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第二章
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「——————っ。それを、今俺に言うのっ…」
その瞳は真摯に久賀を見つめた。
純粋に、薫と会ってお喋りを楽しみたいのだろう。しかし、その言葉は久賀にとっての起爆剤だった。
久賀は雪を大事に大事に箱から出さず、外部から遮断し、自分だけが愛でて、自分の手から食事を摂取すれば良いとまで思っているし、潔癖である筈なのに雪の排泄ならば自分が面倒を見ても構わないとまで思っていた。
しかし行動に移さないのは嫌われたくないという、雪と出会った事によって久賀の中に生まれた今までになかった、弱さという人間らしい心だった。しかしその感情はここ最近は不安定だ。
いくら、お願いをなんでも聞いてくれるとしても欲望をぶつければ、失敗すれば嫌われてしまう。
童貞ならまだしも経験豊富であるにも関わらず、雪に対して弱り腰だった。一つでも誤れば、腕の中の少女は居なくなるだろう。失敗をしたくなかったから、久賀は由希を犠牲にした。必要な犠牲だ。
嫌われる事を極端に怖がるが、雪の「なんでも言うことをにきく」は何をしても許されるという大義名分だった。
雪は北から反動が大きいからと注意はされたが、久賀を信頼しきっている。
久賀が自分を傷つけるような事はしないという自信はあった。
ただ、純粋に薫に会わせてもらえるなら、何でもお願いをきくし、叶えたい。またお世話になっている久賀にそれくらいするのは当然では?とさえ思っている。本来ならば、そういう条件は発生せず、自由に会わせて貰えるのだが。
「つい先日言ったでしょ? 拒否はできないって」
「頑張ります!! お風呂を沸かしてから、お背中お流ししましょうか?」
「それもきいてくれる一つだったね。それは今度お願いしようかな」
その言い方だと、何個もあるの?
そういえばこの間、二つあるような言い方だった。
「本当に何でも、だね? 二言はないと」
「ありません!」
多少上擦った久賀に気付かず雪は大きく頷いた。
痛い事はされないだろう。
つい先刻、殴る事はない、と言ったのだから。
久賀様は嘘は吐かない。雪には久賀に何をされるか全く持って想像が出来なかった。もしや、久賀が好きだと言う胸のことに関してかもしれないと頭の片隅で思う。しかし、小さなこの胸をどうされるかなど、乏しい想像力は働かなかった。
久賀は雪を再度、ぎゅっと抱きしめると、背中越しに雪の右耳に顔を近付け————息を吹きかけた。
「ひゃあっ!? 何するんですかっ!?」
突然右耳に息を吹きかけられた顔を真っ赤にして耳を抑える仕草をした。そんな雪を見て久賀は「可愛いな」と連呼しながら声を出して笑った。緊張していた雪は拍子抜け、雪も釣られて笑ってしまう。
それが、始まりの合図だと雪は思ってもおらず、この時はまだ穏やかな空気が流れていたのだった。
その瞳は真摯に久賀を見つめた。
純粋に、薫と会ってお喋りを楽しみたいのだろう。しかし、その言葉は久賀にとっての起爆剤だった。
久賀は雪を大事に大事に箱から出さず、外部から遮断し、自分だけが愛でて、自分の手から食事を摂取すれば良いとまで思っているし、潔癖である筈なのに雪の排泄ならば自分が面倒を見ても構わないとまで思っていた。
しかし行動に移さないのは嫌われたくないという、雪と出会った事によって久賀の中に生まれた今までになかった、弱さという人間らしい心だった。しかしその感情はここ最近は不安定だ。
いくら、お願いをなんでも聞いてくれるとしても欲望をぶつければ、失敗すれば嫌われてしまう。
童貞ならまだしも経験豊富であるにも関わらず、雪に対して弱り腰だった。一つでも誤れば、腕の中の少女は居なくなるだろう。失敗をしたくなかったから、久賀は由希を犠牲にした。必要な犠牲だ。
嫌われる事を極端に怖がるが、雪の「なんでも言うことをにきく」は何をしても許されるという大義名分だった。
雪は北から反動が大きいからと注意はされたが、久賀を信頼しきっている。
久賀が自分を傷つけるような事はしないという自信はあった。
ただ、純粋に薫に会わせてもらえるなら、何でもお願いをきくし、叶えたい。またお世話になっている久賀にそれくらいするのは当然では?とさえ思っている。本来ならば、そういう条件は発生せず、自由に会わせて貰えるのだが。
「つい先日言ったでしょ? 拒否はできないって」
「頑張ります!! お風呂を沸かしてから、お背中お流ししましょうか?」
「それもきいてくれる一つだったね。それは今度お願いしようかな」
その言い方だと、何個もあるの?
そういえばこの間、二つあるような言い方だった。
「本当に何でも、だね? 二言はないと」
「ありません!」
多少上擦った久賀に気付かず雪は大きく頷いた。
痛い事はされないだろう。
つい先刻、殴る事はない、と言ったのだから。
久賀様は嘘は吐かない。雪には久賀に何をされるか全く持って想像が出来なかった。もしや、久賀が好きだと言う胸のことに関してかもしれないと頭の片隅で思う。しかし、小さなこの胸をどうされるかなど、乏しい想像力は働かなかった。
久賀は雪を再度、ぎゅっと抱きしめると、背中越しに雪の右耳に顔を近付け————息を吹きかけた。
「ひゃあっ!? 何するんですかっ!?」
突然右耳に息を吹きかけられた顔を真っ赤にして耳を抑える仕草をした。そんな雪を見て久賀は「可愛いな」と連呼しながら声を出して笑った。緊張していた雪は拍子抜け、雪も釣られて笑ってしまう。
それが、始まりの合図だと雪は思ってもおらず、この時はまだ穏やかな空気が流れていたのだった。
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