい?」
「だ、だいじょうっ……」
 落ち着いてくれるまで待ってくれるイアンの優しさに「やっぱり好き」という気持ちが大きくなっていく。
「イアン……おちついた、かも……」
 と言葉で伝えると、ペロリと舌で耳を舐められる。犬のような仕草にオリヴィアは思わず頬を緩めた。
「まだ、全部挿っていないんだが……大丈夫そうか?」
(全部はいる? お腹くるしいのに?)
「ん?」と首を傾げて脚に力を入れると「うっ」と苦しそうな声が聞こえてオリヴィアは反射的に謝った。
(挟んでみた感覚は……充分入っていたような気がする、けど……)
「リヴィ」
 名を囁くように呼ばれ、ゆっくりと腰が進んで行くのに、まだ自分の行き止まりまで進んでいなかった事を知った。
「あ、っ……あぁあああ、あっ」
 何度もあの男皇帝から挿れられた時の感覚とは全く違った。熱も質量も長さも太さも硬さも──全く違うものと知らず、さっきまで自分の中にあったそれが全てだと思ったけど……実際は想像していないものだった。
(こ、こんな、太いのも、奥……はいるものなのっ……?)
 指は細いから入るのは分かる。でも、こんなに太いのがはいるなんて、私は聞いてない──。
 肉壁は肉棒を押し戻そうと蠢き、イアンを締め付ける。その動きに反してゆっくりと腰を勧め、トンと当たった。食い千切られるような感覚にイアンは息を吐く。そこが行き止まりだと知って、イアンは腰を下から突き上げるようにゆっくりと動かした。
 その亀頭で腹の裏を刺激され、指とは比べものにならない快感を生む。グリッと押される感覚。それから蜜壺からズルリと抜けた後にグイっと挿れられて、それを何度も同じように突かれ、痛みはないのに、何故か涙が流れてきて、ぐちゃぐちゃに顔を涙で汚してしまう。
 パンパンと肉がぶつかる音と水滴の音で聴覚まで犯された感覚が躰全体を麻痺させたようにしてしまう。全身が気持ち良いと叫んでいた。
「あぁあ、ん、あっ、はっ、んっ」
「可愛い……本当に可愛いよ、リヴィ」
「ひゃあ、んっ、あっ、イアンっ、イアンっ」
 名前を呼ぶと愛おしそうに背中にキスを落とされた。
「イアン、イアンっ」
「ここにいるよ、リヴィ」
 腰が止まることなく、ギュッと抱き締められる。イアンの手はオリヴィアの柔らかい胸へと伸びた。そっと下から乳房を持ち上げられて、新たな刺激に腰をくねらせた。
 ふわふわでマシュマロを触っている感触にイアンの肉棒は更に太さを増して彼女は更に身悶える事になる。
 
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