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一章
残滓から一流へ
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次の瞬間、野次馬全体がどよめいた。
残滓が勝った。
元ゴールドランカーの副ギルド長が子ども扱いだ。
残滓が魔法を使っていた。最後は何が起こったのか見えなかった。
実はアイツ、強かったのか。等々。
「お前さん、何モンだ? 俺はこれでも元ゴールドランカーだし、腕だって鈍っちゃいねえつもりだ。それなのに簡単にあしらわれちまうとはなぁ」
うん、まあそうかも知れない。その気になれば初撃の火の魔法で仕留める事は出来た。でもそれは副ギルド長が僕を格下と見て、先手を譲ってくれたからで、真剣勝負なら展開は違っていたと思うよ。
……それでも負けはしないけどね。
「お前さん……魔法、無詠唱で使ってたよな? しかも四属性全部」
「え、まあ……」
「よし、決めた。ああ、今日はもういいぜ? ブロンズ如きが手に負えるヤツじゃねえってのが分かりゃ良かったんだしな」
ちょっと何を決めたのか不安になるけど、デライラが自ら濡れ衣を着ようとしたのを防げたのならまあ良しとするかな。
あと、副ギルド長が無詠唱がどうのこうのと言ってたけど、魔法は本来精霊に何をどうするのか具体的に命令した方が効果が高くなるって言われている。
でも僕の場合、言っても叫んでも一向に精霊達がいう事を聞いてくれないので、いつしか言葉に出す事をためらうようになってしまった。だって恥ずかしいじゃない? 傍から見れば、あいつ、また魔法失敗してるぜ、とか、何独り言言ってんだ? みたいな感じになっちゃうからね。
なので、どの属性の精霊に何をやらせたいのかなんてのは、イメージを思念で伝えるようになっていた。たまに、気分が高揚してたり興奮してたりすると口に出しちゃうけど。
でもこれはウイザードにとってとても有効な事に気付いた。さっきの副ギルド長との模擬戦でもそうだったけど、無詠唱っていうのは相手に何をするのか悟らせないっていうアドバンテージがある。例え言葉が通じない相手だとしても、詠唱するっていう『事前告知』をせずに攻撃する訳だから、やはり有効だ。
僕と副ギルド長が撤収を始めると、見物していた野次馬も散っていく。現在ダンジョン内に入っている冒険者達が戻って来たら、休憩時間を挟んで街に戻るそうなので、各々撤収作業に入るらしい。
僕達はというと、殆どの荷物は影の中に収納しているのでこれと言った作業はない。でも、丸一日以上ダンジョンに潜っていたので、かなりお腹が空いてしまった。
「ノワール、食事にしようか。人目に付かない場所で」
「はい!」
(我も! 我も!)
影の中からアーテルの声が聞こえて、僕等は思わず苦笑した。
△▼△
街への帰路は三日間掛かった。それは帰りの方が魔物の素材などで格段に荷物が多くなってしまったのもあるし、移動と戦闘の疲れから、冒険者達の足どりが重かったせいもある。
大きな素材などはダンジョンの外でギルド職員が査定し、その場で買い取り作業を行っていた。ただ、現金の引き渡しは街に戻ってから冒険者ギルドの窓口で、という事になる。
素材運搬用の荷馬車も十台以上手配していたようで、その護衛も兼ねてのんびりとした移動になった。
「ショーンさん、ノワールさん、ギルド長が執務室でお呼びです」
街に戻り、冒険者ギルドで換金を済ませると、受付嬢のパトラさんがそんな事を言う。まあ、話はデライラ達の事だろう。
ちょっと緊張しながら、別の職員さんに案内されて二階のギルド長の執務室へと向かう。中央に廊下があり、両サイドにいくつかのドアが並んでいる。そしてその廊下の突きあたりがギルド長の執務室だ。
「アイアンランカーのショーンさんとブロンズランカーのノワールさんをお連れしました」
「どうぞ。入ってもらって」
職員さんがノックをしながらそう告げると、中から落ち着いた女性の声が返ってきた。
「失礼します」
ドアを開いて中に入ると、正面奥には重厚な木製の執務机があり、そこに山積みになっている書類の影に隠れるように、何かしらペンを走らせている人物が見えた。その人物の背後に窓があるため、こちらからは逆光になり、その姿はよく見えない。
「少し待っててね。そこのソファに座っててちょうだい」
そう言われたので、僕とノワールは並んで座る。お尻が埋まるかと思う程の柔らかいソファだ。
「お待たせ。顔を合わせるのは初めてよね。ギルド長のサマンサよ」
「ショーンです。こっちはパーティメンバーのノワールです」
軽い挨拶と握手を交わし、それぞれ席に着いた。
このサマンサさん、年齢は三十代半ばくらいかな? ブロンドの髪をアップにまとめ、銀縁のモノクルを掛けている。なんともインテリジェンスな雰囲気だ。
「イヴァンから報告は聞いているわ。腕の方もダンジョンでの実績も申し分ないわね」
「イヴァンさん……ですか?」
「ああ、副ギルド長よ。あの脳筋、名前も名乗ってないのね……」
いや、副ギルド長の名前を憶えていない僕の方がダメなんだろうな、多分。それにしても、報告ってなんだろう?
「例のデライラの件はこちらに任せてもらうわ。デライラに関しては悪いようにはしない。あと、他のバカ二人に関しても、生きていた事を後悔したくなる場所で働かせるから安心してちょうだい」
え?
なにそれ怖い。でもまあ、それなら納得できるかな。
「それから直接手を下したあなたに関しては不問ね。ただ……あなたの、ウサギの事は……保証や賠償というのは出来ないの」
ギルド長曰く、あくまでも殺されたのはペットであり、罪には問えないという。これが貴族のペットとかなら別問題なのだそうだけど。大切な家族に人間も動物も関係ないと思うけど、申し訳なさそうなギルド長を見ると、喉まで出掛かった言葉を飲み込んでしまう。
それに、厳密に言うとノワールは嘗ての力を取り戻している。これはこれで良かったと思うしかないんだろうね。
「そして、今日の本題ね。ショーン、あなたは今日からゴールドランクになります。ノワールはアイアンランクね」
は?
どうして?
僕、アイアンなんですけど! 間のシルバーが抜けてますけど!
僕が唖然とした表情でいると、ギルド長が呆れた表情で言った。
「まあ、その反応も分からなくもないのだけど……あなた、あのイヴァンを模擬戦で軽くあしらったそうじゃない? 彼、現役のゴールドランクにも負けてないわよ? それより強いあなたをシルバー以下にしておく理由がないじゃない?」
ああ、あの時決めたって言ってたのはこの事だったのか……
でも特例で二階級特進だなんて、また他の冒険者の視線が痛くなるなぁ。
「それからね、あなたが売却した魔物の素材の中に、オーガのものが入ってたの気付いてた?」
「あ……」
失敗した!
オーガは地下六階層以降じゃないといないんだった!
「……つい、行きすぎちゃって。気付いたら六階層になってました」
「まあ、そんな事だろうと思ったけど……気を付けなさい。ついうっかりで死んじゃったらバカみたいでしょ?」
「はい……」
ホントにうっかりだったなあ。オーガの素材があったなんて全然気付かなかった。
もっと凄い素材もたくさんあるんだけど、うっかり出さなくて良かった。
「そんな訳で、オーガと戦って生還できるノワールも、アイアン以上の力があると判断しました」
そしてギルド長は、僕の名前が刻印された金色に輝くタグと、ノワールの名前が刻印された鈍い銀色のタグを箱から取り出した。
「おめでとう。今日からあなたは一流冒険者です。大切なものを奪われないように、これからも頑張りなさい」
ちらりとノワールの方を見ながら、ギルド長はタグを手渡してきた。
残滓が勝った。
元ゴールドランカーの副ギルド長が子ども扱いだ。
残滓が魔法を使っていた。最後は何が起こったのか見えなかった。
実はアイツ、強かったのか。等々。
「お前さん、何モンだ? 俺はこれでも元ゴールドランカーだし、腕だって鈍っちゃいねえつもりだ。それなのに簡単にあしらわれちまうとはなぁ」
うん、まあそうかも知れない。その気になれば初撃の火の魔法で仕留める事は出来た。でもそれは副ギルド長が僕を格下と見て、先手を譲ってくれたからで、真剣勝負なら展開は違っていたと思うよ。
……それでも負けはしないけどね。
「お前さん……魔法、無詠唱で使ってたよな? しかも四属性全部」
「え、まあ……」
「よし、決めた。ああ、今日はもういいぜ? ブロンズ如きが手に負えるヤツじゃねえってのが分かりゃ良かったんだしな」
ちょっと何を決めたのか不安になるけど、デライラが自ら濡れ衣を着ようとしたのを防げたのならまあ良しとするかな。
あと、副ギルド長が無詠唱がどうのこうのと言ってたけど、魔法は本来精霊に何をどうするのか具体的に命令した方が効果が高くなるって言われている。
でも僕の場合、言っても叫んでも一向に精霊達がいう事を聞いてくれないので、いつしか言葉に出す事をためらうようになってしまった。だって恥ずかしいじゃない? 傍から見れば、あいつ、また魔法失敗してるぜ、とか、何独り言言ってんだ? みたいな感じになっちゃうからね。
なので、どの属性の精霊に何をやらせたいのかなんてのは、イメージを思念で伝えるようになっていた。たまに、気分が高揚してたり興奮してたりすると口に出しちゃうけど。
でもこれはウイザードにとってとても有効な事に気付いた。さっきの副ギルド長との模擬戦でもそうだったけど、無詠唱っていうのは相手に何をするのか悟らせないっていうアドバンテージがある。例え言葉が通じない相手だとしても、詠唱するっていう『事前告知』をせずに攻撃する訳だから、やはり有効だ。
僕と副ギルド長が撤収を始めると、見物していた野次馬も散っていく。現在ダンジョン内に入っている冒険者達が戻って来たら、休憩時間を挟んで街に戻るそうなので、各々撤収作業に入るらしい。
僕達はというと、殆どの荷物は影の中に収納しているのでこれと言った作業はない。でも、丸一日以上ダンジョンに潜っていたので、かなりお腹が空いてしまった。
「ノワール、食事にしようか。人目に付かない場所で」
「はい!」
(我も! 我も!)
影の中からアーテルの声が聞こえて、僕等は思わず苦笑した。
△▼△
街への帰路は三日間掛かった。それは帰りの方が魔物の素材などで格段に荷物が多くなってしまったのもあるし、移動と戦闘の疲れから、冒険者達の足どりが重かったせいもある。
大きな素材などはダンジョンの外でギルド職員が査定し、その場で買い取り作業を行っていた。ただ、現金の引き渡しは街に戻ってから冒険者ギルドの窓口で、という事になる。
素材運搬用の荷馬車も十台以上手配していたようで、その護衛も兼ねてのんびりとした移動になった。
「ショーンさん、ノワールさん、ギルド長が執務室でお呼びです」
街に戻り、冒険者ギルドで換金を済ませると、受付嬢のパトラさんがそんな事を言う。まあ、話はデライラ達の事だろう。
ちょっと緊張しながら、別の職員さんに案内されて二階のギルド長の執務室へと向かう。中央に廊下があり、両サイドにいくつかのドアが並んでいる。そしてその廊下の突きあたりがギルド長の執務室だ。
「アイアンランカーのショーンさんとブロンズランカーのノワールさんをお連れしました」
「どうぞ。入ってもらって」
職員さんがノックをしながらそう告げると、中から落ち着いた女性の声が返ってきた。
「失礼します」
ドアを開いて中に入ると、正面奥には重厚な木製の執務机があり、そこに山積みになっている書類の影に隠れるように、何かしらペンを走らせている人物が見えた。その人物の背後に窓があるため、こちらからは逆光になり、その姿はよく見えない。
「少し待っててね。そこのソファに座っててちょうだい」
そう言われたので、僕とノワールは並んで座る。お尻が埋まるかと思う程の柔らかいソファだ。
「お待たせ。顔を合わせるのは初めてよね。ギルド長のサマンサよ」
「ショーンです。こっちはパーティメンバーのノワールです」
軽い挨拶と握手を交わし、それぞれ席に着いた。
このサマンサさん、年齢は三十代半ばくらいかな? ブロンドの髪をアップにまとめ、銀縁のモノクルを掛けている。なんともインテリジェンスな雰囲気だ。
「イヴァンから報告は聞いているわ。腕の方もダンジョンでの実績も申し分ないわね」
「イヴァンさん……ですか?」
「ああ、副ギルド長よ。あの脳筋、名前も名乗ってないのね……」
いや、副ギルド長の名前を憶えていない僕の方がダメなんだろうな、多分。それにしても、報告ってなんだろう?
「例のデライラの件はこちらに任せてもらうわ。デライラに関しては悪いようにはしない。あと、他のバカ二人に関しても、生きていた事を後悔したくなる場所で働かせるから安心してちょうだい」
え?
なにそれ怖い。でもまあ、それなら納得できるかな。
「それから直接手を下したあなたに関しては不問ね。ただ……あなたの、ウサギの事は……保証や賠償というのは出来ないの」
ギルド長曰く、あくまでも殺されたのはペットであり、罪には問えないという。これが貴族のペットとかなら別問題なのだそうだけど。大切な家族に人間も動物も関係ないと思うけど、申し訳なさそうなギルド長を見ると、喉まで出掛かった言葉を飲み込んでしまう。
それに、厳密に言うとノワールは嘗ての力を取り戻している。これはこれで良かったと思うしかないんだろうね。
「そして、今日の本題ね。ショーン、あなたは今日からゴールドランクになります。ノワールはアイアンランクね」
は?
どうして?
僕、アイアンなんですけど! 間のシルバーが抜けてますけど!
僕が唖然とした表情でいると、ギルド長が呆れた表情で言った。
「まあ、その反応も分からなくもないのだけど……あなた、あのイヴァンを模擬戦で軽くあしらったそうじゃない? 彼、現役のゴールドランクにも負けてないわよ? それより強いあなたをシルバー以下にしておく理由がないじゃない?」
ああ、あの時決めたって言ってたのはこの事だったのか……
でも特例で二階級特進だなんて、また他の冒険者の視線が痛くなるなぁ。
「それからね、あなたが売却した魔物の素材の中に、オーガのものが入ってたの気付いてた?」
「あ……」
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「まあ、そんな事だろうと思ったけど……気を付けなさい。ついうっかりで死んじゃったらバカみたいでしょ?」
「はい……」
ホントにうっかりだったなあ。オーガの素材があったなんて全然気付かなかった。
もっと凄い素材もたくさんあるんだけど、うっかり出さなくて良かった。
「そんな訳で、オーガと戦って生還できるノワールも、アイアン以上の力があると判断しました」
そしてギルド長は、僕の名前が刻印された金色に輝くタグと、ノワールの名前が刻印された鈍い銀色のタグを箱から取り出した。
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